拠点フェイズ3.亞莎
「警邏というのも久し振りだなぁ」
「雛斗さまは最近、軍事のお仕事ばかりなさっていましたしね」
亞莎が笑みを浮かべた。
晴れた今日は久し振りの警邏の仕事が回ってきた。
最近は亞莎の言う通り、愛紗から受け継いだ軍事の仕事が押していてデスクワークばかりだった。
警邏は亞莎と一緒だった。
亞莎が買い物に出掛けるところに鉢合わせて一緒に行かないか、と誘った。
赤くなってあたふたしていたけど、よろしくお願いします、と言われて一緒に街に出た。
なんでよろしくお願いしますなんだ、とか思ったけどスルーした。
「いい気分転換になれば良いのですが」
「なってるよ。こうして街を回るだけでも。とは言え、一応治安維持の仕事なんだけどね」
「黒薙様~!」
と、いきなり通り掛かった店から声がかかった。
恋とよく行く飯店だ。
「あ、いつもご馳走になってるね」
「いえいえ。呂布様が美味しそうに食べていただけてなによりです。今日は呂蒙様とご一緒ですか」
「昼御飯はもう食べちゃったから寄れないけど」
「いえ、また呂布様といらしてください」
「そうするよ。では、一応警邏中故失礼するよ」
「お仕事中、呼び止めて申し訳ありません」
それで店を後にした。
「……雛斗さまはよくあの店に寄られるので?」
ちょっと店から離れてから亞莎が口を開いた。
「頻繁には行かないよ。時々恋と一緒に昼御飯を食べに行くくらいだよ」
「そうですか……」
ん? なんか亞莎の表情に陰ができたような……。
「そういえば、亞莎とはまだ二人きりで食事をしたことなかったね」
「……え?」
ふと思い付いたことを言うと亞莎がきょとん、とした。
「思えば亞莎は俺の軍に入ってからゆっくりできなかったよね。ゴメンね」
「ひっ、ひぇ! 私が自分で雛斗さまの下につきたいと決心したのですから!」
「下につくんじゃなくて、仲間でしょ?」
「あ、あぅ……申し訳ありません」
言い直してやると、何故か亞莎は頬を赤くして俯いてしまった。
なんか恥ずかしいこと言ったかな、俺?
「まあ、とりあえず。時間が合う時にでも昼御飯、一緒に食べようか?」
「……わ、私などを誘ってくださるのですか?」
「私など、とか言わない。俺は一緒に食べたいって思ってるんだから」
「……何故、雛斗さまはそんな」
「ん?」
「な、なんでもありません! 一人言です!」
「……悩みがあるなら相談してね?」
なんか干渉するのも悪い気がしてそれで切り上げた。
亞莎は時々こうしていきなり赤くなるよね。
なんでかわからないけど。
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「……と、ここで東地区は終わりだね」
警邏の担当地区を回り終え、首をひねった。
ポキッと気持ちの良い音がした。
「お疲れ様です」
しばらく真っ赤だった亞莎が言った。
あれからまともに話さなかった。
ちょっと傷ついたけど、まあ元に戻ったからいいか。
「さて、と。……亞莎は? これから仕事?」
「はい。あの、買い物にお付き合いいただいて……」
「いや、俺が誘ったんだし。気にしないで。仕事、無理せず頑張って」
「あ、ありがとうございます……」
また赤くなりながら頭を下げ、亞莎は城にそそくさと去っていった。
なんで赤くなるんだろう?
とりあえず近くの茶屋に寄った。
この茶屋に来るのも何日振りかな?
「あ、黒薙様。いらっしゃいませ。最近お顔を見ませんでしたが」
茶屋の女性店員が注文を訊きに来た。
「仕事も大変でね。今日は警邏だったから」
「そうでしたか。劉備様が来て以来、この街は明るく活発になりました。大変嬉しいことです」
朱里や雛里だけじゃなく、桃香や一刀だって劉備軍全体が国を想って働いているんだ。
まあ、一刀は愛紗のお目付けが必要な時があるけど。
「お茶と団子を頼むよ」
「ありがとうございます」
店員が去ってから、ちょっと考えた。
街が活発になっている。
桃香たちのお陰で。
そこに、亞莎や黒永などの黒薙軍の陣営も加担している。
もはや、劉備軍の一部として見られている。
「……そろそろ、みんなに訊かないといけないかな」
そう小さく呟いた。
さっき亞莎に訊けば良かった、と今にして思った。
お茶に誘えば良かったかな。
初めて二人きりでお茶しよう、て。




