表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ5.益州にて其の三
70/160

拠点フェイズ5.黒永

「はあっ!」


ヒュンッ


サッ


「もっと小振りで良い。手数で相手を翻弄して」


斬り上げる剣を最小限の動きで避ける。

氷は一度退いて剣を両手で構え直した。

早く息を吐いているが、肩を揺らすほどではない。

昼を少し過ぎたくらいの城の庭だ。

昼を食べた後休憩に入っていたら、氷が鍛練を頼んできた。

腹ごなしにはちょうど良い。

仕事以外で会うこともちょっと少なくなってきたし。


「いきます!」


「それじゃダメだよ」


ヒュンッ


ガキンッ


「くっ!」


氷が振り上げようと動いた剣を黒槍で突く。

氷はそのまま剣で槍を受け流そうとするけど間に合わずまともに受ける。


「敵に予告なんてしないでよ。相手の隙を狙うんだから」


槍を片手で構える。

氷の剣は比較的軽い。

だから相手の力を身体に受けやすいし、重い武器を受けたら身体を飛ばされやすい。

その分、身軽で振り回しやすいから手数で攻撃するのがいい。


「はっ!」


ヒュンッヒュンッ


ガキンッガキンッ


斬り上げ、また斬り上げる剣を穂先で軽くそらして防ぐ。


「ただ振り回すだけじゃダメだよ。こっちからもいくよ」


「はい!」


ヒュンッ


ガキィンッ


「くぅ……!」


正面からの鋭い突きを剣を縦にして防ぐけど、受け流し切れずに手に振動が走ったようだ。


「休む暇はないよ」


ヒュンッ


ガキンッ


「っぅ……!」


声にならない呻きが聞こえた。

下から突き上げる槍をなんとか剣で弾いて軌道をそらすけど、振動が手に痛むらしい。

それを見て踏み込み、身体を低くして返す槍で斜め上に薙いだ。


ヒュンッ


キィンッ


「っあ!?」


なんとか剣を横にして防ごうとするけど、軽い剣はいとも簡単に弾き飛ばされ、氷の後ろに飛ぶ。

槍を氷に突きつける。


「ま……参りました」


氷がたまらず腰をおろした。


「──休憩」


槍を肩に担いで一息ついた。


「容赦ないなぁ雛斗」


「猪々子と斗詩? いつから見てたの?」


離れたところから猪々子と斗詩がこちらに近づいてきた。


「たぶん、鍛練を始めたところからです」


「声かけてくれれば良かったのに」


氷に手を差しのべる。

氷は自然な動作で手を取り、俺はひょいっと持ち上げた。


「ありがとうございます」


一言礼を言ってから氷は手の甲で汗を拭った。


「邪魔しちゃ悪いって思ったからさ。なあ、雛斗って蜀の中で何番目に強いんだ?」


「うーん。実際に打ち合ったことのない人もいるからなぁ。紫苑さんとか桔梗さんとか蒲公英とか」


愛紗とか星、鈴々とかは何度か打ち合ってるけど。


「じゃあ誰に負けたことあんの?」


「愛紗に鈴々に恋、翠……くらいかな。星と霞は引き分けがだいたいだから」


「へえ、結構お強いんですね」


「でも愛紗とか鈴々とか翠、特に恋は大差で負けるからなぁ」


「そんなことはありません」


氷が横槍入れてきた。


「恋はともかく、愛紗殿や鈴々殿、翠殿とは紙一重の勝負をしていたと思います」


「おだてすぎだよ。愛紗たちとは持ってるものが違い過ぎるよ」


「いや、あたしは氷に賛成だぜ」


城の方から声が聞こえた。


「翠?」


「あたしと打ち合った時、何度ひやひやさせられたと思ってるんだよ」


翠が槍を担ぎながらこちらに来ていた。


「雛斗はそんなに強いのか?」


「雛斗の突きはすごいんだぜ。まともに受け止めたら身体に氣が伝わってくるし、すごい疾いんだぜ」


「翠の方がすごいよ。俺よりね」


