表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第三章.反董卓連合と生きる誓い
7/160

死に花は見たくない

「……来る」


不意に恋が呟いた。

それに霞が反応する。

俺たちが虎牢関に駐屯して、少し経った。

天気は良好、陽射しが肌に温かく、風も涼しくそれほど強くない。

遠くまで見通すことのできるくらい、戦をするにはもってこいな天候だ。


「ん? 来るて……連合軍がか? まさか。汜水関を抜くにしてもまだ早いやろ?」


確かに。

華雄は出撃したにしろ、勇将なことには変わりない。

しかも、汜水関は堅牢だ。

そう簡単に突破できるものか。


「……(フルフル)」


恋が首を横に振った。


「来る……」


恋の目は真剣だ。

それに、恋の言葉にはどこか説得力があった。


「ふむ……こういうときの恋の勘は当たるからなぁ」


「──黒永」


俺はちょっと考えてから呼んだ。


「ここに」


「出撃の準備を」


「本気ですか?」


「先程、話し合った通りだ。援軍もないのに籠城しても無駄だ。だったら関から出た方がいい」


とはいえ、あちらからは愚策と見えるだろう。

虎牢関という堅固な関がありながら、その殻から出てくるのだから。

しかし、目的は勝つのではなく生きることだ。


「すぐに頼む」


「御意」


黒永が関の城壁から降りていった。

再び、汜水関のある方角を見つめる。


「さてさて……雛斗の言う通り、生きたいのも山々やけどなぁ。各地の諸侯が集まった連合軍にこの人数で貫けるわけない、て思うねんけど」


「だったら派手に暴れて花咲かせようか?」


霞を真似てにやりと笑ってみた。


「それもええな~。大軍の中に咲く大輪の死に花……ええやんええやん!」


くいっと不意に袖を引っ張られた。


「どうした? 恋」


引っ張っていたのは恋だった。

責めるような目をしている。


「……霞と雛斗、死ぬの、良くない」


「恋……」


霞が思わず名を呼び、俺は恋を見つめた。


「戦って生きる。そう決めた」


さっきの軍議で、戦って生きる。

俺と霞と恋で、そう決めた。

勝てなくてもいい、負けてもいいから生きると。


「──今の状況、俺たちは絶体絶命と言っても過言ではない。死ぬとわかっていたら、最後は花咲かせようと思う。武人なら特にな」


霞をちらりと見て言った。

かすかに頷いている。


「死に花咲いても、誰も喜ばない……でも生きてれば、誰か喜ぶ」


「──ふんっ。恋の言う通りだ」


ちょっと笑った。

言葉数少ない恋が、こうまで深くものを考えてるとは思わなかった。

俺なんかより、命を大切にしている。


「……せやな。恋の言葉、心に刻んどく」


霞が優しく微笑みながら言った。


「……(コクッ)」


恋が霞に頷いて、次に俺を見た。


「わかったよ。俺も心しておくよ」


「……(コクッ)」


また恋が頷いた。

ようやく納得がいったらしい。


