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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ4.益州にて其の二
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拠点フェイズ4.亞莎

「…………」


また一枚めくっていく。


城の中の図書館だ。

昼のちょっと前で明るい。

ここには蜀勢力内の地方状況や生産記録、兵法書や物語や伝記等々──さまざまな書物が整然と並べられている。


卓について読んでいる本は『孟徳新書』だ。

題名からわかる通り、曹操の書いた本だ。

だから新しいものなんだけど、これは既に読みきっている。

なんでそうも早く読めるのかと言うと、『孟徳新書』は『孫子の兵法書』を注釈したものだから短いのだ。

この時代の『孫子』は八十二巻。

俺の元いた時代の『孫子』は解説本を読んだことがあるけど、確か十三篇だったと思う。

『孟徳新書』も十三篇で構成されている──つまり俺の時代の『孫子』は曹操の注釈したものが主流らしい。


で、どうして俺が読んだ本をまた読んでいるのかと言うと、俺だって人間だから忘れることもある。

一応、言われれば思い出すけどね。

自分から思い出そうとすると「あれ?」と、ド忘れしてしまう時がある──朱里や雛里とかは別だろうけど。


だからたまにこうして暇な時に新しい兵法書だけじゃなくて、読みきった本も読み直す。

読み直しも大切。

今は十三篇ある内の用間篇を読んでいた。

用間は間者──スパイについてだ。


と、読んでいたら図書館の扉が開いた。


「雛斗さま、お疲れ様です」


「亞莎か。そっちこそお疲れ」


兵法書から目を離した。

書簡を少し抱えた亞莎が扉を閉めていた。

亞莎は仕事だったかな。


「雛斗さまは非番でしたか」


「うん。俺のことは気にせず、好きなところで仕事して」


「あ、ありがとうございます」


亞莎は遠慮するところがあるからね。

たぶん俺の邪魔をしないように、他の卓につこうとするだろうし。


亞莎はやっぱりチラチラ俺を見ながら正面の席に書簡を積んだ。

それを見てから兵法書に目を落とした。


「何を読まれているんですか?」


「ん? 『孟徳新書』だよ」


兵法書から目を離さずに言った。


「雛斗さまは『孟徳新書』は読まれたはずでは?」


「読み直してるんだよ。俺だって普通の人間だから忘れることあるし」


「だから読み直して」


「うん。朱里や雛里は忘れないだろうけどね」


亞莎が兵法書を覗き込んでくる。


「用間篇ですか」


「特に決めて読んでる訳じゃないけどね。忘れないように、て言うのもあるけど。自分はちゃんとそうしているか、て言う自問する為でもあるのかな」


「雛斗さまは間者のことを大切にしているでしょう。私はそう思います」


「ありがと」


俺はちょっと笑みを浮かべた。

『孟徳新書』──元より『孫子』では間者は何より大切にすべき、と説いている。

何よりも大切にし、報酬を出し、そして秘密にする。

兵士にも言えることだけど、人の上に立つ者の考えることは下には伝えない方が良いのだ。

特に間者は敵に捕らえられた時、目的を晒さないようにしなければならない。

だから間者とは常に信頼し合える関係にし、それでも目的は秘密にしなければならない。

どんな拷問を受けてもヒントを与えないようにするために。


「亞莎は何を探すの? 地方の記録?」


「はい。巴郡の生産記録と土地について調べ直そうと思いまして」


巴郡は成都の隣の地方だ。

益州は基本的に山が多いため、兵糧が生産できる土地に限りがある。

天然の要害で守りやすい、と言うのはあるけど。


少しでも兵力をあげたい為、空き地を捜してその地方の天候や地形に合った生産品を作る。

その為にこうして調べ直すこともあるのだろう。


「雛斗さまはもう少し休まれるべきです。仕事熱心なのは結構なことですが」


記録を集めた本棚を巡りつつ亞莎が言った。


「うーん……。兵力がまだ増強できそうな内は俺は徴兵計画とか軍備増強に手をつけなきゃいけないからね。今は徴兵しないでいるけど」


兵法書から目を上げて頬杖をつきながら考える。

その二つの重要な仕事がなくとも新兵の調練計画、警備の報告、自身の部隊の調練など仕事は絶えない。

軍事の総括は戦がなくなりでもしない限り、仕事が減ることはないだろう。


「愛紗さまとお二人で仕事をなさればどうでしょう?」


「……良いかもしれないけど、愛紗に悪いよ。折角一刀のお目付けに手が回せるようになってるんだから」


「それはそうかもしれませんが」


「今のままでいいよ。大丈夫だよ。身体は丈夫なんだからさ」


「…………」


亞莎が本棚からこちらを見てため息をつきそうな顔をした。


それを見て兵法書を閉じた。

これ以上ここにいたら、また亞莎に小言言われる。

亞莎は仕事なんだから俺を気に止めることはない。


「ま、亞莎がそこまで言うんだったら昼寝でもしよっかな」


「……その方が良いですよ」


亞莎の顔がパアッと明るくなった。

わかりやすい娘だなぁ。


「じゃ、仕事頑張ってね」


「はい。お休みなさい」


お休みなさいと言う亞莎に苦笑して手を振り、図書館を出た。

昼寝の前に昼飯食べよ。

そしたら腹ごなしに鍛練をしてから寝よ。

寝てないと亞莎に無駄な心配かけさせるしね。

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