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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第三章.反董卓連合と生きる誓い
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再会

恋の本隊を中央に俺と霞が左右に展開する。

さっそくぶつかり始めた。

恋は鋒矢陣、敵──劉備軍は偃月陣を敷いている。

騎馬を得意とする恋には、歩兵の堅陣は不利な状況だ。

果敢に攻め立てるが、槍衾の迎撃にあって見る間に恋の兵が勢いを失っていく。

しかし、堅陣とはぶつかり合いが長くなるほど緩みが出るものだ。

その緩みを隙と見て、霞が側面に急襲をかける。

深く抉り、反転して再び恋の本隊と合流する。

敵は動揺している。


「董卓軍にウチがあり! 神速の張文遠とは、ウチのことや!」


「……陳宮」


「了解なのです! 全軍態勢を整えるのです!」


しかし劉備軍も流石で、まだまとまっている。

もう少し攻撃に移って、陣が伸びた方がいい。

霞の強襲に合わせて恋の部隊が一旦退いて態勢を整え、勢いをつけてまた突っ込んだ。

それで霞が急襲した、まだ混乱している部分が浮き彫りになった。


「黒永は歩兵を頼む」


「御意!」


返事を受けて、麾下五百の先頭から敵陣を見据える。


「隙があるぞ、劉備軍! 突き崩せぃ!」


劉備軍の陣に強襲をかけた。

霞がぶつかった反対の側面に騎馬の麾下五百が一列で突っ込む。

霞の強襲で混乱した反対側も混乱させれば、劉備軍全体に混乱が広がるはず。

陣を切り広げ、霞の強襲した側面に見事突き抜け、二つに割れた。

既に、黒永の指揮する歩兵が俺の突いた側面をさらに攻撃を仕掛けている。


「なっ、まだ奇襲部隊が!」


「誰だ!」


関羽と──趙雲までいる?

