表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第六章.黒龍と呼ばれし者
27/160

小覇王と黒龍

「涼州……」


北郷が呟いた。

劉備軍、黒薙軍の代表である俺が会する定期会議だ。

黒薙部隊の騎馬隊の増強の案は可決されたが、馬の調達はどうするかまだ言っていなかったのだ。


「北は袁紹が押さえていて、馬の調達はできそうにない。涼州なら別段敵対しているわけでもないから」


「しかし、涼州へ行くなら曹操の領土を通らねばならないぞ。曹操がそれを許すだろうか?」


愛紗の懸念はもっともだった。


「それはないと思う。曹操は英雄同士の正々堂々とした戦を求める英雄中の英雄。ただ馬を買いに向かうだけの俺をどうしようとは、考えないはず」


そう言うと、みんなが納得したように頷いた。

みんな曹操の覇道をよく知っているのだ。


「どのくらいかかりそうなの?」


「行きにも帰りにも馬ですから。それほど時はかからないはずです。行くのも俺と黒永だけですし。俺がいない間の黒薙軍は霞、恋、ねねに任せます。愛紗の仕事は手伝えないけど」


訊いてくる桃香に返しつつ、ちらりと愛紗を見る。


「構わん。本当は全て私の仕事だったのに、雛斗には本当に感謝している。気にせずに行ってくれ」


「ありがたいよ」


「いつ行くのだ?」


鈴々が首を傾げながら訊く。


「明日にでも出向くつもりだよ。今日は輜重に軍資金を積む作業もしなきゃいけないし、部隊にも通達を出さないと」


「黒薙殿。今や、あなたの力は戦を左右するのも可能なのだ。できればすぐに戻ってきて欲しい」


星の言葉に頷いた。


「まだ袁紹と対峙してるとはいえ、曹操を甘く見てないよ。できるだけ早く戻れるようにするよ」


「じゃあ、雛斗さん。改めて騎馬の増強、それと涼州への外出を許可するよ」


桃香がニコリと笑いながら言った。


───────────────────────


翌日早朝。

城門の外に出て、黒永と輜重を動かす兵十人と馬を傍らに、桃香たちの出迎えを受けていた。


「じゃあ、雛斗さん。早く戻って来てね♪」


「曹操が何をするとは思えんが、警戒はするようにな」


まったく対称的に桃香と愛紗が言った。


「わかってるよ」


「ウチも行きたかったんやけど……」


「……恋も」


「無茶言わないでよ。俺以外に部隊を完全に動かせる奴はいなきゃいけない。それに、この大事なところで人員を割くわけにもいかないし」


「……しょーもないなぁ。せやけど、埋め合わせはしてもらうで」


「わかってる」


「…………」


「恋もね」


「……わかった」


ようやく恋たちが納得した。


「黒薙殿。道中、気を付けろっと」


星が何かを俺に投げた。

難なく片手で受け取った。

徳利……酒だった。

いつだったか、白蓮との席で見たものだ。


「……御守り?」


「ふっ、まあそんなところだ。大事に呑むといい」


「道中では飲まないよ。帰ったら呑もう、星」


「おや、私を誘ってくれるとは。黒薙殿は乙女心をわかっている」


「……酒好きな星が俺に酒をただでくれるとは思わないだけだよ」


苦笑して俺と黒永は馬に乗った。


「行ってくるよ」


「行って参ります」


「行ってらっしゃい。すぐに戻って来てね」


桃香の言葉に頷いてから馬の腹を蹴って進めた。

急ぎの旅ではあるが、急ぎ過ぎても馬を潰すだけだ。

馬の歩くくらいの速度で丁度良い。


やがて、本城の姿が見えなくなった。


道筋はちょっと南の汝南を通って孫策の軍を見学。

次に北の曹操、洛陽、長安、そして涼州。

学べるものは学んでおきたいから。

別の軍の良いところを盗んで帰る。


「旅をするのも久しぶりだね。前は荊州へ視察に行ったなぁ」


「荊州はとても平穏なところでした」


「劉表は内政はまあまあだな。部下の蒯良、蒯越もなかなか優秀だし」


そんな談笑をしつつ、数日後には汝南にたどり着いた。


