拠点フェイズ6.霞
「えへへ~」
霞が嬉しそうにはにかむ。
その頬は微かに赤が差し、俺も頬が熱くなっているのが誰からでも分かると思う。
「雛斗と二人きりでお出掛けなんて久しぶりやな~」
ぎゅっ、と俺の右腕に抱き付いて離さない。
今日は俺と霞は休みをもらった。
霞の誘いで街に繰り出したけど──流石に名将と謳われる張遼と自分で言うのは烏滸(おこ)がましいけど一応有名な俺が一緒にいると目立ってしょうがない。
それは仕方ないんだけど──イチャイチャしてるんじゃなおさら目立つ。
「し、霞……ちょっと恥ずかしいんだけど」
「ん~? ええやんええやん! みんなに見せつけたれ」
と、今度は横から俺の身体に抱き付いてきた。
「ちょっ、霞!?」
「雛斗、顔真っ赤やな。かわええなぁ」
霞が上目遣いで俺を見上げてくる。
それを見ると俺は何も言えなくなる。
だって、すごい可愛いから──うわ、一刀みたいなこと考えるな!
「うむうむ。雛斗はこの真っ赤になって恥ずかしがるところがなんとも言えない」
「げっ。せ、星」
めちゃくちゃ聞き覚えのある声がした、と思ったら近くの店から星がふらりと現れた。
霞と星──なんと面倒臭いコンビが出来ちゃったんだ。
「星、今日はウチと雛斗の二人きりなんやから邪魔せんといて」
と、思ったけど霞は俺を逃がさないとでも言うように強く抱き締めてきた。
気が合いそうな二人だけど、今の霞はあまり乗り気じゃないみたい。
「ふむ。部屋に雛斗がいなかったのはそういう訳か」
部屋に来たのかよ。
「まあ、私が出遅れたのだ。致し方あるまい」
そして星が意外に素直に言った。
なんか企んでるようでこわいんだけど──俺の考え過ぎかな。
「今日のところは霞に譲ろう。しかし、次は私が雛斗を取るからな」
「好きにせえ。ウチも雛斗渡さんから」
「俺は物じゃないから」
まあ、つっこんでも聞かないだろうけど。
というか、休みの度に霞か星が俺の部屋に突撃かけられるってこと?
──悪い気はしないけど、普通に俺が好きにする時間も欲しいんだけど。
「では雛斗。次の休み、覚悟しておくように」
「……はいはい」
身を翻す星に何か言い返そうとしたけど、言っても無駄だと思ったから諦めた。
「さて……邪魔もんはいなくなったし。行こか?」
抱き締める腕をほどいて、でも俺の右腕にまた抱き付いた。
いいんだけどね、別に。
俺も霞のこと、好きだし。
「はいはい。今日はどこまでも一緒について行くよ、霞」
「わかっとるやん。女心が分かる男はモテるで」
霞が俺の肩に頭をのせながら腕を引く。
「女心は分からないかも。でも、霞の心は分かってるつもりだよ」
「……そんなんだから他の娘にも好かれんねん」
霞が俺から目をそらした。
霞の頬がまたちょっと赤くなっている。
「こんな俺が好きなんじゃないの? 霞は」
自惚れだけど、霞の言う答えは分かってる。
「……うん。雛斗のそういうとことか、ぜーんぶ大好きや」
霞が微笑み、俺は抱き付く腕をほどいて霞の腰に手を回した。
霞も俺の身体にちょっと身を預けてくる。
こうやって支え合って、俺たちはこの国に立ってる。
これからも、ずっと。




