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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第七章.西への転移と西涼の戦い
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従者の作戦

曹操軍、移動開始。

深夜、星を見ていた俺のところに来た間者が知らせてきた報告だった。

流言をして数日、待ちに待ってようやくの変化だった。

間者の報告によると、敵は真っ直ぐ砦に向かって進んでいるらしい。


間者を再び放ち、幕舎で具足の準備をし、軍議の場に向かった。

地図を再確認している間に、黒永を除く皆が集まってきた。


「いよいよだ。曹操軍の間者は砦の調査に向かわせていていないだろうけど、用心して手短に作戦を伝える。口外は厳禁、忘れて誰に聞くも許さない。いいね?」


皆が頷くのを確認し、俺も頷いた。


「まず敵の矢の届かないところまで、全軍を砦の近くに寄せる。黒永が砦の守備隊と交代し、脱出する間に燃えやすい藁なんかを既に各所に配置してある。敵が砦の占拠を始めると同時に火矢を射込む。その任は亞莎。時期もお前に任せる」


「御意!」


「燃える砦から敵が出る。算を乱さないまでも、多少の混乱はあるはず。そこを俺が奇襲する。その間の黒薙軍の指揮は霞と恋に任せる。軍師はねね」


「任しとき!」


「……(コクッ)」


「任せろです!」


「奇襲した後馬超軍、黒薙軍の全軍を持って突撃。馬超、馬岱。お前らの騎馬隊の見せ場だ。存分に暴れてやれ」


「おう!」


「わかったよ!」


「泣いても笑っても、既に賽は投げられた。この乾坤一擲の賭け……絶対に勝って生き残るぞ!」


皆が返事をして、それを合図に散開した。


───────────────────────


「首尾よく砦に入れたなあ」


「だね、真桜ちゃん。敵の守備隊は逃げちゃったし……まったく守る気なかったんだね~」


「……地図は?」


「今間者が探してるで、凪。もう来はるやろ」


「し、失礼します!」


「どうした?」


「て、敵から火矢を放たれました!」


「なに!?」


「……そういや、砦は燃えやすい物で出来とる……凪!」


「くっ……完全に嵌められたか!?」


───────────────────────


「……これだけかな?」


黒槍にまとわりついた血を払いながら呟いた。

周りには十人ほどの骸が転がっていた。

曹操軍の間者だ。

黒薙軍、馬超軍から密かに離脱した俺たちを目敏(めざと)く見つけて追ってきたのだ。

時間が経ってからでは楽進たちに伝令を出される可能性があるため、一度俺と数騎だけ連れて部隊を離れて誘い込み、丘で待ち伏せして抹殺した。


「他にはいないようです」


兵の一人が言った。


「すぐ所定の位置に行くぞ。既に火矢は放たれていよう」


「応っ!」


───────────────────────


所定の位置で部隊の到着を待ち、丘の影から砦の様子を伺った。

真っ暗な夜に砦が燃え盛る様子がはっきり見えた。

まだ敵は消火活動をしているらしい。

しかし、藁や火薬なんかを設置した砦は鎮火することを知らず。

消える気配はない。

と、砦の門が開いた。


「乗馬」


俺の低い声に、黒薙軍の騎馬隊が乗馬する。

やがて、門から敵軍が出てきた。

さすがに大きく乱れた様子はないが、混乱を収拾し切れていない部分もあった。


「曹操軍に我ら黒薙軍の神速の奇襲を見せてやれ! 全軍、俺に続け!」


『応っ!』


黒鉄の馬腹を蹴った。

一度棹立ちになり、勢いをつけて丘を駆け降りた。

そして真っ直ぐ敵陣の混乱の大きい部分に向かった。

黒鉄を先頭に黒薙軍騎馬隊が敵陣を押し広げていき、やがて突っ切った。


すぐに次の歓声があがった。

霞と馬超らが突っ込んだのだろう。

敵の背後は燃える砦、前方は俺の部隊を除く全軍、もう一方を俺の部隊で塞いでしまうか。

そうすれば四方のうちの最後の一方から逃げるだろう。


「もう一度ぶつかる! 俺に続け!」


『応っ!』


再び先頭で駆ける。

今度は広がってぶつかった。

逃げられる方に押し込むだけでいい。


やがて、敵は砦、俺の部隊、全軍の囲みの空けた方から逃げ始めた。

が、まだ抵抗している部分が一ヶ所あった。

霞や馬超側で一人に反撃されているらしい。


「本陣と合流しろ! 俺はあれを止める!」


「お気をつけて!」


兵の言葉を背に、黒鉄の馬腹を蹴った。


抵抗していたのは白い髪の、拳を武器にしている少女だった。

その少女が蹴りを放つと離れたところにいた兵が吹き飛んだ。

面白い技を使う。

氣をあのように上手く操れる者はそうはいないだろう。


「兵は下がれ! ここは俺が引き受ける!」


「何者だ!?」


少女が怒鳴った。

黒鉄を降り、離れさせた。


「俺の名は黒薙。お前の名は?」


「黒薙……! 私の名は楽進だ!」


「ここは退いてくれないか?」


「笑止な……。ここで逃げたら曹操様の名が廃る!」


「いい度胸だ。だが、退くも兵法。今は兵を無事に逃がすのが先決じゃないのか?」


「その為に私はここにいる!」


「お前みたいな奴は嫌いじゃないが。かかってくるがいい! 楽進よ!」


「言われなくても……。はぁっ!」


ビュンッ


ドズンッ


「やっぱり面白い技だ……!」


なんとか避けたけど、あんなの食らったらひとたまりもないな……。


「俺の槍を受けてみよ……はっ!」


ヒュッ


キンッ


ズザァッ


「ぐっ……速い!」


む、拳で受け止められた……。

兵の為に身体を張る……他人事に思えない。

こういう奴は、ホントに嫌いじゃない。


「……失うには惜しいね、楽進。兵を逃がすなら今のうちだ。俺の部隊が本陣と合流する間だけ」


「……何を言いたい?」


「さっさと去れ。それだけだ」


「そうする意味がない」


「逃げる敵追って何が面白い? それに俺たちは生き延びるために戦っただけで、敵を殲滅するのが目的じゃない。もう一度言う、去れ」


「……礼を言う。黒薙」


楽進が立ち上がって俺に一礼してから去った。

去った先で二人、恐らく曹操の将と合流して逃げて行った。


「ホンマ、ウチを惹き付けるなぁ雛斗は」


「……無事だったか、霞」


後ろからの霞の声を聞いて肩の力が抜けた。


「大成功やな。黒永の作戦」


「伝えてやらないとな。今も作戦と俺たちのことが気になってしょうがないだろうから」


「せやな。これからどないするんや?」


「計画通り、漢中に向かう。既に黒永が準備を整えてるはずだ」


「馬超は?」


「……馬騰を失った傷が深い今、これ以上戦闘に加わらせるのはね。益州に向かってもらうつもりだ」


「劉備軍に加える言うんか?」


「それは馬超の意思と桃香の説得に任せるさ。とにかく、今は漢中に急ごう」


「了解や」


無事、曹操軍は撃退できた。

あとはもしもの時の追撃に備えるだけだ。

漢中は益州の属郡みたいなものだし、取っておいて損はない。

というか、天然の要害の漢中手に入れるのはかなり利益が大きい。


しかし、曹操がそれを黙って見ているとは俺には思えなかった。

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