表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第八章.黒龍黒薙と奸雄曹操
38/160

黒龍対覇王 前編

「みんな、ゴメン。俺、どうかしてた」


「雛斗さま……!」


「黒薙様……!」


「……なに言うとるんや。大将がそんなんじゃ見放されるで」


「……雛斗、元に戻った」


「恋殿に迷惑かけた分はしっかり働くです!」


「……ありがと。これより、曹操軍を打ち破る! みんな、俺に力を貸してくれ!」


「ふふ……ようやく楽しめそうね」


「曹操。その余裕、すぐに焦りに変わるぞ!」


「望むところよ。来なさい、黒薙!」


いよいよ開戦した。

敵は四段陣、どの攻撃でも対抗できる汎用性のある陣だ。

俺は騎馬と歩兵を活かせる三段陣を構えた。

しばらく睨み合って、緊張の糸が切れたように両軍同時に突撃した。

騎馬の圧力はこちらが上、すぐに敵の騎馬を打ち払った。

だが、さすが曹操軍。

本当に打ち払った程度で損害はそれほどではない。


その日はそのまま膠着状態のまま、二日目。

夏候の旗が一つないのを確認して、俺は全部隊に指示を出した。

日が頂点に達する頃、予想通り夏候淵が黒薙軍のすぐ真横の山から逆落としをかけてきた。

すぐさま黒薙軍は部隊を何隊にも分けた。

部隊が分散してしまえば鋭利な逆落としも意味をなさない。

しかし、曹操はそれを予想していたようで本隊が攻め込んできた。

分散させて上手く攻撃をいなしたが、損害は小さくない。

数はもとよりあちらの方が上なのだ。

あまり意味はないと悟ったか、攻め続けることはなく、夏候淵を収容してすぐに軍を返した。


三日目は何もなく四日目。

今度はこちらが奇襲をかけた。

亞莎が曹操軍のすぐ真横の山から岩を落とした。

敵の損害は大きい。

曹操軍はしかし、その場にとどまり丸太で作った柵を山側に張って防御態勢を敷いた。


五日目は雨、六日目は地面が泥沼化して動けず、地が固まった七日目。

陣の展開を終えたばかりの曹操軍にいきなり霞の部隊が突っ掛けた。

敵はまだ攻めないと踏んでいたらしい。

許緒と典韋の部隊は慌てて迎撃したが、続けて恋の部隊も突っ込んだ。

夏候惇と加わった夏候淵、楽進らの部隊は俺の騎馬隊が駆け回って牽制して釘付けにした。

やがて霞たちは退き、俺も戻った。

損害は与えたけど、こちらもまともに当たったために犠牲が少々あった。

曹操軍が三万、黒薙軍が一万五千ってところか。


八日目、曹操軍が全軍で突撃してきた。

実はこれが一番恐かった。

兵力差がここではっきり力が出るのだ。

さすがにとどまることはせず、霞と恋と俺の騎馬隊で蝿のように駆け回って牽制して黒薙軍本隊を退かせた。

曹操軍を押していたが、山の麓に逆戻りだ。

曹操軍は俺たちを追って山を側面にするのを避けて広場に布陣した。

それは予想済みで火矢を射かけた。

広場は草木が多かった。

意外に効果はあり、曹操軍は砦の山から離れた岩肌の目立つ山の麓に布陣した。

さすがに逆落としを警戒して落石を防ぐための柵を大量に配置した。

俺たちは砦の山の麓から動かず、そのまま戦況は膠着した。


「黒薙様、そろそろ下がられた方が良いのでは?」


対峙して十五日になって黒永が言った。

既に黒薙軍の兵力は一万を切ろうとしていた。

曹操軍は長安からの補充もあり、四万いる。

これでも膠着し始めた八日目には二万近くまで減らしたのだ。

膠着したままではもっと差が開くだろう。

こちらは補充がないのだ。


「そうだな……。こうしていても拉致があかない」


「兵の疲労も溜まってきとる。限界やろな」


霞の言う通り、こちらは兵力が少ないのだから敵の動きに敏感になり過ぎて疲労となって重なっている。

そろそろこちらは限界だった。


「曹操もこちらの様子に気がついているだろう。今すぐ砦に向かった方がいいか……」


「ねねは賛成です。あっちは補充、こっちは疲労では勝ち目がないのです」


「私も賛成です、雛斗さま。今はまだ曹操は動いていません。曹操が何か仕掛けてくる前に動いた方がよいかと」


ねねと亞莎も黒永の案に賛成のようだ。


「でも、こっちが動くのを曹操が待っている可能性もなきにしもあらず。……まあ、そんなこと言ってられないな。霞、恋、俺で比較的損害の少ない本隊を率いて牽制しよう。ただし、こちらから攻めることは一切せず、逃げるだけだ」


