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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第九章.臣従と蛮勇の族
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従者の試練

「……さて。皆も知っての通り、西方と南方に外敵が侵入しつつある。これに対処しなくちゃいけないんだけど……」


一刀がそう切り出した。

益州の国境付近の街を荒らし回る集団がある。

西方の五胡と南方の南蛮だ。


今はそれに対処するための軍議を開いていた。


「残念なことに、私たちには二正面作戦を実行できるほどの軍事力はまだありません」


朱里がしゅんとしながら言った。


「しかしこの件の処理に手間取れば、今まで私たちが来たのを歓迎してくれていた人々が、一斉にそっぽを向いてしまいます……」


「自分たちをしっかり守って貰うために、我らを受け入れたのですから、当然でしょうなー」


雛里の言葉にねねが容赦なく言った。


「皆が皆、桃香さまの心に触れ、その理想に全てを捧げた訳では無い、か……」


「民たちはただ、平和であればいいんだからね。守ってくれない奴らを受け入れる、なんてうまい話はないさ。民たちに利がない、てことだから。不利に手を差し伸べるほど、この乱世を暮らす民の心に余裕はないよ」


肩を竦めて俺も言った。

街の民たちは、俺たちの姿を見ると笑って声をかける。

しかし、守れなければそれが霧散する。


「雛斗の言う通りだ。ささやかな希望を守ってくれない者など、必要とはされんだろう」


近くの星も厳しく言った。


「所詮は利、か。……まぁそれが現実だな」


白蓮が表情を険しくした。


「利は人を動かす原動力でもあります。雛斗さんの言う通り、自分の周囲に利があるのか。……利とはそれほど重要なものですわ」


紫苑の表情も厳しい。


「しかし利に溺れれば我利我利の亡者となる。……感心は出来んな」


「何かしらの誇りを持つ奴だったら、みんなそう言うさ、桔梗さん。今のこの御時世じゃ、民たちは亡者になってでも生き延びるのに必死。……考えてること、志が違うんだから仕方ないよ」