「雛斗は謙遜し過ぎや」


「うむ。もっと自分の武を誇るべきだと思うぞ」


また新しい声が増えた。


「霞に愛紗まで。休憩?」


「そんなところや。愛紗と会うて庭覗いたら雛斗らがおったんでな」


霞は屈託なく笑い、愛紗も機嫌良さげに微笑みながらこちらに来た。


「雛斗は用兵技術だけでなく、個人の武も一流だと私は思う。私は同じ武人として尊敬する」


「そ、そんなお世辞言ったって何も出ないよ」


恥ずかしくなってきて頬をかきながら愛紗に言った。


「そんなことあらへん。ウチとは打ち慣れてもうたけど、愛紗や鈴々と打ち合ってる雛斗見てて良い勝負しとると思う。もちっと自信持てや」


「……あ、ありがと」


俯きながら言った。

恥ずかしくて背中がむずむずする。


「なんや? 雛斗、顔赤くなっとるで?」


「し、霞! 覗かないでよ!」


「ああん、もうかわええなぁ雛斗は!」


霞が言いながら俺に飛び込もうとした。


「かわいいって言わないでよ。男でかわいいって言われても嬉しくないよ」


霞を軽く避けて言った。


「ええやん。かわええよ~雛斗は」


「……はぁ」


頬の火照りも冷めた。

かわいいって言われても惨めだよ。


「ところで、雛斗たちは何をやっていたのだ?」


愛紗が訊いた。


「雛斗さんが氷さんの鍛練をしていたんです。そこを私たちが通りがかって」


斗詩が言った。


「なるほど。氷も悪くない腕をしている」


「雛斗様にご指導いただきましたので。それでも皆さんには到底敵いません」


俺の隣に寄った氷が愛紗に言った。

剣を拾いに行ったらしい。


「そーいや、雛斗と氷っていつから一緒だったんだ?」


猪々子が思い出したように訊いた。


「元は俺の従者っていうのは知ってるよね。黄巾の乱より前からだよ。廬植先生の推挙で洛陽に任官して、それから従者を募集して氷と会ったんだよ」


「へえ。氷さんにした決め手はなんだったんですか? 他にも何人か募集に来たんですよね」


「一人一人面接して決めたよ。内容は言えないけど」


少し氷の過去に関わる。

そのことは俺と氷しか知らない秘密だ。


「永遠に雛斗様の従者でいたい、と思っていたのですが……」


「たとえ仕事で離れたとしても、氷はずっと俺の従者だよ。心配しない」


「…………」


氷が頬を赤くして俯いた。


「気障やなぁ、雛斗」


「本心を言っただけだよ」


氷の頭をぽんぽん、と優しく叩いた。

耳まで真っ赤にしている。


「…………」


「うわっ! れ、恋! いつの間に」


背中に気配を感じて振り向くと恋がじっと俺を見ていた。


「…………」


すると恋が俯いた。


「……?」


俺が首を傾げるとちらり、と俺を見た。

……もしかして。


「…………」


ぽんぽん。


「……♪」


頭を叩いてやったら嬉しそうに俺を見上げた。

氷にやってるの見てやってもらいたかったのね。


「ああ! 雛斗~ウチもウチも!」


「あんたらは犬か」


と、ツッコミを入れつつ霞の頭もぽんぽんと叩く。


「雛斗はええお父さんになるなぁ」


「霞、その発言は色々と誤解を招く。愛紗は何真っ赤になってるの!?」


ツッコミ役って疲れる。

特に霞と星。


キュッ


「…………」


不意に槍を持たない右腕が軽く引っ張られた。

見なくても分かる。

氷がちょっと嫉妬して俺の袖を引いているのだ。


「……夜、部屋でね」


氷を見ずにそう小さく呟くと、袖から手が離れた。

戻ってから仕事、早く終わらせないと。

そう思いながら霞たちの騒ぎを見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