「雛斗までやる必要あらへん。ウチと恋だけで十分や」


「……雛斗も、先に行く」


「お前たちだけより、俺も加わった方が兵を逃がせるだろ。だからやる」


「兵より雛斗の命や」


「頼む、霞、恋。危険なことはしない。だから俺もやらせてくれ」


「……しゃーないなぁ。ホント雛斗はウチを惹き付けるわぁ」


困ったように言いながらも霞は笑った。

しかし、恋は険しい表情のままだ。


「恋、俺は引かないからね」


「…………」


「恋、諦め。雛斗は引かん時は引かん」


「……無理、しない」


「お互い様だ。このやりとり、懐かしいな」


虎牢関の戦いで連合軍から逃げようとしていた、あの時を思い出した。

あそこから、俺たちは歩調を合わせて歩き始めた。


「…………」


しかし、恋の表情は厳しいものから変わらなかった。


───────────────────────


「十騎から集まるな! 少数でバラバラになって敵をいなしつつ駆けろ!」


戦況は最悪な方向に進んでいた。

曹操軍の援軍が到着したのだ。

およそ三万。

つまり、今の曹操軍は七万。

一万ギリギリの俺たちを蹴散らすのに楽な兵力だ。

当然、曹操軍は総攻撃。

牽制する蝿のような俺たちなど構わず、黒永や亞莎たちが率いて山を登る本隊を追った。

霞、恋は懸命にこちらに気を引かせようとするが上手くいっていない。

それどころか、大軍で俺と離されてしまった。

今の俺は孤立していた。

騎馬隊はまだいるが、それも駆け続けているだけに厳しい。


「よそ見をしている暇などないぞ、黒薙!」


ビュッ


ガギンッ


「くぅ……!」


それに加え、俺は楽進らの三人に押さえられて動けない。


「邪魔な……!」


「こんなべっぴんを三人も相手にしとるんや、嬉しく思い!」


ギュィィィン


ガギンッ


「くそっ!」


「休ませないの!」


ヒュンッヒュンッ


ズザァ


なんとさ李典のドリルを受け流し、于禁の剣を転がって避ける。

黒鉄は今はいない。

あのドリルに怯えてしまったから逃がした。


「逃げてばかりでは」


「逃げてるつもりなどない!」


ヒュッヒュッヒュッ


ガギンッガギンッガギンッ


ズザザァッ


「うわっ!?」


「なっ!?」


「ぐっ……これが黒薙の力か……!?」


三撃を三人に放って突き放す。

汗がまつ毛に当たった。

強引に指で拭った。

こいつらを早く撃退して黒永たちのところに行かないと……曹操軍本隊が追っている。

疲労の溜まった黒薙軍本隊では追い付かれるのは必至だ。


「黒薙様! 本隊が追い付かれました!」


騎馬隊の一騎が駆けながら叫んだ。

まずい……!


「黒薙! 貴方の相手は私だ!」


「悪いけど付き合ってる暇はない! 黒鉄ぇぇえ!」


と、馬蹄がこちらに近づいてきた。


「ひゃっ!?」


「あれ!」


「黒薙の黒馬!」


三人が驚きながら脇に飛んで避けたのを抜けたのは黒鉄だった。

駆けてきたそのままの勢いに手綱を握ってなんとか乗り込む。

背中に楽進の声が刺さろうが構わなかった。

黒槍を差し上げ、騎馬隊を集める。

あまり多くはない。


「薄い層をぶち破る! みんな俺についてこい!」


手近な兵の層の薄い部分を突撃してぶち破り、砦に駆けた。

周りにいた騎馬隊はいない。

黒鉄についていけないのだ。


曹操軍は弓矢を使っているようだ。

岩肌の目立つ山だと遮る物が少ない。

本隊もみるみる数が少なくなっている。

本隊は懸命に兵を固めているが、兵は減るばかりだ。

と、蹴散らせると踏んだらしい曹操軍が矢を放つのを止めて突っ込んだ。

背筋が凍る。

冷や汗がぶわっ、と出てきたように一瞬肌寒くなる。

次に、身体が熱くなった。


突撃する曹操軍の横っ面に躍り込んだ。

馬上から黒槍を振り回し、黒鉄が兵を蹴散らす。

次々に騎馬隊が俺について敵陣を切り開き、やがて突破した。

敵は混乱して、一時停止した。

これで本隊は逃げられるはずだ。

ホッと息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