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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第十一章.忠臣の誓い
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麦城の異変

「麦城近くに動きが?」


いつもより人数の少ない、いつもの会議をする部屋で偵察から戻ってきた兵の言葉に考え始めた。

場には南征から外された翠、蒲公英、氷、他に待機を命じられた武官文官もいる。

皆が南征に出向いてから少し経った時のことだ。

孫策の勢力域である麦城付近に兵が集まり始めていると言う。

麦城は永安から近い夷陵からそう離れていない城だ。

夷陵近くから孫呉の勢力域になる。


「今孫策は南下に乗り出してるというのに、どういうことでしょう?」


氷も顎に手をつけながら考えている。


「曹操か俺たちの牽制、ていうのも考えにくい。孫策だって曹操と俺たちが勢力の拡張に動いていることは知っているはず。今が勢力拡大の期であることは明確なのに」


「少し気になりますね……」


「そんなに多くの兵が動いてないんだから、気にしなくても良いと思うけどな」


翠はそう言うけど、少しは調べた方がいいかもしれない。

なにせ今こちらの本隊も南征の真っ最中で成都はがら空きなのだ。

なにかあってからじゃ遅い。


「俺が偵察に出てみる」


「雛斗様!?」


「バカっ! そんなことさせられる訳ないだろ!」


「そーだよ! 雛斗さんがやる必要はないよ」


三人に断固反対された。


「偵察なら私が赴きます」


「氷は内政を支えなきゃいけないでしょ」


「だったら私かたんぽぽが行く」


「麦城まで見つからずに行かなきゃいけないんだよ? 奇襲で隠れるのが得意な俺が適任だよ」


「でも……」


蒲公英の頭をぽんぽん、と優しく叩いた。


「大丈夫だよ。ちょっと見に行くだけだから。すぐに戻って来るよ」


───────────────────────


「五日経って戻ってこなかったら桃香たちに伝えてから防備を固めて」


「ああ。絶対戻ってこいよ」


会議を終えてすぐに偵察部隊を編成した。

妙に念を押す翠に頷いてから黒鉄に乗って城門を出た。


永安の城、白帝城にたどり着くと守備を任されている王平に偵察の旨を伝えたら自分も行くと言い出した。

王平は魏から蜀に帰順してきた将校だ。

個人の武は特筆するほどではないけど、用兵技術や機転の良さに俺は注目していた。

それだから一応連れていった。


少しして、夷陵に入った。

ここは魏と蜀の両方から圧力のかかる地域だ。


「問題の麦城はもう少し先だ」


「見たところ夷陵には異変はないようですね」


森を慎重に進みつつ、あたりを警戒した。

ようやく麦城が見えた。


「……なんの変哲もない城だな」


「偵察が誤認したのでしょうか?」


「それはないとは思うが。まだ一日も経ってないんだ。とりあえず兵がいた痕跡を探そう──っ!?」


不意にビュッと鋭い音が聞こえた。


「伏せろ!」


伏せつつ怒鳴ったが遅く、一本の矢が兵の一人を射殺した。


「外したか!」


次に呉の兵が数人の少数部隊で森から現れ、斬りかかってきた。


「嵌められた!?」


言いつつ集団で襲いかかってきた敵兵を数人まとめて新たな黒槍で突き殺した。

王平も槍で二人打ち倒した。


「将軍。早くお逃げください」


王平は見つからぬよう、小声で言った。


「下手に動けば俺を探索する敵兵に見つかる。益州への道が閉ざされている可能性もある。一旦、ここから離れて山に潜む。王平、お前を見込んで頼む。俺の黒鉄に乗って成都の馬超にことを伝えろ。俺のことは構うな」


「しかし将軍」


「敵に見つかる前に急いで行け。これは命令だ。お前が早く伝えることができれば、俺とここにいる兵を救うことができる」


「……必ず、馬超将軍にことを伝えて参ります」


「頼む。──黒鉄、すまないが王平を成都まで送ってやってくれ」


傍で気色ばんでいた黒鉄の鬣を撫で、王平に手綱を渡した。


「将軍の愛馬、お借りします」


無言で頷き、小声で兵を集めて王平から離れた。


「いたぞ!」


そしてすぐに敵に見つかった。

わざとだ。

王平に敵の目がいかないようにするために、俺たちが囮にならないといけない。

敵を瞬時に一部隊を片付けると黒鉄の馬蹄が聞こえた。

こちらに集まる敵を見定めてからちゃんと出発した。

やっぱり王平を連れてきて正解だった。


「……さて、翠たちのために生き残らなきゃいけないな。──敵を回避しつつ山に向かう。みな、苦しい状況になるだろうが耐えてくれ」


───────────────────────


「ば、馬超将軍!」


兵の一人が慌てた様子で会議の部屋に飛び込んできた。

雛斗が偵察に出てから四日目になる。

今日頃には帰ってくるだろう、と少し気分が良かったのに……ったく。


「なんだ! 会議中だぞ!」


「永安の王平殿が……!」


「王平殿が?」


氷が首を傾げた。

永安の守りをしている将校だ。

なかなか見所のある将校だと思っていた。

なにかあったのか……。


「馬超将軍!」


兵を押し退けて王平が息も絶え絶えに駆け込んできた。


「ど、どうした!? お前は永安にいたんじゃ」


「黒薙将軍が……!」


雛斗の名を聞いて会議にいた氷と蒲公英、内政を担当する費禕や董允なども立ち上がった。


「黒薙将軍が、呉軍の罠にかかり、窮地に立たされております!」


途切れ途切れに王平が叫ぶ。


「ど……どういうことだ、それは?」


自然に声が震えた。


「麦城の偵察に私も同行したのですが、それは黒薙将軍を誘き寄せる罠で、少数の黒薙将軍は山に隠れてしのいでいます! 私は黒薙将軍の命を受け、武陵を経由して馬超将軍にこのことを!」


短く、そして明確に王平は伝えた。

武陵は夷陵の南に位置する地域だ。

夷陵から永安への道が閉ざされていると言うことか──わざわざ遠回りして来たのだ。

孫呉……あいつら!


「たんぽぽ! すぐに騎馬隊の準備だ! そこのお前は劉備様にこのことを伝えろ! 急げ!」


「任せて!」


「は、はっ!」


押し退けられた兵が慌てて部屋を出て行き、たんぽぽも続けて部屋を出る。


「氷は私たちがいない間の守りを頼む!」


「し、しかし!」


「今はお前しかいない! 雛斗を助けてすぐに戻る! だから頼む!」


「──分かりました。雛斗様が夷陵に向かわれて既に四日です。呉は恐らく雛斗様の潜伏を断定して探索網を張っている、と思われます。ですから永安から夷陵への道は通行可能かと」


私が考えていることを的確に捕らえた。

氷も雛斗を助けたくて仕方ないはずだ。

今は騎馬で速攻で助けに行かなければならない。

氷をここに置いておいたのはやっぱり間違いじゃなかった。


「王平! 疲れているところすまないが、お前が雛斗の場所を案内しろ!」


「もちろんです!」


「あとの成都は黒永が仕切る! 黒永の指示に従え!」


指示もそこそこに私は部屋を出て走った。

王平もあとをついてくる。


雛斗……絶対に戻るって約束、破らせはしないからな!

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