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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第九章.臣従と蛮勇の族
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後門の蛮族

「不気味な軍だ……」


愛紗が敵陣を睨みながら呟いた。


既に俺たちは軍を展開して五胡と対峙していた。

敵の装備は仮面を筆頭に挙げればいくらでも出てくるものは異様だ。

どこか狂戦士を思わせた。


「気が抜けんな」


「小難しいこと考えんな。全力で行くぜー!」


「当然なのだ!」


「応さ!」


「……やれやれだ」


星の言葉に翠と鈴々と桔梗が意気揚々と言った。

そして星は呆れている。


「……流石に考えて慎重に動いた方が良さそうだな」


「せやな……。なんやあの陣形は?」


「雛斗さま、あの陣形は?」


俺の呟きに霞と亞莎が訊いた。


一見、鶴翼に似た陣形だけど、くの字の凹みになる中央の出っ張りから後ろに陣が伸びている。


「……いや、俺も見たことが無い。鶴翼かと思ったけど、どうも弓だけに特化した陣形じゃなさそうだね」


鶴翼陣は弓を活かす陣形だ。

こちらがそれに当たる。

だけど、槍を持つ歩兵が先頭に立っている。


「……後ろに弓兵がいたら恐いね、あれだと。騎馬でがむしゃらに突っ込んだら歩兵の槍の餌食だし」


「……弓矢安定やな」


「こちらの弱点を突かれないよう慎重に動いた方が良さそうだね。……各武将は陣形、攻撃を俺の指示のみで行って。なんとか奴らの陣形を読み切ってみる」


俺の部隊は桃香たちとは少し離れていた。

愛紗を総大将に八万、俺を残り二万の大将。

流石に今日までに兵は集まらなかったから、黒薙軍の元の八千と残り一万二千は桃香の兵を借りた。

損害は少なくしないと……。


そして俺は特別に独立行動権が与えられていた。


奇襲、強襲を得意とする雛斗さんを上手く活用するには独立で行動して雛斗さんの判断に任せるのが一番です……って、朱里と雛里が言ってた。

そこまで買われるとかなり恥ずかしい……けど、確かに上の命令に従いつつ期を見て奇襲しろ、なんて難しい話。

独立で行動できるのはありがたかった。


「了解」


「御意」


霞と亞莎が持ち場に戻った。


「伝令部隊はすぐに部隊に伝達できるよう、常に乗馬しているように。この戦……情報伝達の早さが重要になる。心しておいて」


『応っ!』


愛紗と俺の軍が矢を放った。

あちらも矢を放っている。

矢を放っているのは、あの陣の伸びた部分だ。

それで歩兵は安心して先頭に立てるって訳ね……こちらが騎馬で突っ込んだらは歩兵、歩兵が迎撃したら弓兵に任せればいいんだから。


「亞莎に伝令。一時、大将を任せる。関羽軍と同じ行動。のち、俺の奇襲に呼応せよ」


「一時、大将を任せる! 関羽軍と同じ行動! のち、黒薙様の奇襲に呼応せよ!」


復唱してから伝令がすぐに駆け去った。


「霞に伝令。大将を亞莎に任せる。騎馬で敵の矢の射程範囲ぎりぎりで誘え。ただし、突撃は厳禁。俺の奇襲を待て」


同じく、復唱して伝令が去った。


「黒薙部隊は奇襲の準備をする! 深夜、敵にも味方にも気付かれぬよう、敵の側面に潜む!」


『応っ!』


───────────────────────


あれから十五日経った。

関羽軍は意外に苦戦していた。

やはり、知らない陣形だと戦いにくいのだろう。

亞莎は、よく部隊を動かしていた。

霞も上手い具合に矢を避けつつ、歩兵の迎撃を誘っていた。

そうすれば関羽軍の矢を当てやすくなる。


「……そろそろ、俺の出番かな?」


そう言うと兵たちが笑った。

自惚れだけど、俺の奇襲の強さを兵たち自身がよくわかっているからだ。

俺たちは敵の側面より少し離れた丘の裏に潜んでいた。

総勢二千。

元黒薙部隊だ。

奇襲するには十分だ。

