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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第三章.反董卓連合と生きる誓い
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生かしたい

「……雛斗」


霞がちょっと暗い声で俺を呼んだ。

快活な霞には似合わない。

月が綺麗な夜だ。


虎牢関から逃げ、見つからぬよう山に入って洞窟を避けて夜営した。

洞窟は虎の巣である可能性がある。

火も避けた。

動物が寄ってこなくなるけど、離れているとはいえ、連合軍に気づかれる可能性がある。

月明かりを頼りに、みんな黙々と兵同士で傷の手当てをしている。

俺と霞と恋と同じように、兵たちも仲良くなっていた。

霞と恋の部隊は元からだけど、俺の部隊もその中に加わった感じだ。

霞の兵の背中の傷に俺の兵が薬草を擦ったりしている。


「なんだ? 霞」


俺は黒永に手の傷を見せていた。

手の皮がちょっと剥けていたのだ。

さらしを巻いていたのになんて腕力してるんだよ、趙雲と夏候惇。

まだ弱いな、俺も。

さらしの下に薬草の液を湿らせた分厚い布を傷に当てて、その上にさらしを巻いている。


「ウチ、曹操に勧誘されたんや」


「それで夏候惇に」


なるほど、あまり険悪な雰囲気に見えなかったのはそういうことか。


「ウチ、迷った。堂々と天下を目指す曹操の覇道、その傘下に入ること。悪い話やないって思った」


さらしを巻き終え、手を握り開きしてみた。

やっぱり、痛い。


「でもな、そこに雛斗が乱入してきた。ウチらを助けるために。……ホンマ、嬉しかったんや」


「…………」


月明かりに照らされる霞の顔を見れず、下を向いた。


「あのまま曹操の傘下に入っても、ウチはよかった。せやけど、今ウチは嬉しい。黒永がいたからかもしれんけど、正面当たってた雛斗がウチらの方に来てくれたの、めっちゃ嬉しい」