「せやけど……敵は強大や。生きるためにどう戦うつもりや?」


霞が訊く。


「たくさん倒す。それだけ……」


と、恋が言った。


「ははっ、簡単やなぁ」


霞は笑ったけど、俺はちょっと拍子抜けした。

もうちょっと作戦を深く考えてるかと思ったのに。


「簡単。恋、強い。……でも、霞も強い。雛斗も強い。だから……大丈夫」


「俺を仲間外れにしてくれなくて、ありがと」


苦笑しながら言った。

恋から見れば、俺は弱小だろうに。

なにせ俺でも知ってる天下の名将呂布なのだから。


「なに言うとるんや。雛斗も強いで。ウチと互角くらいちゃう?」


「お世辞にしても誉め過ぎだ」


「世辞やない。ホンマにそう思っとる。頼りにしとるで」


「……(コクッ、コクッ)」


恋も二回頷いた。

山中で鍛えただけの俺がそんなに強い、とは思えないけど。


「……期待を裏切らない働きをしよう」


二人が頼ってくれてるんなら、やるしかないよな。


「ほんなら恋、雛斗。そろそろ出陣しよか!」


「……(コクッ)」


「ああ」


霞の言葉に俺と恋は頷いた。

城壁を下りる。

俺の軍で待っていた黒永が、俺の黒い槍を差し出す。

黒永の背後には黒尽くめの五百の麾下が控えていて、さらにその後ろには董卓から借り受けた五千の兵がいる。

騎馬は麾下の五百のみだ。


さて、恋と霞の期待、裏切らないようにしないとな。

生きて、また恋と霞に顔合わせられるよう。


───────────────────────


「ふむ? 敵軍の旗が城外に展開しているな?」


星が虎牢関の方を見て言った。

確かに、敵軍は関を出て布陣している。


「どういうことだ? 敵は籠城を諦め、決戦を望んでいるというのか」


「潔いやつらなのだなー」


「でも私たちにとっては好都合だよ。野戦なら数の多い私たちの方が有利に……」


愛紗、鈴々、桃香が口々に言う。


「……それはどうでしょう?」


雛里が考えながら否定した。


「ん? どういうこと? 雛里は何か不安な点があるの?」


気になって俺は訊いた。


「難攻不落であるはずの虎牢関を捨てて、わざわざ野戦に持ち込むなんて……普通はしないはずです」


「ふむ……言われてみればそうだな……」


雛里の言葉に愛紗が考え込んだ。


「考えられるのは、乾坤一擲、玉砕覚悟で総大将の首級を望むか、それとも……退却するか、です」


「退却? しかし、それならば関に拠って戦う方が退却しやすいのではないか?」


「そうとも言えないんです。……籠城を選ぶと、どうしても城の防御力に頼り、逃げ時を見失うことがありますから」


「逆に外に居れば、逃げたいときに逃げられるってことかー」


「そういうことです」


星と鈴々の言葉に雛里が返していく。


「でも包囲されてしまえば、そこから逃げるのは至難の業なんじゃないの?」


「それはそうですが……でも、関に拠って、まだ戦えるまだ戦える……って勘違いして時機を失するよりは、包囲されかけのときに必死に逃げる方が、生存の確率は上がりますから……」