奇襲は要は相手の不意を突くことが最念頭にある。

兵数や騎馬は二の次だ。


「行くよ、黒鉄」


小さく黒鉄に呟き、丘を駆け上った。

頂上に達し、眼下には異様な敵陣。

敵は前の関羽軍しか見ていない。


「では行くとしようか! 我ら、黒薙軍の絶対必中の奇襲を見せてやれ!」


『応っ!』


黒鉄の腹を絞める。

一度棹立ちになって、着地と同時に駆けた。

丘を駆け降り、後ろから兵たちがついてくる。


すぐに敵陣の伸びた部分と、くの字の陣とを分断するように突っ込んだ。

黒鉄が敵を踏み、跳ね除ける。

俺が黒槍で敵を跳ね上げ、弾き飛ばす。

敵陣を駆け抜けると、反転して伸びた部分の弓兵の陣にまた突っ込んだ。

敵の弓兵は対応できずにいくつにも陣が分断される。

歩兵の方の陣も弓兵と分断されて混乱したところを、霞や愛紗たちが突っ込んでいるようだ。


───────────────────────


「雛斗、見事な奇襲だった! 損害少なくできたのはお前のお陰だ」


愛紗が俺の姿を見てホッとしたような表情をした。


殲滅戦を終えてから俺の部隊は霞や愛紗の軍と合流した。

愛紗の言う通り、損害は少なくできた。


「ありがと。それにしても……不気味な軍だったね。蛮族とは思えない動きだったよ」


「うむ。機を見るに敏、整然退却しているところを見ると、奴らは相当戦慣れしている」


星がまだ表情の険しさを変えずに言った。


「退いていったとは言え、これから五胡の侵略が無いとも言い切れないよね」


「はい。今後、五胡の侵攻が続くと厄介です」


朱里が答えた。


「前門のクルクル竜とこわーい猛虎さん。後門には変な格好してるのにすっごく強い蛮族さん。……前途は多難だねぇ……」


ため息をつきたそうな表情で桃香が言った。

クルクル竜って……曹操のことか。

で、猛虎が孫策か……的は射てはいるけど。


「今は、撃退したことで一息ついておこう。……あとはどうしよう?」


一刀がそう仕切って朱里に訊いた。


「この辺りに鎮守府を築き、兵隊さんを常駐させておきましょう。今はそうするしかないかと……」


それしかないか。

何もしない訳にはいかないし。


「でもこんな辺境にずっと居るの、可哀想じゃないかなぁ?」


「そうも言ってられないけど。仕方ないから、一年の勤務で交代させていくしかないね。何とか我慢してくれると思う。ま、本城の戦力低下は免れないけど」


桃香の言葉に俺は肩を竦めた。

兵は誰だって辺境にかためられたら肩身の狭い思いをする。

兵のメンタル面は常に考えてやらないといけない。


「仕方ありませんね……。雛斗さんの案が的確かと」


「でもさー。兵を率いる将はどうするのー、雛斗さん?」


蒲公英が訊いてきた。


「曹操、孫策からの攻撃が今は一番恐いから俺たちからは引けない。だけど、背後の五胡も相応に恐い。……優秀な奴を割くのは痛いけど、張仁と呉懿、呉蘭に任せよう。あとは内政と謀略担当に法正が欲しいけど、良いかな?」


「仕方ありません。それだけ揃っていれば安心かと」


朱里が頷いた。

張仁と法正は優秀だから本当は曹操、孫策戦にとっておきたかったけど……辺境とは言え、強力とわかった五胡に対応するには優秀な将を割くのはやむを得ないか。


「了解。じゃあそれでいこー♪」


桃香が笑顔で言った。

先程まで戦に立っていたとは思えない笑顔だ。


「俺たちの軍は先行したい。良いかな、桃香様?」


「もちろん♪ 気をつけてね」


「ありがと。……霞、亞莎。すぐに発つよ!」


「ほいきた!」


「御意!」


霞と亞莎の返事と共に歩き出した。


─────────────────────


「……桃香、なんで雛斗の軍を先に行かせたんだ?」


「……わからないの?」


「?」


「はあ……これだから朴念仁と言われるのですぞ、主」


「ご主人様。雛斗さんの向かう先には誰が戦っているのかなー?」


「……ああ!」

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