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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第十三章.黒龍の脱皮
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主からの贈り物

「黒薙将軍。おはようございます」


片方の拳をもう片方の手で覆って見せる、昔の中国の挨拶をされた。


「これは糜竺殿。おはようございます」


それに対して俺も頭を下げて挨拶を返す。

伸びた髪が背中から垂れるのを感じた。

結構伸びてきたな、髪。

背中にとどくくらいまであるよ。

城の廊下を歩いていたところだ。

朝の定例会議に向かう途中で、俺の手には書類の束がある。

だいたいは新人の武将の評価と配属案の確認のための資料だ。


「これから会議ですか?」


文官の服の袖に手を差し込んで訊いた。

糜竺は徐州から桃香に付き従ってきた文官だ。

徐州から益州に向かう際、商人だった糜竺は家財を投じて桃香の大移動を援助した。

政の手腕も確かな忠臣中の忠臣だ。


「はい。私になにか御用でしょうか?」


糜竺とは挨拶を交わす関係にはあるけど、呼び止められることは少ない。

なにか用事がある、と感じた。


「はい。実は弟の糜芳のことなのですが」


その名を聞いてすぐに思い浮かんだ。

糜竺は文官だけど、弟の糜芳は武官の道を進んでいる。


「はっきりと糜芳の評価をお聞かせください」


「…………」


俺は糜竺をじっと見た。


「……正直に申し上げますと、武将としての腕は期待できません。だからといって知謀に才がある訳でもなく」


信用できない、というのは言わないでおいた。

糜芳はなにかと失敗を隠そうとする狡いところがある。

まるで点数の低いテストを隠そうとする子供のように。

いい大人なのにそんなことをするのは、俺としては信用に価しなかった。


「やはりそうですか。……黒薙将軍のお力で、なんとかできないものでしょうか?」


糜竺も感付いてはいるのだろう。

兄なら尚更だった。


「本人にやる気が見えません。私が強要したところで、仮病などを使って逃げるでしょう」


「黒薙将軍なら」


「雛斗~。会議に遅れるぞ~」


糜竺が言いかけたところで一刀ののんびりした声が廊下の曲がり角から聞こえた。


「……糜竺殿。一応、糜芳のことは気にかけましょう。しかしどうこうすることはできないと思われよ」


「……わかりました。私からも糜芳に申し付けましょう。お呼び止めして、申し訳ありません」


「こちらからもお願いします。では会議がある故、失礼」


挨拶をして、糜竺の返しの挨拶を見届けてからその場をあとにした。


───────────────────────


「氷ってさ、どうやって俺の黒槍持ち歩いてるの?」


氷に黒槍を渡しながら訊いた。

調練終わりの昼頃だ。

調練場から兵が隊列を解いて持ち場に向かう。

今日は氷と一緒に調練をした。

氷も経験を積んで、用兵に冴えが出てきた。


「秘密です」


俺から槍を受け取りながら氷は言った。


「……星になにか教わった?」


「おわかりになりましたか? 女は秘密がある方が魅力的だそうで」


「氷には星らしくなって欲しくないんだけどな……」


呆れて苦笑いした。

星には秘密というか、謎が多すぎる。

猫と話してたり……ホントに話しているか怪しいところだけど。


「ところで雛斗様。……糜芳のことですが」


「ん? ああ、糜竺殿に頼まれてね」


ちょっと遠慮がちに訊く氷に肩を竦めてみせた。

今日の調練で糜芳の部隊指揮を改めて見てみたのだ。

やっぱり、あまり良い腕とは言えない。


「困ったものですね。糜竺殿の弟ですので冷遇することはできませんし」


氷の言葉に息を吐いて、放った練習用の矢を拾い集める兵たちを見下ろす。

調練場は城壁に隣接していて見下ろせるようになっている。

その方が調練の時よく声が通るし、部隊全体の動きを見ることができる。


糜芳のようなやる気のない臣の扱いが一番困る。

