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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ4.益州にて其の二
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拠点フェイズ4.愛紗

「了解。……眠いのに押し掛けてきてゴメンね」


雛斗は桃香様に返事して執務室を出た。

窓の外は既に真っ暗で桃香様とご主人様の執務室も火の灯りがつけられていた。


「……疲れてるのは雛斗の方だろ」


雛斗が去って、ご主人様が口を開いた。


「だよねぇ。さっきの報告だって仕事の合間に煮詰めて仕上げたものでしょ?」


「雛斗自身、軍備の強化を急いでいるところがありますから。疲れるのも当たり前でしょう」


桃香様の言葉に続く。

先程雛斗が来たのは特殊な騎馬隊の増設の報告だ。

我々蜀は山間にありながら騎馬隊の部隊が豊富だ。

涼州の翠とたんぽぽ、北平の白蓮殿、星や霞、恋や鈴々、もちろん雛斗も騎馬に関しては卓抜したものを持っている。

が、多くは真正面からの突撃を得意としている。

その中で雛斗は奇襲を得意としている騎馬隊を少数ながら率いている。

ただ混乱させる奇襲より、やはり破壊力もある奇襲の方がいい。

そこで雛斗の騎馬隊を中心に特殊な騎馬隊を作ろうと朱里と雛里から提案があったのだ。

特に詠が騎馬隊の増設に賛成なことから強く推してきた。

多くの敵を敵より少数で圧倒してきた雛斗の騎馬隊が増設されれば、戦で起点作りができる。


しかし、やはり最近の雛斗は頑張り過ぎている。

この蜀のためにやってくれていると言うのはわかる。

だがそれも雛斗の身体があってこそだ。


「さっきの騎馬隊の訓練の件だって増えたし、加えて元の雛斗の部隊の訓練だってするんだろ? いつか本当に倒れるぞ」


雛斗は私たちにとっていなくてはならない、大切な存在になっている。

倒れてもらっては困る。


「今回の騎馬隊は奇襲、突撃が主な仕事です。奇襲、突撃を得意とする雛斗に任せたい、と言うのが朱里たちの意見ですから。外す訳にはいきませんし」


「……愛紗、徴兵はしばらくはないんだよな?」


なにやら考え込んでいたご主人様が顔を上げた。


「はい。雛斗の騎馬隊も既存の兵から選抜します」


「大きな仕事は調練だけ?」


「そうですね。今回の騎馬隊の調練が今後の雛斗の大きな仕事かと。あとはほぼ雑務です」


「なら今度の休み、愛紗が無理矢理休ませてやってくれ」


「無理矢理?」


ご主人様の物騒な言葉に眉をひそめた。


「雛斗、休みの時も軍略書やら調練の視察やらで精神的に休まないだろ? いつだったか会議でも話したし」


確かに雛斗の休みはとても休みとは思えない。

ご主人様がおっしゃったことも然り、軍馬の交渉にも休みを利用して雛斗自身が赴いたりした。

身体は疲れなくとも精神的に気疲れしてしまう。


「氷さんが言って休みらしい休みを取るようにはなったらしいけど、それでもまだ続けてるし。愛紗が強く言えば、雛斗もわかってくれるかもしれない」


「……わかりました。ご主人様がそこまでおっしゃっるなら、雛斗に言ってみます」


いつか、雛斗に休む機会を作ってやりたいと思っていた。

これは良い機会だ。


───────────────────────


「ふぁっ、ああ……眠い」


だらしなく欠伸をして目を擦った。

昨夜は早めに仕事を終えたものの、長いデスクワークで身体がガチガチになったし、それだから仕事後に身体をほぐすために氷の鍛練に付き合い、さらに鈴々と打ち合いもしたために逆に疲れた。


今日は休みだ。

けど新しい軍略書をこの前見つけたから、それを今から買いに出掛けるため朝から廊下を歩いているのだ。


「買ったら茶屋でお茶しながら軍略書を読むかな。読みながら寝ちゃいそうだけど」


前も庭で寝転がりながら軍略書読んでたら寝ちゃったし。


「雛斗!」


と、不意に背中に俺を呼ぶ声がかかった。

振り替えると愛紗がこちらに駆けてきていた。


「愛紗? どうしたの?」


「いや、これから出掛けるところだったのだ。雛斗も一緒に行かないか?」


「北郷殿とじゃなくていいの?」


俺はまだ鈍感じゃないつもりだ。

愛紗は一刀のことを好いているはずだ。


「今日はいいんだ。それとも都合が悪かったか?」


「……いや、いいなら喜んで。それでどこに行くの?」


───────────────────────


「……やっぱり北郷殿と一緒の方が良かったんじゃ」


思わず呟いた。

時刻はまだ昼前。

ゆっくりとした歩みで愛紗についていったら、街から離れた小川にたどり着いた。

俺と愛紗以外誰もいない、二人きりになるには持ってこいの場所だ。


「なにか言ったか?」


「いや、一人言だから気にしないで。……でもなんでこんなところに?」


「二人きりの方が誰かに見られる心配もなくていいからな」


えっ……それってどういうこと!?

