和の黒龍
「はぁ。良くお似合いです。雛斗様」
「確かに着心地は良いけど」
氷の惚けた表情に苦笑いしながら袖を伸ばして見る。
黒く、反対の手を悠々と差し込むことのできる開いた袖は心地よい重さだ。
あの後、俺と氷は桃香に連れられて街に繰り出した。
どこに連れていかれたのかと言うと、服屋だ。
どうやら俺のボロボロの服を見かねて新調しよう、ということらしい。
流石に辞退しようとしたけど氷にも手を引かれたから諦めた。
氷にも長くなった髪と同様に服のことも言われていたからだ。
服屋に入るなり店主を呼んで桃香と特に氷が服について細かく指示していたくらいだ。
具体的にはゆったりして、且(か)つ動きやすく、且つ動く際に邪魔にならず、且つ──後は聞くのをやめた。
桃香の意見を挟む余地がなかったくらい。
「動きやすいし、軽いね。うん。気に入った」
ちょっと胸が弾むのが自分でもわかった。
今の俺の服は和服。
日本の結婚式なんかで見かけそうな着物だ。
下に白の小袖を着てその上に裾から袖まで真っ黒なゆったりとした上着、下に履く袴は濃い藍色。
上着は胸の位置両方と両肩に円の中に龍がとぐろを巻くのを金で浮かび上げた装飾が入っている。
なんというかホントに和服だな。
「俺も意匠に加わったからな」
「一刀?」
奥から一刀が笑みを浮かべながら来た。
通りで和服みたいな服ができた訳だ。
和服なんてこの時代にはなかっただろうし。
霞は袴履いてるけど。
「雛斗にはそれが似合うと思ったからな」
「あ、おんなじ服も何着か頼んでおいたからボロボロにしても大丈夫だよ♪」
一刀に続けて桃香もにこにこした。
人にこうして服を作ってもらえると、なんかすっごい恥ずかしいな。
けど、
「ありがと、みんな。嬉しいよ」
頬が赤くなるのも構わず礼を言った。
「雛斗様、髪飾りを」
氷が既に自身もつけているのと同じ、黒龍の髪飾りを俺に差し出す。
「ありがと」
摘まみ取って、後ろ髪をまとめつつ首筋辺りでとめた。
後は前髪を切ればいい。
「似合ってるよ、雛斗さん♪」
「他の皆にも見せようか」
「ちょっと恥ずかしいな」
一刀に苦笑いして頬を掻いた。
でも胸は満たされている。
あの学校の制服は、大切に箪笥(たんす)に入れておこう。
俺が唯一、元の世界から来たという証でもあるから。
今はこの世界に来たという証を身に纏いたい。
霞か星に見せたらからかわれるな、と思ったけど見せたい自分がいたことにまた笑みが浮かんだ。