苦々しげに呂布隊に向かって駆けるこちらを睨んでいる。


「疾風迅雷! 黒薙明蓮、見参!」


「な、黒薙殿!?」


「趙雲! その顔が見られるとは思わなかった! 今は敵同士……雌雄を決せん!」


驚愕に染まった劉備軍に言って、呂布隊の後方に回り込み、呂布隊の側面にまた戻る。

黒永の歩兵も既に戻っている。


「さすが雛斗や! 敵さん大混乱やで!」


「期待を裏切らないでよかったよ。このまま突き崩すぞ!」


「ほいきた!」


「……(コクッ)」


しかし、やはり兵数ではあちらが上。

態勢も立て直され、じわじわと歩兵でこちらを押してきた。

こちらの勢いは既になくなり、防戦に移り始めていた。


「くっ! やっぱ数の暴力には勝たれへんか!」


「……まだ行ける」


「無理だ、恋。このまま引きずると逃げる機会を見失う」


霞に反論する恋に言った。

俺たちの目的は生きること。

その時機を失ったら、本当にみんなで死ぬことになる。


「……今逃げても一緒」


「……もうちょい敵を混乱させるっちゅーんか?」


「……(コクッ)」


「なに?」


「恋は目の前の敵を倒す。霞と雛斗は右の方の敵を倒す。……じゃあみんな逃げられる」


「そりゃ、右の方の包囲は薄いっちゃ薄いけど……突っ切れるかわからんで?」


「霞と雛斗なら大丈夫……」


「ウチらのこと、そこまで買ってくれるのは嬉しいんやけどなぁ……」


「──やるしかない、か」


「雛斗!?」


霞が驚いてこちらを見る。


「確かに恋の言う通り、まだ逃げる時機とは言えない。みんなを逃がすなら、俺たちでなんとかしなければ」


正面に劉備、右に曹の旗印、孫の旗まで後方から包囲に移ろうとしている。

こうも包囲網が展開されては、一つ突破してもすぐにまた追い付かれて囲まれる。

どれか、包囲網を突破した時に追撃に移れる部隊を叩いて足止めする必要がある。


「……それが将の務めって奴か。……わぁーった! ほんならウチと雛斗で」


「いや、正面の敵は恋だけじゃキツいかもしれない。俺も正面に当たる」


「雛斗……」


恋が非難したような目で俺を見る。


「頼む、恋。霞の方には黒永を俺の部隊半分と一緒に送る。だから俺も正面に行かせてくれ」


「雛斗……」


霞と恋が俺を見つめる。


「……わかった。でも、無理はしない」


「それはお互い様だ。黒永に知らせてくる。先に始めててくれ!」


「ほいきた!」


「……(コクッ)」


二人が頷くのを見てから、黒薙隊へ戻った。

作戦を話したら黒永は血相を変えた。

俺たちでなんとかする、つまりは俺や恋や霞が先頭でぶつかるということだ。

奇襲や強襲と違って、敵の攻撃を真っ向から受けるのだから、当然、危険だ。


「黒薙様!」


「黒永、話なら後で合流するときにして。これは命令」


「……わかりました。必ず、生きて戻ってきてください……雛斗様」


「わかってる、氷。……霞の方は任せた」


黒薙隊に指示を出してから麾下の五百騎を俺、黒永に五千の歩兵の二手に別れた。

そして氷の返事も聞かずに恋の元へ駆けた。

真名を呼び合うのは、これが二回目か。


すぐに恋と陳宮の元へたどり着いた。


「今、我らの目の前に立ちはだかっている敵は、劉備とか言う人間の部隊。呂布殿ならば鎧袖一触でぶっ飛ばすことは可能ですぞ!」


陳宮が当然のように言う。

恋の武勇を信じて止まないのだろう。


「……そう上手くはいかない」


俺は呟くように言った。

麾下の五百を後方に待機させて、正面の劉備軍を睨む。


「…………」


恋も押し黙っている。


「あぅ……呂布殿ぉ?」


「簡単じゃない」


「へっ?」


「敵が来た。……強い」


「なんですとーっ!?」


そして、来た。


「ふっ……よくぞ気がついたな、呂布よ! そして黒薙殿!」


「ここから先には行かせないのだ!」


「……うーむ。何だか我々の方が悪役のような台詞を言っているな」


「……俺もそう思った」


趙雲の怪訝な言葉に俺も賛同する。


「せ、星。マジメな場面で混ぜっ返すな」


「うむ。すまない……だがそう思ったのも確かだ」


「……冗談?」


「いや、恋。あいつらは本気だ」


「その通りだ。呂布、黒薙殿。ここから先へは行かさん。行きたければ、我らを倒して見せるが良い」


「……三人同時?」


「一対一で戦いたくはあるが、ご主人様との約束があるのでな。……三人同時に」


「いやいやいや、ここにいる俺の存在意義は!?」


「おお、忘れていた」


「……趙雲、本気で言ってるんだったら本気で傷付く。俺が」


「冗談だ」


「……恋、趙雲は俺が相手する」


「雛斗……」


「男として、ここはやはり相手をしなければならない」


「私だけか?」


「……恋、関羽と張飛を頼む」


「情けない、それでも男か?」


「うるさい! どうせ俺は女の子より弱いんだ!」


「うむ、開き直ったか。それでこそ前向きな黒薙殿よ」


「……趙雲、絶対負かす!」


「雛斗……?」


「二人は任せた! 恋!」


恋の隣から離れる。

趙雲も合わせて関羽たちから離れる。


「ふっ。よもや、黒薙殿と手合わせできるとは」


「趙雲、舐めてかかると後悔することになるぞ」


「望むところだ」


ちょっと離れて止まった。

槍を構えて、相手を睨む。

隙のない身のこなし、いつでも動ける体勢、こちらを圧倒する覇気……やはり希代の名将だ。


「ふっ……はぁああ!」


一度息を吐いて、前に体重をかけながら突きを繰り出す。

趙雲はそれを真っ向から受け止める。


「くっ……さすが黒薙殿。これほどの槍はかつて見たことない……はぁぁぁああ!」


趙雲もこちらに飛び出してくる。

まだ受けていないというのに、趙雲の槍から鋭い氣を感じて鳥肌が立つ。

突きがくる。

それを柄で受け流すが、すぐに槍を引いてまた突き。

咄嗟に受け流す。

槍を引いてまた三回目がきた時は息が詰まった。

反射的に身体を突き出される槍に沿ってそらす。


「ぐっ、速い」


少し体勢を崩しかけるけど、すぐに後ろに飛んで立て直す。

あの一瞬で三撃を放つとは。

二撃しか受け止められない。


「俺も負けてられない……でぇぇい!」


声をあげながら飛びかかる。

下から突き上げ、それを防がれるけどすぐに引いて最初の前に体重を乗せたそのままに突く。

なんなく受け流される。

それを立ち止まって槍を引き、少し溜め込んで槍を突き出す。

わずかなフェイントに趙雲は予想できなかったようだ。

驚くべき反応で後方に下がりつつ身体をそらして避けた。


「むぅ。私の他にも三連撃を」


星が槍を構え直しながら、悔しそうに言った。

俺も後ろに下がる。


「遊んでる暇はない。今はお前たちを倒して、兵たちを逃がす」


槍を握り直しながら言う。

くぅ、手がジンジンする。

なんていう腕力してるんだよ。

さらしで手に滑り止めつけなきゃ、汗で槍が滑りそうだ。


「ふふふ。そうしたくば、私を倒してみせよ」


趙雲も同じようで、槍をしきりににぎにぎしている。


「…………」


「どうした? 趙雲」


不意に苦悶の表情を浮かべた趙雲に訊く。


「いや……やはり我々が悪役のようだと思ってな」


「……鈴々もその意見には残念ながら同意なのだ」


「星! 鈴々!」


ちょっと離れたところにいる関羽が怒鳴った。

こいつら、ホントに本気か?


