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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第八章.黒龍黒薙と奸雄曹操
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黒龍の盲目

「敵はいよいよ山に入ったようです」


間者から入った報告を黒永が言った。

砦の中心の館だ。

公式の使者を迎えるため、太守の座る玉座の間……館の一番広い部屋にいた。

今はまだ昼前で、しかし曇りで鈍い光が窓から射し込んでいた。


部屋には黒薙軍の将士全員が集まっていた。


「夏候惇に夏候淵、楽進、于禁、李典、荀彧、郭嘉、程昱。それに曹操自身がいるため、親衛隊の許緒と典韋もいるでしょう」


「全員やんか! どんだけここが欲しいねん!」


亞莎の言葉に霞がツッコミを入れた。

この時代にツッコミはないよね?

ああ、でも誰かが『ノリ』って言葉を言ったのは聞いたな。


「曹操軍の将軍軍師、勢揃いですな~。雛斗、何かしたですか?」


「……何をした、というわけじゃないけど、心当たりはある」


ねねに言うでもなくボソッと言った。


「お、なんや?」


「……まあ、それもそのうちわかるし秘密」


「なんや、ねちっこいのは女に嫌われるで」


「さて、大まかな方針だけど」


「無視すな」


いや、返答したらしたで話ややこしくなるだろうから。


「籠城戦、といくのが定石でしょうが……」


「ねねも亞莎には賛成なのです。兵力はあちらが倍以上な上、名将揃いですからな~」


「恋に突っ込ませろ、とは言わないんだな」


「何か言ったですか?」


「別に。……黒永は?」


ねねがうるさいのを無視しながら訊いた。


「……私も籠城がよろしいかと」


「そっか……」


「……雛斗は?」


恋がふと訊いてきた。


「せやな、雛斗が軍師ちゃんたちに劣らないのは皆認めとることや。雛斗の意見も聞かんと」


「……一度だけ野戦」


そう言ったらみんなが驚いて俺を見た。


「……あのですね、雛斗さま」


「ふざけてるわけじゃない。一度、曹操軍とまともにぶつからなきゃいけない」


亞莎でも誰を見るでもなく、目の前の長机をじっと見つめながら言った。

曹操に志を見せつけるため、俺の志を貫くため。

一度、絶対に曹操と正面からぶつからなければならない。

正々堂々と。


みんなが押し黙った。


「……で、ですが何か策は?」


「ない」


黒永の言葉に即答した。


「なんですと!?」


「正々堂々真っ正面から曹操軍とぶつかる。その場の地形、天候、俺の武、用兵技術……俺の使える全てを使って、堂々と勝負する」


俺の言葉に場が静まった。

みんな唖然として俺を見ている。

しかし、俺は机を見つめるままだ。


「守兵を僅かに残して出陣する。曹操軍とぶつかった後、砦に戻る。すぐに籠城戦だ。弓矢と岩を用意させておけ。解散」


俺は憑かれたようにとつとつと言って立ち上がった。


「ひ、雛斗さ……っ!」


亞莎が部屋を出ようとするのを追おうとしかけて、立ち止まるのが背中にわかった。


今は、誰かと喋れそうになかった。


───────────────────────


「……はぁ」


いきなり亞莎がその場にしゃがみこんだ。


「亞莎!」


黒永がすぐに亞莎に駆け寄った。

亞莎の肩は少し震えている。


「……く、黒永さま。雛斗さまは……どうしてしまわれたのですか?」


かなり動揺して訊いた。

当たり前やな。

さっきの雛斗の背中……信じられへんほどピリピリしてた。

ウチや恋も黙うてしまうほど。

あんなん、ウチも見たことあらへん……。


「……私にも、わかりません。ですが、黒薙様は今は恐らく曹操しか見えていません」


黒永の言葉に、亞莎が俯いた。


「曹操しか見えてへん? ……何かあったんか?」


「……霞は、黒薙様は何だと思っておられますか?」


「……雛斗は雛斗や。ウチの大切な人や」


これは本音だ。

虎牢関から助け出してもらったあの時から、ウチの雛斗を見る目が違ってきた……それぐらい、ウチにだってわかる。


「……世間はそうではないんです。黒薙様を名将と崇めている方もいます」


「それは別によいではありませんか~?」


ねねが言った。

確かに雛斗は武勇と知謀を併せ持った名将中の名将。

愛紗と並べられても遜色ない、とウチは思ってる。


「名将ならよいのですが、中には英雄と呼ぶ者もいるようです。曹操や孫策、劉備殿と同じように」


「……雛斗は英雄になりたないやろうな」


雛斗は天下とか目指す柄やない。

文不相応というわけやない。

雛斗は嫌いやろうな、てだけや。


「しかし、黒薙様をはっきり英雄だと言った方がいるのです」


「誰や?」


「……紛れもない、曹操です」


「なんやて?」


曹操に……雛斗がちょい残った長坂のあの時か?


「実は馬を買いに行くついでに孫策や曹操の調練を見に行ったのですが」


……雛斗らしいなぁ。


「曹操に見つかり、謁見したのですが……その時に英雄、と言われたのです」


「……せやけど、それがどないなるんや? 雛斗があんなピリピリする理由にはならへんやろ?」


「……こればかりは私もここまでしか」


こんなかじゃ一番雛斗と付き合いの長い黒永がこれや。

ウチらがわかるわけなか。


「……今の雛斗、雛斗じゃない」


恋が小さく呟いた。

もちろん、ウチら全員それは聞こえてん。

誰も否定せえへんかった。

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