剣なぞいらぬ(使えない)
10話。サブタイトル考えるの意外に面倒くさい(´・ω・`)
天啓という言葉をご存じだろうか?古くは神などの超自然物から与えられたお告げのことを指し、最近は突然のひらめきとかもそれを意味する。
それが来た。丁度ネーシャとフィーネに見送られて闘技場の舞台に上がるための階段を上がりきったときにスマートに負けるクールでクレバーな方法をひらめいたのだ。でも会長が実は某世紀末漫画の覇者拳王みたいな性格を隠していたら容赦なく死ねるが。
目線の先には会長、キャサリン・リリアーノが鬼ポテを傍らに侍らせて俺と同じように反対側の階段を上がってきたところだった。スレイと同い年のはずなのに漂う威厳、風格は壮年の女帝にも似た雰囲気を醸しだし、その中に気品が混じって彼女自体が一つの動く美術品のようだ。
まぁ胸を揉まれているときとか頭に血が上ってるときは年相応に女の子してるがな!
「逃げずに来たんですのね」
会長は心の中でセクハラされているとも知らず俺に話しかけてきた。
「あぁ。準備はバッチリだ」
負ける準備がな!俺の華麗な負けっぷりを見とけよ!
「そうですの。では、宣言どおりぐちゃぐちゃにしてやりますわ」
物騒な物言いに渇いた笑いが自然に出て足もいっしょに笑いそうになった。なんせアニメで見たから初見ではないにしても、これから俺が体験することはアニメではない現実のことなのだ。
スレイ・ベルフォードという主人公の体がどのくらい丈夫であろうとそれを操り体感する精神は鈴木康太郎たる俺なのだ。安穏と日本で暮らしてきた人間が、魔物との戦いの前線で通用するために磨いてきたらしい技を受けるのだ。
ちょっとこれは並大抵のことではない。初撃を受けた痛みでショック死すらあり得る。だってこれから受けるかもしれないのは人間より丈夫に出来ているであろう魔獣を殺す攻撃だもの。ビビらないわけないぜ。
そしてそんな力を行使する相手からぐちゃぐちゃ宣言だ。骨折だけですむとは思えない。
だから、負ける。完膚なきまでに、負けてやる。
「…?あなた武器はどうしましたの」
「ない。会長相手には必要ないな」
使えないからね!あと、女の子に向けて剣を振りかぶるとか一般的な日本人男子たる俺にはそれに耐えられる心のキャパシティが足りない。たとえヤンデレが襲ってきたとしても徒手格闘(乳揉み)が俺にはきっと限界である。
「すぐに吠え面かかせてやりますわ!!」
会長はそれを挑発と受け取ったのかものすごい勢いでにらみつけてくる。怖っ。いや、俺の言い方が悪かったよ。めんごめんご。とか言えない空気ですやん…。
じ、上等だ!ソッコーで吠え面かいてやんよ!
「貴様…会長を愚弄するのもいい加減にしろよ?」
突如、会長の後ろに侍っていたエイジャが俺の胸ぐらを掴んでいた。俺の反応できない速度で。傍目にもわかる怒気をはらんだ様子で俺を睨んでいる。
あれか。これが縮地か。びっくりした。びっくりして下半身がおしめりしそうになったぜ…。力つっよ。足が浮いてんだけど。
「おやめなさいエイジャ。これから決闘を行う相手にその振る舞いは生徒会陣営からの妨害ととられかねませんわ」
「っ!これは失礼しました」
敬愛しているであろう会長からの指摘にエイジャは慌てて俺の胸ぐらから手を離す。
こいつ会長が絡むとすぐポンコツになるな。鬼ポテトさんだな。脳みそジャガイモ。メークイーン的な意味で。
「でもわたくしを思っての行動でしょう。その忠義にこの決闘で応えて見せますわ」
「もったいなきお言葉です会長!なんと麗しくも凜々しい!」
「も、もう、褒めすぎですわよエイジャ」
傍から見れば美しい主従関係に見えるんだろうか。でも急に二人の世界を作るのはやめていただきたい。エイジャにおだてられた会長に少しだけ喜色ばんだ表情が窺える。会長は褒め殺しに弱いんだろうか。覚えとこう。
「さぁエイジャ。貴方が舞台に残ったままでは決闘を始められませんわ。セコンド席でわたくしの勇姿を見ていてくださいませ」
「御意に」
そう言うとエイジャはなぜか小芝居でも見せられた気分の俺の方に向かって歩いてきた。なんだ?会長の背後に舞台から降りる階段があるのにわざわざ俺の方にある階段を使おうとしているのだろうか。程なくしてエイジャとすれ違う。
「会長を傷つけたらぶっ殺す。食ったものが胃に入る前に外にこぼれる穴をこさえてやる」
すれ違いざまにそれだけ言うと鬼は俺の後ろの階段を降りて言った。
俺は視線を下げて股間の辺りを見つめる。
スレイの体でよかった。俺の体より膀胱が丈夫でよかった(震え声)。
おしめりを回避した俺は改めて会長に向き直る。…なんとかなるんだろうか。
次話は23時に投下します♪
13日23時 サブタイしっくりこないので変更。
ポテ子誕生→剣なぞいらぬ(使えない)