霞が目をぐしぐしと荒っぽく擦った。


「おおきに、雛斗」


「何を言ってる。俺と恋と霞、黒永に陳宮、兵たち。みんなで生きる。そう決めた。その約束は、絶対に破らないつもりだった。それを守っただけだ」


俯いたまま言った。

素直に気にするな、と言えない自分が少し恥ずかしい。


「……うん」


それでも、霞は返事をした。


「……雛斗」


今度は恋が袖を引っ張った。

山に入る前に、少し行軍速度を落とした恋の部隊と合流した。

間者を放って逃げられる山を見つけていたから、すぐに隠れられた。

連合軍に見つけられる前に急いだ。

虎牢関攻めに専念していたから、大丈夫だとは思うけど。


「……霞を助けてくれて、ありがと」


「当たり前だと言った」


「でも、雛斗が行かなかったら、霞と合流できなかった……ありがと」


恋が体育座りのまま言った。

恋には傷はなかった。

ちなみに霞も。

まったく、この二人はやっぱり俺より強いじゃんか。

同列に扱われる俺が恥ずかしい。


「……どういたしまして」


そう呟くように言って、月明かりから顔をそらした。

恥ずかしくて顔が熱い。


「黒薙様、水でもお飲みになりますか?」


黒永は俺が恥ずかしがっていることがわかっている。

だからこんなことを言うのだ。


「大事にとっとけ。これから先、長いかもしれない」


「はい」


黒永が笑みを浮かべながら竹筒をしまった。


「今日は見張りを立ててもう寝よう。明日から気を配りながら行軍しないといけない」


「せやな。ほんじゃ、ウチは寝るわ」


「恋も寝られるときに寝とけ」


「……雛斗も」


「わかってる」


───────────────────────


山頂から月を眺めた。

一本、高い木があってそこに寄りかかって座っていた。

俺のちょっと離れたところに、三部隊からそれぞれ出した見張りが周囲を見回している。

山の中腹の森が深いところに本隊がいて、そこにも見張りがいる。

麓にも見張りを張った。

これくらい厳重にしないと、間者が紛れ込む可能性がある。


「黒薙様、寒くはありませんか?」


兵の一人がこちらに来た。

恋の兵だ。

こうして、俺の部隊以外の兵とも言葉を交わせるようになっていた。


「大丈夫だ。俺に目を配ってないで、周りを見ていろ」


「はい。眠れないのですか?」


「まあ、そんなところだ。俺のことは気にしなくていい」


また兵が何か言おうとしたが、口をつぐんで見張りに戻った。

眠れないわけじゃない。

眠りたくないだけだ。

見張りを立てているとはいえ、油断はできない。

俺が少しでも見張りに貢献できれば、と起きてるだけだ。

それに、なんとなく女の子とは眠りにくい。


眠気と戦いつつ、虎牢関があるはずの先を見た。

董卓と賈詡には悪いと思う。

けど、今は死ぬ気にはなれなかった。

霞と恋を死なせたくない。

劉備たちがなんとかしてくれている、とちょっと希望を持って虎牢関から月に目をそらした。

今夜は、月だけ見ていよう。

月の次は陽を見よう。

ずっと明かりを見ていれば、寝られないはずだ。


ときどき交代する兵たちを驚かせながら、俺は右腰の剣を握り続けた。


───────────────────────


からっと晴れた陽射しから森の木に隠れながら、用心して進んだ。

昨夜は何もなく、霞たちはぐっすり眠れたようだ。

俺は朝、霞たちが起きないうちに隈を目立たないように布で顔を擦ってから霞たちを起こした。

恋はまだ眠たそうにして戟を握ったけど、霞の助けもあって事なきを得た。

恋はホントに純粋だと思った。

身体の欲望に忠実だから。

たぶん、腹が減った時に食い、眠かったら眠り、遊びたい時はせがむ──その欲求を、陳宮辺りが解消しているんだろう。


「雛斗が頼る言うけどな」


隣の霞が言った。


「結局、誰を頼るんや?」


山を出る前に、俺は昨夜から考えたことを話した。

兵糧と水が少ししかない今、客将として雇ってもらうしかない。

なにせほとんど戦うことしか知らない集団だ。

黒永と陳宮が内政をこなせるけど。

俺や霞や恋はそうもいかない。


「今、我々は北に向かっています。北の大勢力と言えば袁紹ですな!」


陳宮が言った。

いつでも元気だね。


「袁紹は無理だ。連合軍の盟主だった奴だ。俺たちが客将を頼んだって鼻で笑われるか、斬られるか」


「せやけど、他にでっかい勢力言うても」


「──大きな勢力を考えておりませんね? 黒薙様」


じっと考え込んでいた黒永が言った。

それに頷く。


「大勢力──今は袁紹だが、先の理由もあるが、将士も兵も有り余っている。雇う理由がない。だったら、少しでも兵が欲しいはずの小さい勢力に客将を乞う方が、ずっと雇ってくれる可能性がある」


「──雛斗、あんたすごいな」


「……軍師みたい」


「ぐぬぬぬ。ねねの立場が危ういです」


三者三様の反応。

まったく、この三人といると今が厳しい状況だということを忘れさせられる。


「誰に頼るかという話だが。黒永は北に向かってるので、分かってたかもしれないが」


「公孫瓚殿ですか」


それに俺は頷いた。


「公孫瓚て、白馬将軍か?」


霞も思い出しつつ、言った。


「公孫瓚殿は幽州の牧。冀州の袁紹とそのうち敵対するだろう勢力だ。名家で兵が多い袁紹と対峙するため、兵は欲しいはず」


「黒薙様は公孫瓚殿とは知己の関係でいらっしゃいます。脈もあり、雇ってくださる可能性は十分にあるかと」


「ほんなら雛斗に従うわ」


霞がちょっと考えてから言った。


「……恋も、それでいい」


「むう、今回は従ってやるです!」


恋と陳宮が言った。


「じゃあ、最北の公孫瓚殿のところへ急ごう。袁紹が攻める前に着かなければ」


何より、公孫瓚は実直な娘だ。

だから袁紹に騙されるのを危惧していた。

周囲に気を配り、斥候も頻繁に放ちながら北へ進んだ。

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