「おまえたち、倒す。……恋たちは逃げる」


「ふん! そう簡単に行くとは思うなよ!」


「…………」


「言いたいことは分かるけど、ここは我慢なのだ」


「「……悪役」」


恋と俺が揃って言った。


「ぐぬっ……見ろ、呂布と黒薙殿にまで言われてしまったでは無いか!」


「しかしだな、委員長よ──」


「誰が委員長だ!」


「愛紗、いい加減、星に反応するのは止めた方が良いのだ。話がこんがらがるだけなのだ」


「うむうむ。見ろ、黒薙殿と呂布も呆れている」


「誰のせいだ! 誰の!」


「……おまえら、変な奴」


「……恋に激しく同意」


なんなんだ、このトリオコントは。

わざとか? 俺たちの隙を生み出そうという策略なのか? だとしたら孔明もびっくりだよ。


「何を言うか! 我らは至ってマジメ!」


「……はぁ……」


「元気出すのだ、愛紗~」


「無理だ……」


「むむむっ、愛紗がこれほどまでに疲れるとは。やるな、呂布、黒薙殿!」


「……苦労してるね、関羽」


「うぅ……敵に慰められるとは……」


今にも泣き出しそうだ。


「……ふふっ」


と、不意に恋が笑った。

恋が戟を下ろす。


「恋?」


「……おまえたち、面白い。……生かしてやる」


「……潮時か」


恋と俺の麾下が小さく固まるのに焦れてきたのだろう。

劉の旗の後ろから袁術の部隊か、袁の旗印が陣を乱しながら駆けるのが見えた。

あれでは正面から対峙する劉備軍と、包囲に移る孫の旗印の部隊の邪魔になる。

隙は必ず見えるはずだ。

あとは劉備軍をなんとかして乱して足止めすれば、追撃には移れまい。


槍を構えたまま、恋の隣へ跳ぶ。


「……陳宮」


「ここにおりますぞ! 皆の者、火矢を放て!」


陳宮の一下、俺たちの後ろから火矢が放たれ、劉備軍の前方、つまりは趙雲たちの周りが燃え上がる。


「ちぃ! 火矢だとっ!?」


「恋、後は頼む! 霞たちが心配だ」


「……(コクッ)」


「陳宮、恋をよろしく頼むぞ!」


「言われなくても呂布殿はお守りするです!」


「黒薙殿!」


陳宮と趙雲の言葉を背に、右の方へ駆けた。

後ろから麾下の五百騎がついてくる。


すぐに黒永と霞の部隊が見えた。

青を基調とした鎧の兵に囲まれている。

剣を持つ黒髪の女性と霞が対峙し、側で黒永は部隊を小さく固まらせている。


「奴らはこちらに気づいていないぞ! あんな囲み、穴空けてやれ!」


「応っ!」


敵の囲みに突撃し、綺麗に割って黒永たちの元へたどり着く。


「黒永、霞! 無事か!」


「雛斗! 恋はどないした?」


「とっくに逃げた。あとはお前らだけだ。囲みは破った。ずらかるぞ。黒永、準備を」


「すぐに!」


「待て、張遼!」


黒髪の女性がこちらに駆けてくる。


「あいつは?」


「夏候惇や」


それを聞いてから霞の前に立つ。


「どけ!」


夏候惇が剣を振るった。

真正面からそれを受ける。

相当な氣が手に伝わってくる。


「ぐっ……やるな夏候惇!」


「なっ……受け止めた!?」


驚く夏候惇に勢いはないけど、その隙を突くように槍を突き上げる。

反射的にそれを受け止められる。


「ぐぅっ……何者だ!?」


しかし、不意を突かれたために体勢を崩し、夏候惇は後ろに下がる。


「俺は黒薙だ。覚えておけ、夏候惇。黒永、やれ!」


「全軍、火矢を放て!」


指揮者であろう、夏候惇に火矢を放って足止めする。


「うわっ!?」


「なんや。ねねと同じこと考えとったんかい」


「愚痴は後で聞く。さらばだ、夏候惇。曹操殿に伝えおけ。洛陽での兵の調練は見事だった、とな」


言い捨てながら火の海を後にする。

霞と黒永の部隊が小さく固まるのを確認してから、麾下と先頭に立って包囲網を突破した。

劉備軍の前を通ったけど、何を思ったのか、追撃してこなかった。

まだ火矢の影響はあるとはいえ、追撃できる兵はいたはず。

──借りができたかな。

そう思いながら恋が崩したのだろう、袁術の部隊を再び突き抜け、包囲を完全に脱出した。

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