テンプレにおけるミステリアスキャラの基本能力は異常
ゲリラ投稿です。
23話です。
「さて、スレイ。一大イベントだよ。この組み分けがこの一年の明暗を分けると言っても過言じゃないからね」
俺、ニア、フィーネは玄関前の人だかりに混じって設置されたボードを見上げていた。
7つあるボードの枠外にはにはそれぞれ1~7までの数字が振られていて枠内には生徒達の名前であろう文字が書かれた札がピンで固定されていた。
ここからではよく見えないので前がちょっと空くまで待つ必要があるか。フィーネは待ちきれないのかぴょんぴょん跳ねてどうにか自分の名前を探そうとしている。なんか妙に子どもっぽくて微笑ましいな。
そう。組み分けイベントである。学生時代は気になる女子が同じクラスかどうかで友人と一喜一憂したもんだ。今回はそうさな、周りがほぼ知らない人だらけだから開き直ってどのクラスでも俺は問題ない。ちょっとでも気心の知れたフィーネやニア、ドジャーが一緒ならありがたいが7クラスもあってはバラける可能性は高いだろう。
自分のクラスを確認した生徒達が前の方からすいすいと退いて学園に吸い込まれていく。
後続から押されるような形で俺たちもばっちり名前が確認できる位置に来た。
「えっとスレイ…スレイ……あった。2組か」
「見つけた!僕も2組だよスレイ!」
「お、導かれてるなニア!これで隣の席だったりしたら運命を感じちゃうところだな」
「あはは、それはさすがにないんじゃない?」
和気藹々な雰囲気で和んでいる俺たちを余所に、フィーネは目を皿のようにして自分の名前を探している。俺も手伝ってやるか。
とりあえずまずは2組にいるかどうかの確認だな。フィーネ…フィーネ……あ、ドジャー発見。あいつも2組か。ん?クラス表を辿っていると気になる名前発見。【ジャック・ジェラード】。ポテ子が要注意と言っていた人物だ。どんなやつなんだろうか。
「うあぁ…1組とか…。スレイと初めてクラス離れたぁ…」
独りごちていると隣でフィーネががっくりと肩を落としていた。相変わらずスレイは愛されてるねー。
「あー、ドンマイ。あれだ、ほら、休み時間とかこっちのクラスに遊びに来ればいいじゃん。クラスが離れたくらいで俺たちの友情は変わらないさ」
スレイから借り受けた友情なのでちょっと複雑な気分だがここで慰めの言葉をかけないテンプレ主人公はいないだろう。
「毎時間行ってもいい?」
「いい、けど。…お前ひょっとして他に友達いないの?」
「いいいいいるわよ!余計なお世話よ!あんたに会いたいから遊びに行く…訳じゃないこともないんだからね!」
独特のツンデレ(?)を発揮してくれるフィーネ。友達、ほんまにおるんやろうか。ま、まぁ、元気そうで何よりだ。そういうことにしておこう。
☆☆☆
組み分けを確認した俺たちはもう特に用がなかったのでその場を後にして、探り探り新たな学び舎の中を進み、そしてそれぞれの教室の前についた。
「それじゃ、また休み時間にね!」
「あぁ。達者でやれよ」
「頑張るわ。だから絶対休み時間に会いましょうね!」
何度もそのセリフを繰り返してフィーネは1組の教室に入った。本当にスレイと離れるの嫌なんだなぁ。幼なじみの愛が重い。
「僕たちも入ろうか」
「そうだな」
ニアと連れ立って教室に入る。教室は日本のものとそう変わらない内装で、大学のような講義堂のようなものではない。黒板には席を表す四角い図形と席ごとに名前が割り振られて四角に書き込まれており、大変わかりやすい。
さて、俺はどこの席かな?テンプレ主人公の席って描写されてたりされてなかったりとちぐはぐだが概ね窓側で端の方の所謂主人公席である確率は高い。窓という小道具によって教室以外の視野を確保でき、何かとイベントの展開がしやすいからだ。
外から敵が来た際の発見者になるも良し、降り注ぐ柔らかな日差しを浴びながら教師の目につきにくい位置で惰眠をむさぼる気だるい性格を描写するも良し。とても良い席である。狙うはあの席だが、さてさて?
