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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第七章.西への転移と西涼の戦い
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準備万端

「漢中ですか……」


黒永が呟いた。

橙色の光が端整な顔立ちを揺れながら照らしている。

その表情は俯き気味だ。

考え込んでいるのだ。


陣屋のあまり遮蔽物のない場所だ。

時刻は真夜中で明かりは篝火が頼りだが、今夜は月明かりもあって周囲は明るい。

曹操軍の間者がいてもここなら見つかりやすい。

この場にいるのは俺と黒永だけだ。


「曹操軍を撃退した後にもし、曹操軍が逃げる俺たちをなおも追撃してきたら迎撃する場所……拠点を確保したい」


「確かに、漢中は山ばかりでその上に砦のある天然の要塞。ちょうど益州に向かう途中にありますし」


「もともと漢中は五斗米道の本拠だった。だけど、同じ宗教であった黄巾の太平道の末路を見て軍を解散させ、教祖たちも消えた。漢中は今、無人だ。兵千人を連れて漢中の要塞を確保して欲しい」


「しかし、作戦の立案した私がこの場から去るのは……」


「確かに立案者が責任を持って戦況を見守るのは義務だ。兵たちの命を肩に持つんだからね。だけど、今はそんなこと言ってられない。相手は曹操軍だ。全力で当たって、ない知恵絞らなければならない。他に頼めない。霞と恋は戦、ねねと亞莎は流言と工作。城の構造がわかった今、頼めるのは黒永だけなんだ」


「……わかりました。漢中の要塞を確保し、体制を整えます。ただ、兵は五百で十分です」


少しでも戦力を残そうとしてくれる黒永の心遣いがありがたかった。

なんと言っても曹操軍との兵力差は広げたくないのだ。

五百でも戦力になる。


「ありがと、黒永。……もう寝よう。明日もある」


「わかりました。お休みなさいませ、黒薙様」


───────────────────────


翌朝。

西涼に来て数日が経つ。

そろそろ曹操軍に流言が届く頃だろう。

そして曹操軍ならその真意を確かめるはずだ。


「雛斗、布陣する場所変更した方がええんとちゃうか?」


会議中に霞が言った。

毎日行う軍議だ。

黒薙軍、馬超軍から将士が集まって会議をする。

ちなみに黒永は今朝早朝にここを発った。

地図の件の砦から物資の輸送、と名目をとっている。

馬岱と行動しているけど、黒永の五百の部隊が砦の守備隊と入れ替えて馬岱の部隊と守備隊がこちらに戻る手筈になっている。

そして密かに砦から漢中へ向かう。


「そうかな? なだらかな丘の上に布陣してるし、問題ないと思うけど」


「水の確保が難しいんや。ここから水脈まで結構あるんやで。確保する兵が言っとった」


「兵がそう言うんならそうなんだろう。……馬超、地図は?」


この場にいるのは俺と霞、恋、ねね、馬超だ。

一応流言も終えたけど流言の工作、噂が出てからすぐいなかったはずのねねと亞莎が軍議の場に戻っていたらバレる。

だから亞莎には戻る前に、兵糧の売値の調査に行かせた。

それから戻す。

ねねと亞莎をバラバラに戻せば疑いは減る。

ちなみにねねのいなくなった理由は劉備軍への援軍の要請だ。

援軍なんて来ない。

劉備軍は益州の攻略に余念がないし、ここから益州は遠い。

来ないとわかっているから送った。

それはねねもわかっているから、援軍がいらないことはちゃんと桃香に伝わったはずだ。


「それが……今朝、蒲公英が水こぼして」


「おいおい……」


ため息をついた。

これは演技だ。

水こぼしたのは本当。

地図はちゃんと替えがある。

曹操軍の間者は十中八九いる。

この演技を見せつけないと、地図の信憑性を植え付けることができない。


「だ、大丈夫だ! 蒲公英に砦から地図を持ってくるよう言ったから」


「なら良いけどさ。まあ、それまで布陣はこのままかな?」


「しょーもないなあ」


霞もため息をついた。

水の確保が難しいのは確かだ。

この後、霞の言う通りに水脈近くの丘に布陣を動かす。

そこは曹操軍の陣から砦までの直線からかなり離れたところだった。

曹操軍を砦に行きやすくするためだ。

露骨にやるとバレるけど、水の確保なら頷くはずだ。

西涼は砂漠地帯で水の確保に苦労するからだ。


飼い葉はさすがにある。

なんと言っても騎馬で有名な涼州。

飼い葉に困ることはなかった。


「にしても敵さん、動かんなあ。おもろない」


数日経っても曹操軍は堅陣を解こうとはしなかった。


「合流した俺たちを警戒しているんだろう。仕方ない」


「なあなあ、雛斗~。攻めちゃあかんか~?」


「……恋も攻めたい」


「意気込みは買うけど、あんな堅陣に突っ込んだところで兵を無駄に消耗させるだけだよ。もう少し待ってよ」


また、ため息混じりに言った。

霞と恋はこう言ってるけど、二人共何をすればいいかちゃんとわかっている。

霞と恋のこれも演技だ。

黒薙軍大将である俺がとても腰が重い奴だと思わせる。

そうすれば、敵も砦に動く時に俺が側面を突こうとしない、と判断させる。

砦に行かせるための布石だ。

砦は臨時に造ったものらしく、簡単に木造であった。

火に燃えやすい。


「腰が重いで、雛斗。兵も待ってるだけじゃ膿むんや。たまには攻めたらんと」


「もう少しだけ待ってくれよ。何かきっかけができるまで」


「……しゃーないなぁ。雛斗の言う通りにしたる。地図がなかってん。軍議できへんやろ? 地図来たら呼んでぇな。ウチは戻る。行くで、恋」


「……(コクッ)」


霞が去る背中を恋が追った。


「雛斗も大変ですな~」


ねねもため息をついて労った。


「まあ、大将が故の大変さだろう。霞と恋だってわかってくれるさ」


「とにかく、すまないけど地図は待ってくれ」


馬超も疲れたように言った。


その後、物資と地図を持って来る馬岱を待って水脈近くに布陣した。

これでほぼ、準備は整った。

あとは敵が動くのを待つだけだ。

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