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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ6.益州にて其の四
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拠点フェイズ6.愛紗

「……そっか。雛斗のことが」


ご主人様がちょっと考え込むような顔をした。

こちらはどんな返答が来るか恐ろしくてならない。

戦ではそのようなことないというのに。


ご主人様と桃香様が普段仕事をする執務室だ。

外は暗く、もう皆も寝ている頃だろう。

おそらく起きているのは私とご主人様、そして雛斗くらいなものだろう。

この時間だったら、いつもはご主人様も既に眠られている時間だ。


どうしてこんな時間まで起きているのかというと、ご主人様に心中を話すためだ。

雛斗のことが好きになってしまったこと。


「……やっぱりか」


「え。やっぱり、とは?」


「愛紗が雛斗のことが好きなこと」


「……皆、気付いているのですね。気付かなかったのは私と雛斗だけです」


別段驚かなかったのは、桃香様以外にも星や紫苑といった皆にも言われたからだ。

雛斗だけは気付いてはいなかった。


「雛斗は仕方ないか」


「仕方ない?」


「雛斗の遠慮ぐせだよ」


確かに雛斗は遠慮、謙遜する癖がある。

それは悪くは思わないが、遠慮し過ぎだと思うこともしばしばだ。


「それが女の子に対しても出ちゃってるんだよな。今は相思相愛の星の時も、一度は俺のことを気にして言ったらしいし」


「星の時もですか?」


それには驚いた。

雛斗と星の仲が良いことは徐州から知っていた。

益州に入ってからそういう関係になったのも知っていた。

しかし、ご主人様のことを気にしたのは知らなかった。


「そんなんだから、今回も雛斗は遠慮して俺に相談を仕向けるようにしたんだと思う」


「……それで、私はどうしたら良いのでしょう?」


気後れしながら訊いた。

それが一番聞きたかった。


「……俺は愛紗のことが好きだ。だけど、愛紗は今は雛斗のことが好きだと思う」


「そうでしょうか? ご主人様もご謙遜なさっているのではないですか?」


「違う、て言ったら嘘になる。愛紗のことが好きだからね。だけど、今の雛斗には愛紗が必要だと思う」


「今の雛斗に、ですか?」


「愛紗も心配している通り、最近の雛斗は仕事を頑張り過ぎてるだろ?」


「はい。いつも深夜まで仕事をしていますが」


「氷さんや愛紗が言ってやらないと休まない始末だし。愛紗が傍にいてやらないと、過労で倒れそうだよ」


「ですが、それではご主人様が」


ご主人様も私のことを好きでいてくれている。


「愛紗。雛斗も好き、て言ってくれてる。愛紗も雛斗が好きだ。それに桃香の言う通り、今の愛紗は雛斗に好意が傾いていると思うから」


「…………」


「雛斗の傍にいてあげて。雛斗を好きでいるならなおさら、な?」


───────────────────────


「──はぁ」


ため息が出てくる。

疲れによるものもあるけど、それ以上に罪悪感が大きい。


今日は久し振りの非番だ。

だのに、今の俺の心中は穏やかじゃない。

なんでかって言うと、愛紗に呼ばれたからだ。

夕暮れに街外れの川に来て欲しい、と今朝に部屋に来て言われた。

その時の愛紗の表情はどこか硬い表情をしていた。


憂鬱な気持ちで人気のない林の中の川にやってきた。


「……雛斗」


名前を呼ばれただけで心臓が止まりそうになった。

既に愛紗は到着していた。

川を見下ろしていて俺に振り返った。

表情はやっぱり硬い。


「ゴメン、遅れたね」


「いや、大丈夫だ。私も今さっき来たところだ」


愛紗ならそう言うだろうと思った。


「雛斗、この前のことだが」


「愛紗。謝りたいことがある」


愛紗が眉をひそめた。

愛紗の顔が見てられなくて俯いた。


「愛紗は一刀のことが好きだよね。なのに俺、愛紗のことが好きって言った。愛紗を縛りつけた」


「雛斗……?」


「好きな人がいるのに、愛紗に好きって言ったら愛紗は絶対悩むのに。そうやって愛紗を立ち止まらせた。迷惑だったよね」


「雛斗」


愛紗が俺の名前を呼ぶけど、俺は無視した。


「ゴメン、愛紗。やっぱり愛紗は一刀の傍にいるべきだよ。途中から仲間になった俺と一緒になるべきじゃない」


パンッ


渇いた音が聞こえた。

土が視界から消えて青々と繁った林が見えた。

ちょっとしてから俺が頬を叩(はた)かれたと気付いた。


「何を……何を勝手に決めつけている!」


愛紗の怒鳴り声が耳に響いた。


「愛紗……?」


ぽかんと呼びながら愛紗を見た。

目の端に涙が浮かんでいるのを見て、息が詰まった。


「何故、私が迷惑していると決めつける? 何故、私をそうやって避ける? 何故、私が雛斗の傍にいるべきじゃないと言える?」


「…………」


何も言えずに阿呆みたいに口を半開きにしていた。


「私が雛斗が好きじゃないと言えるのか? そんな確証はないだろう! 私が雛斗に好きと言われて、どれだけ嬉しかったのか分からないだろう!」


愛紗の涙が頬を伝った。

不謹慎にも、美しいと思ってしまった。


「なんでだ、雛斗。雛斗は、私のことが本当に好きなのか?」


愛紗がしゅん、と項垂(うなだ)れた。

罪悪感がまた大きくなった。

でも、それは受け入れなきゃならない罪悪感だ。

それが今わかった。


「っ。雛斗」


気付くと甘い匂いが鼻を突いた。

愛紗の顔が俺の横にある。

愛紗を抱き締めていた。


「泣いて、いるのか?」


愛紗が気付いた。

愛紗に言われるまで気付かなかった。


「ゴメン、愛紗。俺、自分のことばっかり考えてて──愛紗のこと、全然考えてなかった」


「雛斗は自分のことを否定し過ぎだ。私の好意も否定してしまうところだったのだぞ」


愛紗が遠慮がちに俺の背中に手を回してきた。

背中の服を掴まれる。


「ゴメン。ホントにゴメン」


「大丈夫だ。もう泣くな。雛斗は私の好意を受け止めてくれるのだろう?」


「疑う訳じゃないけど、ホントに俺で良いの?」


愛紗を身体から離す。

愛紗がムッとした。

まだ目の端には涙が残っている。


「雛斗は本当に謙遜し過ぎだ。私の好意がどれほどのものか、分かっているのか? 雛斗の好意に勝るつもりだぞ」


「なら、良かった」


「え、んむっ!?」


愛紗の開きかけた唇を唇で塞いだ。

愛紗は驚いているけど、すぐに受け入れてまた俺の背中を抱いた。


「もう、我慢しなくて良いんだよね?」


「しないで欲しい。私ももう雛斗を離さない」


愛紗の柔らかい笑み。

漸く笑った顔が見られた。

それで罪悪感が拭い去った。


もう一度、愛紗の柔らかい唇に口付けしようとすると愛紗が気付いて愛紗から口付けしてくれた。

つたないながらもそうして求めてくれる愛紗が愛しかった。

今日は非番の日で良かった。

今は少しでも愛紗と一緒にいたかったから。


頬がひりひりするけど、今は我慢できた。

気付いたら愛紗が謝るに決まっているから、なにも言わないでおいた。

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