教室の西側に当たる左の席から順繰りに図表を見回す。とりあえずその列ににスレイの名前はなかった。かわりにここ数分でやたらと目にする名前を捕らえた。その名は【ジャック・ジェラード】。俺の言う主人公席に件の人物の名があった。その席の方を見やるが今は誰もその席には座っていない。
「あ、スレイ。僕らの席見つけたよ。と、隣同士」
「マジでか」
ニアが指さす図を見ると右列の端、その丁度真ん中の席にニア、その隣に俺の名が記されている。あれか。もう天がニアルートに行けと。そう導いているのか。
「いやぁ、導かれてんな、ニア」
「導かれてるね、スレイ」
くくくっ、と二人で静かに笑い合いながら妙なテンションになりながら席に着く。席に着くまでの短い間に「スレイ・ベルフォードだ…!」「あれが虚無の間の支配者…!」「オールカテゴリー美少女陥落兵器」などと方々でささやかれる。…スレイさん一体いくつ二つ名持ってるんすか。最後のなんなんすか。
「まさか本当に隣同士になるとは思わなかったね」
「いやほんとな。あれはフラグだったか」
気を取り直してニアとの会話を楽しむ。いやぁ、マジで癒やされるわ。ニアさんったらマジで心の空気清浄機だわ。
「フラグ?旗?」
「こうやって導かれる様な発言や行動をとることだよ」
「それがなんで旗なの?」
「あー…っとだな…」
この言語の由来はゲーム用語に基因するわけだが、PCがあるかどうかも怪しい状況でこれをきっちり説明するのはちょっと危険なのではないだろうか。
「それは電子機器等の基盤でスイッチを意味する専門用語だ。ニア・セルリアンよ」
音もなく、そいつは俺の背後から現れた。黒髪、黒目、そして整った顔に不適な自信をたたえるニヒルな微笑、スラッとした体格の男が立っていた。
「ニアの知り合いか?」
「え、スレイの知り合いじゃないの?」
「いや、俺記憶喪失だから判断つかねーよ」
突然現れた飄々とした謎の男をニアと見やる。
「これはつれないな同志ベルフォードよ。あれだけ吾輩の名前を気にするそぶりを見せていたではないか」
「…ひょっとしてあんたがジャック・ジェラードか?」
「そう。この吾輩こそがジャック・ジェラード。学園きっての問題児とは吾輩のことだ。ちなみに貴様とはこれが初対面だ」
自分で問題児とか言っちゃうのか。しかしこの男の先ほどの口ぶりからして俺の中でこの世界の技術力水準予想がまた上がってしまったのだが。この部屋の照明も寮と同じくソケット電球だし当然スイッチの概念はある。しかしフラグとかいう専門用語も存在しているということはひょっとしてPC、あったりする?
これまでの技術水準を目の当たりにして統合した結論から、俺も技術の発展について詳しくはないから確実なことは言えないが可能性はあるように感じる。
しかし俺でも説明しづらい単語をさらっと説明してのけたこの男は一体何者だろうか?物知り博士君的なポジションなのか?
「俺はともかく、どうしてニアのことを知っている?」
「名前は黒板を見ればわかる。まぁ昨日寮食でコーヒーやサンドイッチを嗜んでいたことは耳にしているがな。なに、なんでも知っておきたい性分なのだ。おっと、そうストーカーを見る目をするものではないぞ。吾輩コワクナーイ」
まさにそんな目で見ていた俺とニアにそう言うが特に態度を改める様子はない。これが彼の素の性格なのだろうか。確かに危険人物かも知れない。
あ、これ昨日ニアさんが立てたフラグか!うわ、濃そう。もう設定盛りまくってるのが一目でわかる雰囲気を醸し出してるわ。
俺は突然現れたこの男に言いようのない戦慄を感じたのだった。
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次話は明日の8時に投稿予定です。