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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第六章.黒龍と呼ばれし者
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名将

翌朝、孫策軍を後にし次に北へ向かった。

あれから特に孫策軍の誰かからおとがめみたいなこともなかった。

けど、城門を出る時城壁に孫策がいて、

「また会いましょ、傭兵くん♪」

なんて言われて驚いた。

確かに勘づかれた感はあったけど……孫策め、恐ろしい奴だ。


しばらく馬を進めると、村が見えた。


「飯を食べておこうか。まだまだ先は長い」


「そうですね」


黒永や兵の賛同もあり、輜重の警備を兵二人に任せて村の食堂に入った。


ドンッ


「ひゃっ!?」


「ん?」


背中に軽く衝撃、そして可愛らしい叫びが聞こえた。

どうやら誰かが俺の背中にぶつかったらしい。


「申し訳ありません。大丈夫ですか?」


後ろを振り返り、尻餅をついた人に手を差し出す。

ぶつかったのは少女だった。

片眼鏡をした珍しい格好をしている。

傍には本が何冊が落ちている。


「ひ、ひえ! 私こそご無礼を!」


長い袖で鼻を押さえつつ、少女は立ち上がった。

ちょっと目が鋭い少女だ。

格好や目付きから、軍師のような雰囲気がある。

ただ、ちょっとあわあわしているところがあるかな。

あわわ軍師の雛里を思い浮かべ、心の中で苦笑した。


「お気になさらずに。私はなんともありません。ただ、あなたは鼻を打ちましたか?」


「この程度は……」


「まあ、お詫びの意味も込めて、食事でもおごらせてもらえませんか?」


その格好、そして落とした本に興味をひかれて言った。

本は軍略書だった。


「えっ?」


「ダメでしょうか?」


「い、いえ! そのようなことは……しかし、そこまでしていただく理由は」


「私の気がすまない……それではダメですか?」


「そ、そのような……えと」


「あの席でよろしいか?」


半ば強引に少女を席につかせる。

俺は少女の正面に座った。


「失礼します」


黒永は一言断りを入れて俺の隣に座った。


「あの……」


「まあ、一期一会といいます。自己紹介でも。私は張範と申します。こちらは従者です」


「えっと、呂蒙、字は子明です」


呂蒙はおずおずとお辞儀をした。


「軍略書を持っているところを見ると、武官か軍師さんかな?」


「わかるんですか?」


傍らに置いた本を見た。

黒永も最初こそしょうがない、といった顔をしていたが興味深げに軍略書を見た。


「ちょっとかじっていまして。どこかの軍に所属しているのかな?」


「いえ、まだ所属はしていません。勉強中でして」


話を続けて聞いてみると、誰かに剣を振るっていた自分に軍師になるように言われ、これまでの軍略書はだいぶ読んできたらしい。

まだ黒永と同じでまだまだなところはあるけど、見所はあった。


「……なかなか面白い話を聞けました」


「こんな堅苦しい話を面白いと感じるんですか? 張範様は何者なのですか?」


「すまない。張範という名前は偽名だ」


「え……?」


呂蒙はきょとんとして、黒永は驚いてこちらを見た。


「俺は黒薙、字は明蓮だ。劉備軍の客将として働いている」


「え、むぐぅ!?」


その瞬間、呂蒙が驚愕して絶叫……しようとしたところを口を手でふさいだ。


「すまない。秘密裏に来てるから小声で話してもらえると」


「……(コクコクッ)」


口をふさがれながら頷いた。


「え、え? ホントにあ、あなは、あなたが黒薙様ですか?」


口から手を離すとかなり慌てた様子で言った。


「俺はそんなに有名人か? たかが客将で」


「たかが客将などと。黒薙様といえば、幾度も倍する兵力の敵を倒してきた名将中の名将。さらにあの飛将軍呂布や張遼をも率いる大軍略家。みんな黒龍、とあだ名して噂しています」


「……普段、徐州を出ないからな。こんな噂があるとは知らなかった」


ちょっと頭を振って、ため息をついた。

なんだよ黒龍って。

厨二みたいなあだ名をつけないで欲しい。


「ですが……その黒薙様が何故このようなところに?」


「それを話す前に聞いておきたいことがある。いや、お願いかな」


「な、なんでしょう?」


「我が黒薙軍に、その知謀を貸してくれないか?」


「……えっ?」


呂蒙は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

黒永も面食らったようで口をポカンと開けて俺を見ている。


「どうだろう?」


「え……え!? わ、私ですか!?」


「お前には見所がある。軍略を勉強してるなら、どこかの軍に所属しようと考えているんだろう?」


「は……はい」


「その所属を黒薙軍にしてみないか?」


「ひ、ひかし! 私はまだ未熟者ですし!」


「俺が鍛えてやる。劉備軍には諸葛亮も龐統もいる。こんな整った場、そんなにないと思うが?」


「え、え……ちょっといきなり過ぎて何がなんだか……」


「すぐに決めなくていい。だけど俺もやることがある。俺はこれから涼州へ行く。そこから戻る時まで……」


「……どのくらいでしょう?」


「わからないな。道がてら曹操の軍も見ていくつもりだし、案外遅くなるかもしれない。ここに一日とどまるつもりだしな」


それを聞いて黒永が俺を見た。

それに目で頷くと、黒永はちょっと笑みを浮かべた。


「できるなら今日中に決めろ。明日早朝まで待つ。来なかったら、それでもいい。涼州から戻る時、必ずここを通る」


「……考えさせてください。一日……それで決めます」


「……わかった。来なかったら諦めよう。どこに所属するも、呂蒙の自由だ。だけど、俺は待ってる。……金はここに置いとくよ。行くぞ黒永」


「御意」


───────────────────────


「……はぁぁ」


黒薙様が店を出るのを見届けて、私は気が抜けて背もたれにグダッと背中を預けた。

いきなり黒薙様に勧誘されて……しかも自分で今日中に決めるっていっちゃったし。


「……でも、思ったより優しい方でした」


ちょっと安心した。

名将で鳴らしている黒薙様。

もう少し尊大で武骨な方かと思っていた。

けど、まったく逆で……いきなりの勧誘だけど、一日ここで待つだけでなく、涼州から戻る時までと考える時間を先延ばしにしようとしてくれたくらい、優しい。


「不思議な方です。私のような者でも勧誘してくれて……」


どうするか決めなきゃいけない。

自分で一日で決める、と言ってしまったから。

今日中に決めなきゃ。


「……黒薙様……」


考え中に、何回か黒薙様の名前を知らず知らずに呟いていた。

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