「志に違いがある、か……」


一刀がちょっと目を伏せて呟いた。


「今はとにかく、外敵を素早く撃退する方策を考えるべき……でしょ?」


考える一刀に俺は言った。

考えることだったら何時だってできる。


「そうだね。……雛里ちゃん。国境からの早馬にはどんな報告があったのかな?」


桃香も表情を引き締めて雛里に訊いた。


「攻められた状況の他、敵軍の初動を報告してくれてますね」


「初動?」


「敵軍の意図がどこにあるのかは、初動を見ればおおよその見当はつきますからな。……そんなことも知らないとは、やはりお主はバカですのー」


雛里の言葉に首を傾げた一刀を小馬鹿にするねね。


「なるほどなぁ。勉強になったよ、ねね。……ありがとう」


「ぐぬっ……べ、別に礼を言われるようなことではありませんぞ。むぅ……調子が狂うのです……//」


思わぬ反応にねねがちょっと赤くなって目をそらした。

珍しいな、ねねのこういう表情。


「それで敵の初動はどんな風なの? そこから何か分かる?」


「南蛮の方は周辺の村を襲った後、すぐに自領に引き返した。領土を狙う、なんてことで侵入した訳じゃないだろうね。あくまでも一過性のものだ、と読める」


一刀に俺が答えた。


「被害はどうなってるの、雛斗さん……?」


「兵力に差があったから、警備兵は抵抗はせずに村人たちを連れて砦に立て籠った。人的被害はないよ」


「そう。良かったぁ~……」


「……とは言え、西はそうはいかないみたいだ」


ホッと胸を撫で下ろした桃香に釘を刺した。

朱里も頷いた。


「西は、村の一つを占拠したあと、その村を拠点として周辺に被害を及ぼしています。……優先すべきはこちらかもしれません」


「ふーむ……」


一刀が考え始めた。


「朱里の報告が正しいのであれば、早急に西に向かうべきでは?」


「しかし南方も放っておいて良いという訳じゃないだろ? この際、部隊を二つに分けるべきだ」


愛紗の言葉を受けて白蓮が言った。


「伯珪殿は朱里の説明を聞いていなかったのか? 今の我らに軍を二つに分ける余裕は無い。強行すれば虻蜂取らずになるだろう」


星が呆れたように言った。


「んー。ならさ、南方の警備兵たちが立て籠ってる砦に、将一人と兵五千を派遣して、防衛に徹するっていうのは?」


「その手しか無いでしょうね」


翠の提案に雛里が賛成した。


「うわめずらしー! 翠の意見が通ったのだ」


「へへんっ。あたしだってやるときはやるんだよ」


「たまたまのくせに」


「うっせぃやい」


うん、鈴々。

俺もたまたまだと思ったよ。


「でもさー。南方には誰を派遣するのー? ……たんぽぽはやだよ。暑いし」


「ワガママを言うな。決めるのは桃香様だ。私たちはそれに従っていれば良いんだよ」


「また出た、桃香さま命。……じゃああんたが行けば良いじゃなーい」


「……軍議の場でケンカすんなや」


蒲公英と焔耶のいさかいに呆れて霞が呟いた。


「まったく、犬猿の仲って面倒だね。ま、こういうのは戦だと競い合って良い働きしたりするんだけど」


霞の言葉に俺が呟いた。


「さっすが雛斗。ええとこ見とるやん」


「相性悪い兵なんて俺の部隊でもいるからね。慣れたよ」


「言われんでも命令されれば喜んで行く。貴様と一緒にするな」


「なら決定だねー♪ 良かった良かった、これで万事解決ー♪」


バシッ


「きゃうんっ!?」


「要らんこと言うな。方針を決めるのはご主人様と桃香さまなんだ。それぐらい分かっとけ、バカ」


「ううー……お姉様がぶったぁ~」


流石に翠が体裁を加えた。

蒲公英に対してはしっかりしてるね、翠。


「おお、よしよし。翠は乱暴者だな」


「へへー、星お姉様、やっさしぃ~♪」


「うぉい、あたし一人悪者かよっ!」


そして星が混ぜっ返した。

星って場をかき混ぜるの好きだよね……。

とは言え、それのお蔭で場の雰囲気が和むんだけど。


「じゃあ翠の意見を採用しよう」


やがて一刀が決定を下した。


「守将には……誰が良いかな」


「私が赴きましょう。守りの戦いさ若い人には向きませんわ」


「うむ。紫苑ならば粘りのある戦が出来るだろう。お館様。わしが保証するぞ」


「桔梗の保証なら安心だね。じゃあ」


「待って」


そこに俺が異を唱えた。


「俺は黒永を推薦する」


「えっ!?」


俺の提案に黒永だけでなく、全員が驚いた。


「副将に恋とねねをつける。黒永は攻めよりも守りを重視する。そこに攻めが強く、しかも猛将の恋がいれば安定するし、兵の士気も上がる。ねねも軍師として支えてくれる」


「ですが、黒永さんを……」


雛里が言葉を濁した。

今まで黒永は俺に付き従っていただけあって、大将になった経験はない。

それだから黒永にも、みんなにも不安があるだろう。


「何かあったなら俺の首を刎ねてもらって構わないよ」


「黒薙様!」


黒永が厳しい声を上げた。

場も凍りついている。


「……氷なら出来るよ。心配しないで」


「っ……」


氷が息を飲んだ。

いきなり聞き覚えのない名前に周りは首を傾げている。


「……わかりました。周りの方がよろしければ、雛斗様の期待に必ずや応えてみせます」


───────────────────────


「雛斗さま。その、先程おっしゃっていた名前は……?」


亞莎が恐る恐る訊いてきた。


城を出た俺たちは、斥候を放ちつつ現場へ急行していた。

もちろん俺の部隊もいて、二千を率いていた。

騎馬は千くらいだ。


「氷のこと?」


「当たり前ではないか。まさか、とは思うが」


亞莎や星だけでなく、西に向かう将全員がこっちを見ていた。


「うん、氷は黒永の真名だよ。今まで言わなかったね」


「せやな。虎牢関から一緒にいたウチですら聞いたのは初めてや」


「まあ、俺も呼ぶのは三回目だけど」


「三回しか呼んでないの? なんでよ?」


流石に詠も驚いていた。


「……二回目が、虎牢関で恋と星、愛紗、鈴々と対峙する直前。一回目は……洛陽で警備部隊を率いてた頃、初めて盗賊と戦らしい戦をする直前」


「何か約束事でもしたのか?」


愛紗の言葉に俺は呟いた。


「『真名は、お互いどちらかが死地に赴く前にのみ呼び合おう』……て、決めたんだ。従者の誓いを立てた時にね。真名は簡単に呼び合うものじゃない、気を許した相手にのみ呼ぶのを許す。……俺たちの真名はそれ以上にしよう、てね」


「うわぁ~ステキ♪」


「なんてロマンティックな……」


「ろまん……?」


「趣があるってこと」


蒲公英が何故かウキウキしながら言った。

と言うか一刀。

未来の言葉をポンポン言うんじゃない。

いちいち翠とかに説明するんだからさ。


「まあ、そういう訳だからこれまでずっと黒永、黒薙って呼び合ってたのさ」


「雛斗さん。黒永さんのこと、真名で呼んで良いのかな……?」


桃香がやっぱり恐る恐る訊いた。


「桃香様たちは、真名を呼び合うのが決まり事なんでしょ? なら言って良いよ。氷に許可取った方が良いけど」


「雛斗は、それで良いのか?」


「……氷は俺が許した、て悟るだろうし。それに、氷だって俺の真名を常に呼びたがってた気配があったから。これを機会に真名で呼ぼうかな、て思ってるよ」


星に俺は言った。

周りが俺のことを真名で呼ぶ訳だから、氷が嫉妬して当たり前だと思う。


「流石雛斗や。女心がよーわかっとる」


霞がうんうん頷いてる。

女心? 嫉妬でしょ?

嫉妬は男でもするよ?


「……たぶんね」


とりあえず、曖昧に返した。

深く突っ込んだらなんかややこしくなりそうだし。


氷……それを乗り越えらられないようじゃ、俺の従者は務まらない。

だけど、俺は出来るって確信している。

なんでか……俺の従者だから。

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