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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ6.益州にて其の四
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拠点フェイズ6.朱里、雛里

「とにかく、拡張が済んで税の制度を整えればお金の収入は多少増えます。今はそうしてお金を貯めて商人から兵糧を買って増やすしかないかと」


朱里が内政について纏めて言った。


「うん、了解。今日の報告はこのくらいかな?」


桃香が一座を見回す。

特に何もないようだ。


「じゃ、今回の会議は解散」


一刀の宣言で解散した。

朝の定例会議を終えたところだ。

会議の場にはみんながいて、まだ誰も部屋を出ていなかった。

それぞれ何か話をしている。


「雛斗様。少し休まれた方が良いのでは?」


俺が立ち上がって眠気覚ましに伸びをして身体を捻るのを見て氷が言った。


「そうもいかないよ。今日は新しく入る武将を見なきゃいけないし」


いよいよ張嶷や王平といった新人の将の部隊操作の視察が行われる。

今までの調練の成果と将の腕が問われる重要な審査だ。

新人の将には張嶷、王平、馬忠、張翼、高翔と数え上げればたくさんいる。

とはいえ、今の蜀は魏に比べて優秀な武将が少ない。

あちらには古参新参の将合わせて優秀な武将が多い。

徐晃、曹仁、曹洪、張郃、満寵、陳泰、司馬懿等々数え上げれば切りがない。

そのためこちらはあまり絞らずに、それでも部隊を任せられるに価(あたい)する将をふるいにかけた。

やはり張任や法正のような優秀な武将はなかなかいない。

張嶷や王平、李厳くらいのものだ。


「しかし、事務仕事もあるのだろう?」


星も話を聞き付けてこちらに来た。

愛紗や霞も一緒だ。


「まあ、その辺は頑張れば終わるから大丈夫」


「また遅くまで仕事するつもりですか?」


紫苑までやってきて訊いた。


「見たんですか?」


「少なくとも、ここ三日は夜遅くまで明かりが扉から漏れていたでしょう?」


厄介な人に見つかったな。

あまり扉から光が漏れないように蝋燭でやってたんだけど。


「確かにこの三日は深夜まで仕事をしてましたけど、休む時にはちゃんと休んでますよ」


「なら良いのだけれど」


それでも紫苑は眉を下げたままだ。


「せやけど」


「将の資料の確認があるから、お先に失礼するよ」


霞が言いかけたけど追撃を避けるように話を切り上げ、資料を持って部屋を出た。


───────────────────────


漸く自分の部屋に戻った。

外は夕暮れ時で橙色の光が窓から部屋を温かく照らしていた。


新人武将たちの腕は悪くなかった。

特に張嶷と王平は張任たちにも劣らないくらいだ。

馬忠や李厳も悪くない。

後は今回の武将たちをどこに配置するかだ。

そこまで纏めて、それから俺がいない間に積まれた事務仕事をする。


「ふぁ」


誰もいないからと大きなあくびが出た。

紫苑に言われた通り、ここ三日はあまり眠れていないからだ。

今日も眠れなさそうだなぁ。


「あれ?」


あくびで出た涙を拭いながら自分の寝台を見て、思わず声が漏れた。


「……すぅ……すぅ」


「んっ……すぅ」


「なんで朱里と雛里が?」


寝台に朱里と雛里が仲良く向かい合いながら寝ていた。

考えても分からないから起こそうか起こすまいか迷って、首を捻って何気なく仕事机に目をやった。


「あれ?」


二度目の声が漏れた。

机の上にあるはずの書簡の山が消えている。

今日は朝から今さっきまで、ずっと将の見定めをしていたから書簡になんて今日は一度も手をつけていない。

だから軍事に関する書簡の山が届いてるはずなんだけど。


「もしかして、朱里と雛里がやってくれた?」


ちょっと考えてから呟いた。

もちろん朱里と雛里はそんな声じゃ起きない。

静かで整った寝息が続く。


「朱里と雛里も仕事が山積みだろうに。──誰?」


「……やっぱ分かるか」


扉の向こうから気配を感じて言うと、すぐに白状して扉を開けた。


「一刀か。なんで覗いてたの?」


入ってきたのは一刀だった。


「もしかして一刀が仕向けた?」


朱里と雛里を指差して訊く。

なんだかんだで一刀はみんなのことを気遣う。

でも、そうだとしても多忙な朱里と雛里を差し向ける訳ないかな。


「いや。二人が進んでやったよ。俺もちょっと手伝ったけどな」


「ゴメンね。気を遣わせちゃったね」


「俺だけじゃないぞ。みんな気を遣ってる」


「分かってるんだけどね。魏と呉に負けられないから、どうしてもね」


上着を脱いで朱里と雛里にかけてやった。


「桃香も心配してるぞ。お前が倒れないかって」


「俺が倒れても国はなくならないよ。一刀と桃香もいるから。俺の代わりも一応いるよ」


元は愛紗の仕事を俺がやってるだけなんだから。


「だけどなぁ」


「もうこの話は終わりね。新人武将の配置の案を考えないといけないから」


一刀が食い下がるのを切り、仕事机についた。


「はぁ。無理すんなよ。ちゃんと息抜いてな」


「一刀を参考にね」


一刀が苦笑いしてから俺の部屋を出た。


「……雛斗さん」


「っ! お、起きてたの朱里?」


ちょっとびっくりした。

朱里と雛里がむくりと起き上がった。


「どこから起きてたの?」


「ご主人様が来た辺りから、です」


雛里がかけられた俺の上着を握りながら言った。


「雛斗さんの言うことは分かります。今の私たちの国は他国とは遅れて立ったんですから」


「しかし、雛斗さんの代わりなんていません。雛斗さんがいなくなったら……グスッ」


朱里と雛里が話すのをただ聞いていた。

雛里が涙ぐむのも、ただ見ていた。


「雛斗さんを慕う人がどのくらいいるとお思いですか。ご主人様にも劣らないほど多いと思います」


「ですから無理はしないでください。私たちも手伝えることは手伝いますから……ひっく」


朱里も目を潤ませている。

雛里は帽子で顔を隠そうとしていた。


無意識に立ち上がって朱里と雛里の前にしゃがんだ。

二人の頭にぽん、と手を置いた。


「ゴメンね。心配させちゃって」


「……(コクッ)」


朱里が黙って頷いて俯いた。

たぶん、泣き顔を見せたくないからだろう。


「忙しい二人に頼む訳にはいかないけど、なんとかちゃんと休むようにはするよ」


「雛斗さん」


「雛斗さん」


二人が涙を流した顔のまま、俺に抱き付いてきた。

俺の上着が床に落ちた。


「私たち、雛斗さんのことが……す、好きだから泣くんです」


「雛斗さんには分からなかったかもしれませんが、私たちは雛斗さんのことをお慕いしてます」


「──流石に分からなかったかな。兄みたいな気持ちで接しちゃったから」


ホントに悪いことしてるな、俺。

二人の気持ちを分かんないで、二人の想いも知らないで。


「ありがと。俺を好きでいてくれて」


朱里と雛里の華奢な身体を抱き返した。

ホントに小さな身体。

この二人が蜀を支えてる、俺を好きでいてくれる。


「雛斗さん……」


「私たちを、そういう目で見てくれますか?」


「俺は女の子の好意を受け取めない男じゃないよ」


自分の頬が緩むのが分かった。

仕事が残ってるけど、今は朱里と雛里を抱いていよう。

今まで二人の好意を無知でいたから、その分を取り返したい。


二人の身体は思った以上に温かかった。

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