軽く手続きをしてから城内に入った。

もちろん偽名だ。

配達を仕事とする商人を名乗っている。


「今日は宿をとるよ。安くすませてね」


「御意。あの、見学は」


「する。絶対。ここに来た目的」


「はあ……もう止めませんが、私もついていきますから」


黒永は他の軍の見学など言語道断、という意見を持っている。

まあ、警戒するのは仕方ないとは思うけど。


とりあえず宿を見つけ、兵十人に軍資金と部屋の留守を任せ、外の練兵場へ。

どうやら今日は城壁の外で調練を行っているようだ。

その方が都合がいい。

通常の練兵場は宮城とかの近くだからな。

内部の人間じゃないと入れない可能性がある。


「……やはり違うね、孫策軍は」


城門を出て少し馬を進めると、兵のかけ声が聞こえた。

弓兵の訓練らしい。


「矢を放つ循環が早いですね。まさに矢継ぎ早」


「一斉射撃も見事なものだね。あれは黄蓋の部隊かな」


と、二騎がこちらに駆けてきた。


「何者だ! ここで何をしている!」


二人が馬から降りて、一人のピンクの髪の少女が言った。

もう一人もピンクの髪の大人っぽい女性だ。

たぶん、姉妹なのだろう。

馬から降りて平伏した。

黒永も同時に頭を下げた。


「私は張範と申します。こちらは従者です。商人でして、武器などを売ってります」


「我が軍は物質は富んでいる。そのような申し出、受けかねる」


知っている。

間者の報告を聞いて、断られる商談をわざととったのだ。

間違えて受け入れられても困る。


「左様ですか。なら諦めましょう。調練の場を乱し、申し訳ありません」


もう一度深々と頭を下げて、手綱を引いて去ろうとした。


「待ちなさい」


「お姉様?」


もう一人の女性が俺を呼び止めた。

黒永の身体が緊張するのがわかった。

振り返ろうとして何かを感じて、黒永の袖口から短剣を抜き取った。


キンッ


「なっ……!?」


「お姉様、何を!?」


短剣は女性の突き出した剣を捉えていた。

軽くいなしただけだ。

しかし、黒永と少女は目を見開いている。


「私の剣を止められる商人なんて、見たことないんだけど?」


ニヤリと女性は笑った。


「……職業柄、鍛練は欠かせておりませぬ」


返答に迷ったけど、短剣を黒永に返しながら言った。


「ふむ……職業柄、ね」


ますます面白そうに女性は笑った。

職業……傭兵のことを言っているんだろうか……それにしても鋭い剣技だ。


誰なんだ……まさか。


「剣を抜いた無礼はお許しください」


「いいのよ。私が不意討ちしたんだから」


「殺す気などなかったでしょうに」


一応、殺気は感じられなかった。


「ふふふ……あなた、面白いわね。名前、教えてあげるわ。孫策よ。こっちは権」


……やっぱり、江東の小覇王孫策か。


「これは孫策様でしたか。ますますご無礼を」


「いいのよ。だから私が先にやったんだから」


「これ以上無礼を働いたら斬首されても文句も言えません。これで失礼いたします」


「また会えたら嬉しいわ」


終始笑みを絶やさない孫策と訳もわからずにいる孫権から離れる。


城門をくぐり、宿に戻った。


「黒薙様!?」


いきなりその場にしゃがみ込んだ俺を見て黒永や兵が驚いた。


「はは……孫策の覇気にやられたよ。まさしく英雄……」


冷や汗が止まらないし、ここまで歩くのにずっと気を張り詰めさせて耐えていた。


「はあ、脅かさないでください」


「ゴメン。ちょっと休めば立てるよ」


孫策……あれは大変な奴だ。

あれには俺も二倍の兵力に勝てる、なんて言えない。

同数の兵力……それでも負けるかもしれない。

ああいう奴とは、是非戦ってみたい。

武人の考えが頭を占めてることに、ちょっと苦笑した。


俺は黒薙軍の大将なんだ。

いつまでも武人のみの考えでいる訳にはいかない。

目標も、な……何か志が定まればな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