二人きりの方が良い、て……まさか、愛紗は一刀が好きなはず!


「雛斗、うつ伏せになってくれ」


考えを巡らせる俺は愛紗に呼ばれてそちらを見た。

愛紗の前に人が寝ても余裕のありそうな布が敷かれていた。


「なっ、なんで?」


「いいから!」


「うわっ!」


ドサッ


さすがは愛紗、俺を引き倒すとは……この黒薙、一生の不覚!


そして愛紗は俺に馬乗りになって俺の腰に両手を当てた。


ぽきっ


「んっ……あ、愛紗?」


「……な、なんだ?」


「もしかしてさ、身体ほぐしてくれてる?」


今の小気味の良い音は腰の骨が鳴った音だ。


「そうだが。……痛かったか?」


ああ、俺の杞憂だったか。


「いや、大丈夫だよ。でもなんでこんなことを?」 


「雛斗は本当によくやってくれている。だが顔から疲れが抜けてないし、雛斗はさらに無理をしようとする。それでご主人様が雛斗を休ませるように、と仰せつかったのだ」


「……そうなんだ」


そこまで考えてくれていたのは嬉しかった。

だけど、なんだろ……一刀に言われたからか。

なんかすっきりしない。

でも、仕方ないよな。

愛紗は一刀が好きなんだ。


「ふぅ……んぁ……」


肺の空気を押し出すように背中を押される。

愛紗の力加減が気持ち良い。

またぽきっ、と良い音がした。


「大丈夫か?」


「うん……へーき。気持ち良いよ……」


気持ち良くて眠くなってくる。


「良かった……私も雛斗に休んでもらいたい、と思っていたからな」


「……そ、そーなんだ」


意外なことを聞いてちょっと目が覚めた。

てっきり一刀の言葉でやってるだけだと思っていた。


「当たり前だ。いつだったか私が休みの雛斗を探していたとき、お前は軍略書を脇に置いて寝ていたのだぞ。会議でも雛斗のことが話題に上がる。私でも心配してしまうほど、雛斗は気を張り詰め過ぎている。それを見て、私は雛斗を休ませてやりたい。……そう思っていた」


「………」


うつ伏せで前に出した腕に顔を埋める。

やばい、嬉しい。

愛紗にそう思われることがこんなに嬉しいとは思わなかった。


「どうした? 雛斗。痛かったか?」


「なっなんでもない。気持ちよくて眠たいだけ」


愛紗に見られないよう顔を埋めたまま言った。

こんな顔、愛紗に見せられない。


「ふふっ。だったら寝ても構わないぞ。今日は休みなんだからな」


埋めたままそれに頷いて目を閉じた。

赤い顔見られるよりは、寝ちゃった方が顔見られなくていいかもしれない。


愛紗の手が肩を揉んでいる。

やや強めの力で揉んでいるけど、そのくらいがちょうどよかった。

さっきまでの眠気もあって、すぐに心地よい睡魔に呑まれた。


───────────────────────


「……寝た、か?」


うつ伏せの雛斗の顔を覗き込む。


「……相変わらず、可愛い寝顔をするな」


思わず笑みが浮かんでしまう。

なんだか恋を見ているのと同じ気分になる。


雛斗の身体から離れて隣に座る。

木陰が軽く揺れる風が心地よい。


「……すぅ……すぅ……」


静かな寝息がかすかに耳に入る。

そういえば、私は雛斗と二人きりだ。

男の人と二人きり……ご主人様以外の人と。


「んっ……すぅ……」


雛斗が寝返りをうった。

うつ伏せから身体が横になって私の方を向いている。

雛斗の寝顔がよく見える。


布だけで固くないだろうか……。


遠慮がちに雛斗の頭に寄って優しく持ち上げる。

起きないか心配だったが、目を覚ます気配はなかった。


ゆっくりと私の膝に頭を乗せた。

意外にやわらかい黒髪がくすぐったい。

頭を撫でるとさらさらと髪が揺れた。


不思議に胸が詰まった。

なにか物足りないような気持ちがした。


「……雛斗」


知らず知らずのうちに真名を呼んでいる。

私はどうしてしまったのだろう。

雛斗といるといつもこんな気持ちになってしまう。


戻ったら桃香様に相談してみよう。

あの御方ならわかるかもしれない。

今は雛斗と一緒にいたい気分だった。

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