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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ4.益州にて其の二
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拠点フェイズ4.黒永

休みの日は基本的に庭で軍略書を読むか、寝るかする。

それと新しい軍略書を仕入れに街に出掛けたり、黒鉄の様子を見たり……寝ることと黒鉄と過ごす以外は休みとは言えない使い方をしている……らしい。


軍略書を読むのは嫌いじゃないから別に苦にならない。

だから気にならない……けど。


「雛斗様、お休みください。それではいつか倒れられます」


って、言われちゃうんだよね。

特に氷なんかに。


昼前の庭の木陰で涼んでいたところだった。

もちろん休みをもらったからだ。

手には軍略書が開かれ、寝転がりながらそれを眺めていた。

そこに通りかかった氷に見つかり、叱責を受けてしまっている。


「倒れはしないよ。本読んでるだけなんだからさ」


「そうでなくとも気を詰め過ぎです。有事以外、せめて休みの時くらい気分転換になるようなことをしてください」


「うーん……だけど軍略書読むの嫌いじゃないし」


「好き嫌いの問題では無くですね……」


むぅ、今日は氷も粘るなぁ。

氷が俺のことを思って言ってくれてるのはわかってる。

だけどなぁ……。


「あれ? どうしたの、二人共」


そこに桃香が通りかかった。

こちらに歩み寄ってくる。

休憩しに来たんだろう。


「珍しいね、二人がケンカするなんて」


「ケンカじゃないんだけどね。ちょっとした言い争いだよ」


「言い争い? 何かあったの?」


桃香が仲裁に入るつもりのようだ。

うーん、桃香は絶対氷の側につくんだろうなぁ。


「……雛斗様がちゃんと休まれないのです。こうして休みでも軍略書を読んでいるのです。だからちゃんと休んでいただきたい、と申しているのです」


先に口を開いたのは氷だった。

俺を一瞥してからだ。

二人の言い争いに巻き込んで良いのか、と言う問いだった。

断っても悪いと思い、俺も目で見返した。


「なるほどねぇ。それで雛斗さんは気にしないからって言い争ってたんだ」


「そうなるね」


「うーん……やっぱり氷さんの方に賛成かなぁ」


やっぱりね。


「朱里ちゃんや雛里ちゃんもそうだけど、私も休みの時くらい息を抜いて欲しいと思うな」


「だけど」


「だけど、じゃないよ雛斗さん。雛斗さんに倒れられたら軍事は崩壊しちゃうんだよ? 雛斗さんは愛紗ちゃんに任せられて軍事の頂点にいるんだから」


「そうです。雛斗様はその自覚に欠けています。本当にお休みください」


「……倒れはしないけど、そこまで氷と桃香が言うんなら休むよ。でもさ」


これ以上言っても氷たちが納得してくれなさそうだから、こっちが折れた。


「でも?」


「……休むって、何すれば良いの? 息抜きって言ったって、今まで休みをこうして過ごしてきた俺にはわからないんだけど」


首を傾げる桃香に肩を竦めて見せた。


「雛斗さんの好きなことをすれば良いと思うよ」


「……好きなこと?」


それを言われて考えてみた。


うーん……俺の好きなこと?

なんかあるかな……うーん……。


「……ないかも」


「えぇぇぇぇえ!? 何もないの!?」


桃香が流石に驚いて訊いた。

氷はため息をついているだけだ。


「うーん……探しても見つからないもんだね。あはは」


苦笑しながら俺は開いた軍略書を置いた。

うーん……今まで休みはホントにこうやって過ごしたから、今となっては好きなことが何かわからない。

一刀みたいに女の子を誘う、なんてことは俺にはあんまりできないからなぁ。

星とか霞がときどき酒に誘ってくれるけど、それも自分から誘うことはしないし……女の子に対しては優柔不断だよ、俺は。


「うーん……なら、みんなに訊いちゃおう!」


─────────────────────


「雛斗が休暇に何をするべきか、ですか?」


愛紗が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

氷との口論の日の翌朝の定期会議だ。

場には劉備軍の将士全員が会していた。

もちろん俺や氷もいる。


「……桃香様、こんなことをみんなに相談しないでよ」


ため息をついてしまう。

別にみんなに相談するほどの大事じゃないでしょ、俺の休暇なんて。


「確かに雛斗は休暇とは思えない休みを過ごしているな」


一刀が腕を組みながら言った。


「軍略書を読み、新しい軍略書を購入し、長期休暇には涼州に軍馬を購入しに行ったな」


「えっそうなのか? 雛斗」


愛紗の言葉に翠が食いついた。


「うん。翠と蒲公英も誘おうと思ったけど、生憎仕事だったから」


「あ~、久し振りに行きたかったなぁ涼州……」


「お姉様、今は焦点が違うよ。雛斗さん、ホントにそんな休みを過ごしてるの?」


「まあ、そうだけど」


「いかんな、それでは。休暇ぐらい好きなように過ごせば良いものを」


「そう。そこなの」


桔梗の言葉に桃香が指さした。


「雛斗さん、休みをそんな風に過ごしたから好きなことが何かわからないんだって」


「好きなことがわからない?」


桃香の言葉に焔耶が首を傾げた。

みんなも同じように首をひねっている。


「うん。休みって言ったって何をすれば良いか……それがわからないんだよね。桃香様に好きなことをすれば良い、て言われたんだけどその好きなことがわからないし」


「氷お姉ちゃんはわからないのか?」


鈴々が訊いた。

何でこんな真面目に考えてるの、みんな。

人の休みなんかに真面目にならないでよ。


「残念ながら。雛斗様は洛陽におられた頃から、先程愛紗殿がおっしゃったような休暇を過ごしていた上に、それ以外は調練に打ち込んだり、仕事に駆り出されておりましたから」