俺の言葉にもわかりやすく返した。

なるほど、敵も生きるために必死か。


「なるほどぉ~。……じゃあ、一度崩れたらすぐに逃げだしちゃうかな?」


「その可能性が高いかと思うんですが……でも、兵を率いるのは飛将軍呂布さんと張遼さんですから、そう簡単にいくはずは無いかと……」


ふむ──確かにあの最強の呂布だしな。

兵がこちらの方が多いとはいえ、崩すのは難しいかもしれない。


俺は愛紗たちの話し合いを聞きつつ、敵軍を見つめた。

まだ呂布を見たわけでもないのに、ちょっと手に汗が滲んできていた。


───────────────────────


「ほおー。奴ら、動き止めよったな」


「こちら側の出方を見るつもりだろう」


「……ちんきゅー」


恋の呼びに応えて背の小さい女の子が出てくる。

恋付けの軍師、陳宮だ。


「……どうする?」


「敵は虎牢関を出て布陣している我々に対し、驚きと疑念を抱いているでしょう。ならば呂布殿は、一気呵成に敵本陣を突き、その混乱に乗じてさっさと逃げるのが得策!」


「そうも問屋が卸すもんか? 先陣らしい劉旗を追い散らして、総大将の袁紹の陣に乱入するて、結構難儀なことやで?」


陳宮の策に霞が呆れて言った。


「呂布殿なら無問題です!」


「いや、もっと現実的にやな……」


「霞。……恋、頑張る」


恋がそう言ってるけど、そう上手くいかない。

俺はそう予感していた。

劉旗──絶対に劉備の軍だ。

なら、関羽と張飛がいる。

あの二人を前にして、恋は前に進めるのか。

できないかもしれない。


「……が、頑張るて。うーん……まっ、ええか! な、雛斗」


「…………」


「雛斗?」


「……??」


劉旗を見つめて黙り込んでいる俺に、霞と恋が首を傾げる。


「どーしましたか? ねねの華麗な策に驚き呆れましたか?」


「いや、確かに驚き呆れたが……恋」


「……??」


「無理をしないでくれ。劉備軍を甘く見るな。無理だと思ったら手筈通り逃げるんだ」


「…………」


恋は頷かないで、俺を見つめている。

霞も何か感じてか、黙って俺を見ている。


「呂布殿の力が信じられないですか?! あなたより何倍も強いですぞぉー!」


「……わかった」


陳宮の言葉を遮るように恋が返事した。


「……無理、しない。無理だと思ったら、逃げる」


「あ、あう。呂布殿~」


陳宮の情けない声に苦笑する。


「ありがとう。恋が突っ込んだら、俺がさらに急襲をかける。それでかなり奴らは混乱するはずだ」


「ウチもやるで。大混乱間違いなしや!」


「……良い作戦」


恋が頷いた。


「せやろ! ほんならそれを基本方針にして、あとは臨機応変ってのでどうや?」


「何とも行き当たりばったりな策ですなー」


「お前が言うなよ」


また苦笑いして陳宮に言った。

でも、これでいいんだ。

戦は、何が起こるかまったくわからない変幻の中の事象だ。

そのときそのときに合わせて、考えて動くしかない。


「……じゃあそれで戦う」


「応っ。……頼りにしてるで、恋。雛斗」


「……(コクッ)」


「任せろ」


霞の力強い言葉に、恋と俺は返事した。


「よし。……ほんなら恋。皆に一発、盛大な激、飛ばしたれ!」


「……??」


「まさか激がわからないか? 武器の戟じゃなくてだな、兵たちに気合いを入れてやるんだ」


「……恋、頑張る。みんなも頑張る」


「……ははっ。まぁ恋ならそんなもんか」


「……(コクッ)」


霞と同じく、俺も笑う。

いかにも恋らしい。

短い付き合いなはずなのになんでこの三人といると、こんなに肩の力が抜けるのか。


「よっしゃ。ほんならウチが一発、皆に気合い入れたるわ! 雛斗もやるんやで!」


「……さいですか」


苦笑しながら槍を持った。

でも嫌じゃない。

恋や霞たちと戦える。


「ええかっ! 敵は連合軍とか言うとるが、そんなん名ばかりの烏合の衆や! ウチらに勝てるはずあらへん!」


「どこに怖がる必要がある! 訓練を思い出せ! 奴らの土手っ腹に一発ぶん殴ってやれ!」


「気合い入れぃ! あいつらしばきまわしてから堂々と退却すんで! ええなぁ!」


「応っ!」


俺たちの兵が返事をする。


「ええ返事や!」


「呂布隊は先陣となって連合軍を突き殺せ!」


「うぉぉぉぉーーーーーっ!」


「張遼隊は連合軍の横っ面ブッ叩いて、そのあと呂布隊に合流や! 無様な姿見せたら死なすでぇ!」


「応っ!」


「黒薙隊も張遼隊と同じく、側面から急襲をかけ、呂布隊と合流する! 俺たちは幾度も倍する敵を突き崩した! その俺たちが連合軍に遅れを取るなよ!」


「応っ!」


「全軍抜刀じゃー!」


ジャキンッ


霞が恋と俺を見る。


「……恋、雛斗。ええな?」


「……(コクッ)」


「もちろん」


「よっしゃ。……雛斗、最後頼むわ」


「最後、俺に振るの!? ──わかった! 奴らに俺たちの力を見せてやれ! 全軍、突撃ぃい!」


「うぉぉぉぉーーーーーっ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