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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第三章.反董卓連合と生きる誓い
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嵐の予感

 あれから俺と黒永は大きいとは言えないが、それなりの大きさの輜重隊を発見。

 敗走してくる多くの味方で動揺した輜重隊の黄巾党は、既に逃げ腰だった。こちらも大きく広がって人数を多く見せた。速攻で蹴散らした。

 輜重隊の駐屯地を確保して間もなく、駐屯地を奪取しようと約三千の部隊がこちらに送られた。少し近くまで引き寄せてから、駐屯地を離れた。

 数で押したと思った黄巾党はそのまま駐屯地に堅陣を敷いた。まずは輜重隊を確保したいのだろう。

 そこに火矢を放った。あらかじめ置いておいた渇いた木や枯れ草に火が移り、すぐに燃え上がった。

 大きく乱れた黄巾党は燃えた輜重を諦めて、バラバラに敗走。集団になって逃げようとした部隊もあったが、数も少なく、大抵打ち払えた。

 劉備たちの方も、曹操と組んで本隊の脱け殻である本拠地を叩いたと言う。

 これらの働きと張角兄弟の死の噂もあり、黄巾党は瓦解した。


「私は、解せぬのですが」


 黒永がさぞや不満そうに言った。

 黄巾党がなくなったことで功績によって官位が与えられた。公孫瓚は幽州、劉備は平原郡へ。

 自分はというと、洛陽の警備部隊の総隊長──丁原の配下中で、官位が貰えたという程度の話だ。


「まあ、そう言わないで。大きくなりたいとはいえ、別にそこまで官位が欲しいわけじゃないし」


 苦笑しながら黒永から書簡を受けとる。

 自分の官位は、それほど高い位じゃない。低いほどだ。どこかの州や郡の太守みたいに土地を持つわけでもない。功績がそれほどでもないのに地方の太守になった者もいるのだ。どうせ賄賂を使っているのだろうが。


「兵も五百から増えず──まこと、おかしな世の中になったものですね」


 黒永が隣の席に座って積まれた書簡を低い方から手をつけた。

 高く積み上げたものは後でやってもいいもの、低い方は重要なものや急ぎのものとで、わかりやすく分けていた。黒永の指示によるものだ。黒永はこうした事務は得意だった。

 おかげで前の総隊長より的確で早い、と評判が立った。

 仕事もそうだがもちろん、警備の方も鍛えた兵を規律よくして強化した。不正や暴行は許さない。警備体制も厳しくし、俺自身も洛陽の街中に繰り出すこともしばしば。

 その成果もあってか、多少ではあるが、洛陽に名は売れたきた。悪い気はしない。しかし、兵たちに戦績に見合うものを見せてあげられないのが些(いささ)か不満だった。兵の頑張りに応えてやれない。


「それを憂い、嘆く者もいないわけじゃないよ」


 書簡を素早く読み込み、二つに積み上げられている山に分ける。片方の山に高さが偏っている。

 黒永が書簡を読み、それを選り分ける。黒薙自身の裁断が必要な物以外は、黒永に任せていた。その判断は、首を傾げるようなものもあるけど、それも聞いてみれば黒永の判断したものは大抵正しい。


「しかし、少ないですね。帝を敬わない者が多いです。特に、十常侍がひどいです。霊帝の寵愛を受け、絶大な権力を持っていますから。それらからの、賄賂の横行がひどすぎます」


 十常侍は、霊帝の側に使える高官中の高官だ。仕事としては、霊帝に進言する御意見番のようなものなのだが、この十常侍を霊帝は好んで用いていた。


「ちゃんと避けられてる?」


「そのような失態は犯しません」


 賄賂の話は絶対にとらないようにしている。気分が悪くなることを、自分でやるはずがない。誠のことから目を反らす、小狡い言い訳のようなものにしか過ぎない。

 とはいえ、あまり無下に断ると何をされるかわからない。上手く断ることが、生き残る道筋だ。そういったやりくりも、自分より黒永の方がよっぽど上手い。


「事務仕事は私に任せて、兵の調練に行ってください。今日は、お客様がいらっしゃいますから」


「わかってるよ。へまはしない」


 警備部隊の視察にやってくる者が今日はある。

 確か、十常侍の一人だった。


「へまの心配はしませんが」


「調練にへまなんてしないよ。応対もしない」


「なら良いのですが。お言葉にお気をつけて」


 頷いて、執務室を出た。


───────────────────────



「素晴らしい。あれほど錬度の高い警備部隊は、そうはおらんでしょう」


「もったいないお言葉にございます」


 恭しく頭を下げた。

 五百の兵の調練。少ない騎馬の者も降り、歩兵となって槍を振るっている。

 歩兵で一番脅威なのは、実は騎馬だ。弓も脅威だが、歩兵、弓兵、騎兵の基本三種の中で一番の素早さと攻撃力を持つ騎馬は、やはり強い。

 しかし、歩兵は槍だからこそ騎馬を迎撃できる。槍なら、被害は最小限で相手に痛手を与えられる。横に並んで槍を突き出す。これで馬止めの柵代わりになる。大声を上げて槍を突き付けて挑めば、馬もその兵も怯む。

 今はその訓練をやっているのだ。


「そなたに警備させれば、洛陽は安泰ですな」


 そなたに、というところが強く発声された気がした。十常侍の視察は丁原に送られたものであるが、最近、丁原の容態が思わしくないので、自分に回ってきた。

 先立って案内するまま、振り向かなかった。何か危険な臭いがした。


「兵が五百──少ないと思われませんか?」


 確かに少ない。洛陽は都。広いし、人が繁雑している。


「私は、不自由を感じませんが」


「そうですか。これが三千になったなら、洛陽は完璧に警備を網羅できましょうな」


 三千──魅力的な数字だ。

 敵が倍する数でも撃退する自信が、黒薙にはあった。五千と一万ではきついかもしれないが、三千で六千を相手に勝てる自信がある。


「身に余るお話です。数が多ければいいというわけではありません。むしろ、多ければ多いほど調練が行き届かなくなり、動きも制約されます。ですから、五百で丁度良いのです」


 丁原は、もう長くないだろう。仕事の後継ぎに、自分が選ばれることはないだろう。頭となって防いでいた丁原が消えたら、今まで溜め込んでいたのを解放するように、他の配下が賄賂を使う。そのうちの誰かが、その職に就くだろう。

 自分は追いやられることだろうし、どうしたものかと、黒永と悩んでいた。


「黒薙殿は官位が低くあらせられる。三千は無視できない数です。錬度が高ければ、すぐに将軍に上がられましょう」


 追い出されたとしたら、自分は浪人である。そこを、この十常侍が引き込んで、有力な手駒として使いたいという魂胆だろう。


「私は、今の暮らしに不満はありません。今の平穏な洛陽を守り、気ままに暮らすのが合っています」


 十常侍が黙り込んだ。欲のない士、今はそんな具合に思わせておけばいい。


「──おや、もうそろそろ時間になろう。途中ではありますが、ここで失礼します」


 と、十常侍は帰った。

 しばらく兵のかけ声を聞きながら考え、やがて調練の終わりを告げてから屯所に戻った。

 おそらく、嵐はすぐそこまで来ている。

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