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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ6.益州にて其の四
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拠点フェイズ6.恋、ねね

警邏は重要度の高い仕事だと俺は思っている。

民の安寧を守り、民と間近に触れ合う任務だからだ。

これがちゃんと務まっていなかったり、民と触れ合わなかったら国の評判は良くはならない。

結局、国にしろ将にしろ評判の元締めは大部分が民だ。

民の口の端にのぼるような評判があってようやく国に人が集まり、将の名の下に兵が奮起する。


そういう意味では蜀の将のみんなはよく務めていた。

民たちの些細な願いも可能な限り聞き届けて、将たち自身の手で解決しようと心掛けるからだ。


「黒薙様~、今日もお仕事~?」


「黒薙様~、抱っこ~」


こういう子供たちとの触れ合いも大事だ。

未来を担う種は大事に守らなきゃいけない。


「はいはい。よっと。今日も仕事だよ。いつもゴメンね」


俺の前に立っていた女の子をお姫様抱っこで抱き上げる。

鈴々の蛇矛に比べたら軽いもんだ。


「いつなら遊べる~?」


「う~ん、厳しいね。今度一刀に言っとくからさ、一刀に遊んでもらって」


「わかった~」


返事した男の子に笑った。

明日から警邏の後、張嶷や王平、馬忠といった一皮剥けた将に手解きする。

具体的には軍事、内政、魏や呉、蜀の行く先、部隊指揮について等々──様々なことを語り合う。

そうして将の能力を吟味して、これからの役割について考えるのだ。

今挙げた三人は新人の中で俺が見込んだ将だ。

特に張嶷は南中攻略後、異民族の信頼が厚く、それからの一揆も損害少なく鎮圧していることからかなり評価している。


しばらく子供たちと共に街を回り、担当するルートを回り終えると子供たちと別れた。


「ふぅ。いい具合に昼時だなぁ。その辺で食べてこうかな……あ」


伸びをして辺りを見渡してふと気付いた。


「はふっはむっはむっもぐもぐ」


「恋殿~、お茶です」


屋台の一つに見慣れた背中が二つ。

一つは左右に積まれた肉まんを次々と平らげ、もう一つは肉まんを平らげる背中にお茶を勧めていた。


「はむっ……?」


不意にその背中が肉まんを食べる手を止めた。

そして後ろを振り返って──つまり、俺の方を見てくる。


「……雛斗」


「え……あ、雛斗」


恋が俺の名前を呼ぶのにきょとんとして、でもすぐに気付いたねねが俺の方を見た。


「恋、ねね。お疲れ」


微笑みながら恋の隣に座る。


「雛斗の方がお疲れなのです。昨夜も遅くまで部屋から灯りが漏れていたです」


「昨夜、俺の部屋の前通ったの? まあ、近いうちに将の品定めがあるから見通しておかないといけないことが多くてね」


ねねに返しつつ、屋台の親父に恋と同じ肉まんをいくつか頼んだ。


「今日は恋とねねは休み?」


「……(コクッ)」


肉まんを頬張ったまま恋が頷く。


「雛斗はいつ休みをとれるですか?」


「うーん、と……新人の将と話す日の次の日だから明後日かな」


ねねの問いにちょっと考えて言った。


「何日毎に休みをもらってるですか?」


「前休んだのは──十七、八日くらい前かな」


「二十、二十一日に一回ですか?」


「まあ、そんなものかな」


だいたい三週間に一回のペースか。

よくよく考えると、あまり休んでないなぁ。


「過労で倒れられますぞ~。もっと休みをもらうべきです」


ねねの眉が八の字に下がった。

心配してくれるのは嬉しかった。

ねねはすぐに表情に出るから。


「氷にも愛紗にも、そう言われてるんだけどね。なかなかそうもいかなくて」


将の品定め、その将を鍛えて、さらに部隊を任せてみてその観察など、今回の仕事関連を見るだけでも仕事が山積みだ。

将の成長は長い目で見なければならないため、時間もかける。


「やはり仕事を分割すべきです。愛紗と手分けしてやった方が効率が良いと思うです」


「それは亞莎にも言われたんだけどね」


肉まんが出されて礼を言ってから、ちょっと苦笑いした。


「……雛斗。今日、お仕事は?」


肉まんを飲み込んでから恋が訊いてきた。

食べるのやっぱり早いね。

左右に積まれた肉まんの大部分がもうなくなってるよ。


「この後? まあ、いつもの書簡裁きがあるくらいかな」


「量はどのくらいあるですか?」


「徴兵はなかったし、あとは各部隊の調練と警邏の報告、新人の将の資料の確認くらいかな。まだ何かあるかもしれないけど」


俺から見て恋の横に隠れているねねに言った。

カウンターに乗り出して俺を見ている。


「なら、お出掛けする」


「へ? だから仕事が」


突然の恋の提案にすぐに言った。

いつもよりは少ないとはいえ、まだ仕事はある。


「雛斗ならそのくらいの仕事、すぐに終わるはずです」


「──まあ、いつもよりは少ないしね。遅くに桃香と一刀に確認取ることになるけど」


俺が裁断したものはだいたい桃香と一刀(+愛紗)に行き渡って確認をもらう。

だいたいそのまま素通りでOKもらってるけど。


「なら無問題なのです。今日は恋殿とねねと一緒に街を回って息を抜くです」


ねねがにこにこ笑いながら言った。

一刀に見せたことある?

その笑顔。


「……行く?」


恋、その上目遣いはやめて。

ぐっ、て息詰まるから。


「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」


ちょっと胸が満たされる、ホッとするような思いがして笑みが浮かんだ。

心配させ過ぎたかな。

たまに息を抜いてる姿見せないとみんなに心配かけるか。


───────────────────────


「相変わらずですな~。雛斗は」


と、ねねに苦笑いされた。


肉まんを食べ終えた俺たちは三人で街を巡った。

歩く俺の右手はねねが握っていて、もう片方の左手は恋の手が握られている。

両手に花の状態な訳だけど──行き交う人々に見られて恥ずかしい。

なにせ天下の飛将軍呂布と俺、ねねが手を繋いで歩いてるんだから目立たない訳がない。


「だって」


「だっても何もないです。これだから氷にも言われるのですぞ」


今度は頬を膨らませてねねは言った。

やっぱり表情に出やすいね。


本屋の前を通った時に、

「……そう言えば新しい兵法書が出たんだっけ」

と、呟いたら恋とねねに手を無理矢理引かれたのだ。


「今は息を抜く、と決めたです。仕事関連には一切結びつけませんぞ!」


ねねはこうなったら強情だからなぁ。

恋も絶対に手を離さんとでも言うように腕に抱きつくし。

──まあ、悪いことでもないからいいんだけど。

ていうか恋、柔らかいものが当たって恥ずかしいんだけど。


「じゃあ、あの店でのんびりする?」


出来るだけ気を紛らわすため頭を振って、いつも気分転換に来る茶店を指差した。


「……(コクッ)」


「それなら良いです」


恋もねねも微笑みながら頷いた。

こういう時間が平和を思わせて、俺はホッとする。

民たちもそうだけど、仲間──大切な人たちの笑顔を見ると自然と笑みが浮かぶ。


恋とねねが先んじて手を引くのに身を任せながら、俺は微笑んだ。

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