いたずらに俸禄を積んでいるようなものだからだ。

だけど功績のある糜竺の弟だから、酷な扱いもできないのだ。


「どうにかできないものかな。他にも黄皓とか傅士仁とか、どうも信用できないのが多いんだよね」


今挙げた二人と糜芳、それと孟達も俺は信用していなかった。

孟達はそれなりの武将ではあるけど、どこか信用できないところがあった。

益州攻略の際も寝返る形で降伏してきた。

他にも気を許せない者は多少いた。


「なかなか王平や張嶷みたいな武将はいないね」


「ですが、十分に信用できる臣もいます」


それには俺も頷いた。

翠や紫苑などの新参でも信用できる武将はいることにはいるのだ。

嘆いていても仕方ない。

国が大きくなって人を集めればこういったことも起きる、と割り切るしかない。


「まあ、とにかく長い目で見ていくしかないね。しっかり見ておかないと何をしでかすか、わかったものじゃない」


「間者は?」


「いらないよ。余計な猜疑心を掻き立てることになるかもしれないし」


氷と共に城壁を下りる。

糜芳なんかに監視を割きたくないし、今は曹操の動向に目を配る時だ。

少しでも人数を送り込みたい。

それに俺自身、味方に監視をつけることに少し嫌悪感がある。


「何もしないだけマシだよ。何かやらかされても困るからね」


「ごもっともです」


氷の返事を聞いて、騎馬隊の増強を考え始めた。

俺の騎馬隊はまだ他の騎馬隊より兵数は少なかった。


「……髪、伸びてきましたね」


「うん? ああ、そうなんだよね。切ろうかな……」


後ろ髪に手を触れる。

この時代の男性は髪を伸ばして団子みたいに一つにまとめてるけど、あまり髪を伸ばしたことのない俺にとっては邪魔でしょうがない。


「私は伸ばした方が良いのですが……」


隣の氷がぼそぼそと言った。


「なんで?」


「……その方が、その。……格好いいと思います//」


ちょっと頬を染めて氷はまた小さく言った。

それを聞いてふむ、と俺は髪を撫でた。

前髪も伸びて目にかかりそうだった。

流石にそれは切りたいんだけど。


「なんなら髪を縛ったら?」


「……桃香様?」


氷がちょっと驚いて言った。

庭を入ったところで桃香がにこにこしながら来た。


「休憩?」


「そうだよ。雛斗さんと氷さんは調練の帰りだよね? いつもお疲れ様♪」


「勿体ないお言葉です」


氷が謙遜して言った。


「ありがと。髪を縛るねぇ……」


俺も桃香に礼を言いつつ呟いた。


「この前ね、ご主人様と市を回った時に良い髪飾り見つけたんだ~♪」


「それで俺の方に来たんだ」


「えへへぇ、わかっちゃった?」


まあ、桃香が調練場に向かうことあまりないからね。

他の仕事で忙しいだろうし。


「はい。これ雛斗さんに私とご主人様からのプレゼント♪」


と、桃香が背中に隠していた両手に載せて差し出してきた。

そこには龍の頭を模した黒い髪飾りが二つあった。


「ぷれぜんと……?」


氷が聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「一刀から聞いた言葉?」


「うん。贈り物って意味なんだって」


やっぱり、と苦笑しながら髪飾りを指に摘まんだ。


「二つってことは俺と氷にかな?」


「そうだよ♪ 丁度二つあったし、お揃いの方が良いかなって」


「お、お揃いですか……//」


氷がちょっと頬を赤くした。


「ありがたくもらっとくよ。ありがと、桃香」


「どういたしまして。……そういえば」


桃香がやっぱりにこにこしながら言った。

だけどすぐに表情が曇った。


「どうしたの?」


「うん。雛斗さんの服、だいぶボロボロになってきたな~って思って」


仕方ない。

これは元の世界で行ってた学校の制服。

つまりは一張羅なんだから。


「同じやつなんてないからね。一張羅だったから」


「……よし!」


なんか桃香がやる気になって言った。

……なにやらかすつもりだろう。

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