拠点フェイズ5.星
外を白い光が照らしていた。
俺の部屋も真っ暗で窓から注ぐ月明かりだけが照明となっていた。
俺の寝台は枕のあるところに窓から日が注ぐような位置にある。
顔を横に向ければすぐに月や陽の光を拝める。
この月は俺の元いた世界と同じなのだろうか──。
それを目が冴えてからずっと考えていた。
どうしたら元の世界に戻れるんだろう。
俺が死んだら、俺は元の世界に戻ってしまうのだろうか。
それとも、この乱世が終結したら?
だとしたら、それはもうすぐだ。
もしかしたら、戻らないのかもしれない──。
「……ひな、と?」
身動ぎするのが身体に伝わり、俺を呼ぶくぐもった声が聞こえた。
「ゴメン、起こした?」
窓から顔をそらし、共に布団に入っている星に訊いた。
星が夜中に俺の部屋に侵入してくることは珍しくなくなっている。
最初は暗殺者かなにかかと思ってビックリした。
けど、二回目からは俺は受け入れるようになっていた。
なんだかんだ、俺も星を求めてるんだ。
星に触れていたい、と思ってしまっている。
それは星も同じらしく、俺が街に警邏に出てるところを見つけると俺に飛んできて腕に抱きついたりしてくる。
そういう時は恥ずかしいけど、やっぱり嫌じゃない。
「いや、何故か起きた」
「そう……」
「──雛斗、何を考えている?」
窓をまた見ると星が俺の肩に顔を寄せて訊いてきた。
肩にかかる星の髪と息がくすぐったい。
「俺の元いた世界のこと」
星に何を隠しても無駄だから、正直に言った。
星は俺がこの世界の人間ではないことを知っている。
「…………」
星は無言で俺の腕に抱きついてきた。
星の素肌の柔らかい感触が腕を包む。
「──大丈夫だよ。俺はここにいるよ」
星に身体を向ける。
布団の中で星と向かい合わせになった。
「雛斗は察しが良すぎる。こうした行為や言葉から何かを感じ取る」
星が目をそらさず、俺に身を寄せてくる。
そんな星を俺は腕で包むように抱いた。
「雛斗はここにいないと駄目だ。私が生きていける自信がない」
「俺一人で星の命に関わるのは嫌だよ。だから大丈夫だって言ったでしょ」
星のおでこに俺のおでこをコツン、と突き合わせる。
星の目が俺の目を覗いた。
潤んだ、綺麗な瞳だ。
「雛斗……」
顔を近づけたからか星の頬が赤く染まった。
そして星は微笑み、俺の頬に頬擦りする。
「雛斗、もう一度……」
「もう深夜だよ。今度にして」
「私を高めさせておいてそれはないだろう」
「高めさせた覚えはないし、明日に響くでしょ。……はあ、一回だけね」
「雛斗は断れない人だと言うのは私はよく分かっている」
小さく星は笑うと自分から唇を重ねてきた。
「ん……ちゅっ、んふぁっ……」
「んむ……ちゅぷっ、ちゅっ……」
どちらからともなく舌を絡め、口内に押し込む。
すぐに頭に靄(もや)がかかったようにクラクラしてきた。
今夜もまた身を任せていいかもしれない。
星といつ別れるか分からない。
いつ俺が元いた世界に戻るかもしれないし、戦場で死に別れるかもしれない。
それまでに、俺は星とできるだけ触れていたい。




