拠点フェイズ5.恋、ねね
「恋と一緒に行けば良いのに」
庭に面した廊下の手すりに寄りかかりながら言った。
「恋殿は今はお昼寝中なのです。起こす訳にはいかないのです」
裾に手を隠したいつもの姿でねねは残念そうな顔を隠さなかった。
職務の合間の休憩中だった。
昼はとっくに過ぎ、おやつ時くらいのほのぼのとした時間帯だ。
城の庭が俺はお気に入りで、よく休憩にはここに来て眺める。
「まあ、そしたら俺も起こさないけどね。でも他にいなかったの?」
「恋殿の次は雛斗とねねは思ってます」
「ちなみに一刀は?」
「蟻の次にも置けないのです」
ねねらしい返事に苦笑した。
と言うかねね、何気に大告白したよね。
恋と次は俺って。
「仕事も少しだし、良いよ。俺でよかったら」
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ねねにお願いされたのは市の視察の同行だった。
市の拡張で増えた店や治安の様子などを細かに見るらしい。
「南蛮からの物が流入してきたね。上手くやれば収入が上がりそうだけど」
「値の決め方が難しそうなのです。逆に南蛮へ流入させれば値がつく物があれば良いのですが」
南蛮へ交流しに行ったらしい行商が奇怪な物を並べている。
「収集家には高く売れそうだけどね。南蛮の食物でなにか良いのなかったの?」
「南蛮から連れてきた奴らを見れば分かるでしょうが、あれの味覚が独特ですからなー。南中自体が特殊な土地なため、こちらに流用出来そうな物は少ないですなー」
それもそうか。
南中は暑く密林で特殊な地域。
こちらの土地と環境が違う。
「素直に珍しい物品を扱うしかないかな」
「やはり雛斗を選んで正解なのです。これが霞でしたら、きっとあの珍しい物に飛び付いて視察にならないのです」
「……確かに」
俺はまた苦笑した。
霞がおっ、と言って店に飛んでいく姿が目に浮かぶ。
内政の話は霞には合わないからなぁ。
「亞莎とか氷でも良かったんじゃない?」
「あの二人は別のところを回ってるです。今日は内政に携わる皆で市を回って、後に意見を出し合うのです」
「じゃあ他の皆も誰か連れてるんだ」
「亞莎や氷は武の心得が多少ありますから平気なのです。朱里や雛里はそうもいかないですからなー。それぞれねねみたいに頼んでると思うです」
なるほどね、と相槌を打った。
氷は俺が鍛えてるけど、亞莎は元からなかなか力がある。
元は武官を目指していたらしい。
「ここはもう良いです。あとは東を回るです」
「東は軍備専門の区画だね」
兵の鎧、武器、鐙などを扱う工業区画だ。
軍事に関わる俺もちょくちょく訪れる。
「そう言えば馬上で扱う槍の試作、出来てるかな……」
工業区画という言葉でふと思い出した。
地上と馬上両方で使える槍を考案していた。
馬上だと長い方が良いけど、地上だと使いにくい。
「今日はねねに付き合う約束です。また今度にしてくださると助かるです」
ねねがこちらをちらっと見上げながら言った。
まあ、急ぎじゃないから良いけど。
まだ騎馬隊の調練が仕上がってないから。
「折角街に出たのです。もう少し羽を伸ばしたら良いです」
ん、とねねの言葉に引っ掛かった。
──気を使わせちゃったかな。
仕事の話を口滑らしたから。
「お言葉に甘えて、息を抜きながら護衛はさせてもらうよ」
「ねねに感謝するのですな」
ふふん、とねねが得意気に笑った。
ねねも気にしてくれてるのがちょっと意外だったけど、正直に嬉しかった。
まあ、ホントは恋と一緒の方が良かったんだろうけど。
「恋にお土産屋買っていこうか。御菓子で良いかな?」
「それが良いです! 甘いものが良いです!」
ほら、元気になった。
その様子にやっぱり俺は苦笑いした。