一番長くいる氷でさえこれだ。


「……これは難しい問題ですね」


朱里が深く考え込んだ。

いや、だからこんなことで真面目に考えないでよ。


「そう言う朱里と雛里も俺と変わらない休み方、してるでしょ」


「確かに軍略書などは読んだりしますが、一応好きなことはさせてもらってますよ」


朱里が俺に答えた。


「好きなことって何?」


「お菓子を作ったり、朱里ちゃんとかとお茶をしたりしてます」


「朱里と雛里のお菓子は美味しかったのだ」


雛里の言葉で鈴々がその時のことを思い浮かべているようだ。

顔、にやけてるよ。


「ふぅん、氷もお菓子作ったりはするんだよね」


「えっそうなんですか?」


朱里がちょっと意外に思ったらしい。


「下手の横好きですが」


「そんなことないよ。ちょっとした店よりも俺は美味しいと思うよ」


「……あ、ありがとうございます」


褒められたのが嬉しかったのか恥ずかしかったのか、氷がちょっと俯いた。

たぶん、両方かな。


「氷お姉ちゃんのお菓子も食べてみたいのだ!」


鈴々が食いついた。

黙ってるけど、恋も食べたそうにしてる。


「良い機会だし、次のお休みは氷さんと過ごしたら? 雛斗さん」


─────────────────────


「もう少々お待ちください。あとは揚げるだけですから」


台所を覗くと氷がすぐに気付いて言った。

一刀デザインの薄い緑のエプロンがよく似合っている。

一刀、未来の服をよく女の子に着せてる……言い方悪いね、女の子に着せて鑑賞してる、て言ったら……女の子にプレゼントしてる。


あの変な会議から数日後、ホントに氷と俺に休みが与えられた。

そこまで気を使わなくて良いのに。

で、その日言っていたお菓子を作ってもらっていた。

お菓子を作ってもらうのも、いつか料理を作ってもらった時と同じく久し振りだ。


「また外で食べよ。庭で良いかな?」


氷の邪魔をしないよう台所の卓について訊いた。


「そうしましょう。侍女を呼んでいただけますか?」


「よろこんで」


侍女を呼んで庭の東屋に運んでもらった。

作ったのは胡麻団子だ。

綺麗な丸の団子が皿に並んでいる。


「なんか悪いね。俺がちゃんと休んでたら、あんな会議する必要なかったのに」


席に腰掛けながら言った。

氷も隣に座る。


「いえ。その、私は雛斗様と過ごせて嬉しいですから……逆に得した気分です」


ちょっと頬を赤らめて俯きがちに氷が言った。

こういうところが女の子らしくて可愛いと思う。


「桃香に感謝しないとね。じゃあ、いただきます」


「はい。お召し上がりください」


頬が赤いまま、はにかみながら氷が言った。


胡麻団子をつまんで口に放り込む。


「……うん、美味しいよ。氷」


「……ありがとうございます」


笑みを浮かべて言ったら氷がまた赤くなった。

おずおずと言った様子で俺の肩に寄り掛かってくる。


俺の心臓の音が聞こえてないか、不安だった。

最近、氷はこういった風に積極的になってる。

それを受け止める俺は高鳴る心臓の音を必死で抑えなければならなかった。


「……今日が終わったら、また雛斗様と離れてしまうのですね」


ようやく心臓の音がおさまった頃、氷も赤いのが戻った顔で呟いた。


「……仕方ないね。皆にとって俺と氷、なくちゃならない存在みたいだし」


寄りかかられていない方の手で頬をかきながら同じくらいの声量で呟いた。


「また、苦しい時間を過ごさなければならないのですね」


「苦しいって言わないでよ。国のためだよ?」


「承知しておりますが……離れている時間が憂鬱です」


黒薙軍解散、劉備軍加入までほとんどずっと側にいてくれた。

いきなり環境が変わってしまったのだから仕方ない。


「わかるけどさ、我慢してよ。俺も我慢するから」


肩の氷の頭に俺の頭をのせた。

ちょっとぴくっ、てしたけど拒絶されなかった。


「雛斗様はお強いです。我慢できるのですから」


「強くないよ。皆がいないと、俺は何もできない。氷がいないと、何もできないから」


「…………」


氷が無言で俺を見上げた。

頭から離れて氷を見つめる。


「人は一人じゃ生きていけない。桃香だって、愛紗と鈴々で三人で支え合ってる。俺も氷に支えてもらってる。氷が苦しいのもわかる……俺も苦しいから、二人で耐えよう?」


「…………」


氷の頬がまた赤くなった。

たぶん、俺の頬も赤い。


自然に互いに顔が近づき合い、唇が重なった。

氷なら我慢できるよね。

俺の従者なんだから。


そう言えば、結局俺の好きなことわからなかったけど、こうやって氷と過ごすのは気を抜けることかもしれない。

桃香たちにこれ、言うわけにはいかないけど。

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