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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ2.徐州にて
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拠点フェイズ2.朱里、雛里

槍を構え、一斉に前に突き出す。

これだけでも、統制がとれてかつ声が届かなければ綺麗に並んで攻撃できない。


黒薙軍の調練だ。

徹底的に動きを身体に染み込ませるため、何度も何度も同じ動きをさせる。

騎馬の迎撃など、兵がうんざりするほどやっている。

五日に一回は必ずやる。

歩兵で一番脅威なのは騎馬だからだ。

矢も十分脅威だが、どちらかというとやはり騎馬が恐ろしい。

この馬止めの動きができて、初めて騎馬を越えることができる。


「やめ!」


大声を張り上げ、黒薙部隊を止めた。

しんとなって兵は俺の声を待った。


「休憩に入る。号令があるまでだ。じゃあ休め」


「応っ!」


兵が返事をして散った。

散っているように見えるが、実は小部隊ごとにまとまっていて飯や休憩も一緒に行動している。

団体行動を徹底させるためだ。


「お見事です、雛斗さん」


隣にいた雛里が関心したように言った。

今日は調練の見学に来ている。

朱里は霞の方で、北郷は恋を見ている。


「劉備軍が誇る軍師殿にお褒めいただけるとはね」


笑みを浮かべて歩き出した。

雛里もあとをついてくる。


「どこへ行くんですか?」


「休憩中の兵の様子を見がてら、幕舎に戻る。来る?」


「はい」


雛里が頷いたのを見て、歩みを遅くした。


壁の日陰に思い思いに休んでいる兵たちを通り過ぎる。

雛里は後ろをとことこついてくるが、何となく俺の後ろに隠れているような気がする。


兵たちの様子を眺める。

疲れて座り込んでいたり、寝転がったりしてるが、多くは槍を傍に置いていた。

中には立って槍を持っている者もいる。


「休んでいない兵隊さんもいるんですね……」


「いつでも、どんな非常時でもすぐに対応できるように部隊ごと半分は見張りをするんだよ。傭兵で身に付けた知識だよ」


傭兵は常に警戒心は張り詰めていなければならない。

味方であるはずの雇い主がいきなり攻めてきてもおかしくないからだ。

桃香に限って間違ってもそんなことはしないけど、そんな非常時に備えてどんな時も見張りは立てた。

警戒は常にしとくに越したことはない。


「それって、常時緊張を解かない……ということですか?」


「さすがに調練のときだけだよ。兵の状態は身体的にも精神的にも常時万全にしたいからね。ちゃんと調練以外は休ませるよ」


「参考になります」


参考になるのか?

朱里に並ぶ名軍師の。


「次はどのような調練をするんですか?」


「長駆だよ」


「走る……ですか?」


「残りの時間が終わるまでずっとね。体力は重要だから。部隊全員の体力がいかに平均的に高くあるか……行軍にも影響するし、強行軍や撤退、後退のときだって素早く行動出来て生存する兵が多くなる」


「……流石雛斗さんです。軍事に関しては天才です」


「いや、雛里や朱里には劣るよ」


「そんなことありませんよ! 雛斗さんは軍師にはない、軍人の様々な戦場での実戦経験の知識が豊富です。軍人だけでなく、雛斗さんは戦場での軍師も可能です」


「……そう言っていただけると、こっちもありがたいよ」


力説する雛里に苦笑して俺の幕舎に歩いた。

幕舎の左右にいる警備の兵に手を軽く挙げて幕舎に入った。


「し、失礼します……」


雛里もおずおずと幕舎に入る。

簡易の机の前の席を勧め、お茶を入れて机に置いた。


「あ、お構い無く……」


雛里ならそう言うと思った。

雛里のつく机の隣にくっつけたもう一つの小さい机に重なる帳簿の一冊を手に取る。


「それは?」


「調練の記録書。今までに行った調練を全部記録してある。ま、これだけじゃなく、あと十冊くらいあるけど」


「見せていただけませんか?」


「字、汚いけど」


そう言いながら帳簿にさらさらと今日の記録を書いてから雛里に渡した。


「はぁ……すごいです。こんな調練まで……実戦に近いものまで……この調練は五日に一回も」


食い入るように帳簿を読み出した雛里を見て苦笑した。

雛里の前の席に座って水をすすった。


「……はっ、も、申し訳ありません! 私、すっかり読み込んでしまって……」


しばらく経ってからやっと雛里は顔を上げて謝った。


「いや、別に構わないよ。そんな日記みたいなのを真剣に読んでくれるんだし」


「そんなことありません! 私たちがやったことのない調練もあってとても参考になります!」


「……それはどうも」


ちょっとむず痒い気分に頬をかきながら軍資金の明細の書かれた帳簿を取った。


「あの、この実戦形式の調練、私たちが使ってもよろしいですか?」


「よろしいもなにも、勝手に奪ってっていいよ。俺だって他の軍が使っていた陣形を勝手に拝借してるし。良いところは真似するとのだよ。劉備軍のためにも」


「……ありがとうございます!」


雛里が嬉しそうに笑うのを見て笑みを浮かべてから、明細の帳簿を見た。

馬を多く買うため、軍資金がかなり必要になる。

馬自体の値段もそうだけど、飼い葉や馬に乗せる鐙など……買い揃えねばならない物も多々あるし、維持費もかかる。

なんとかやりくりして歩兵二千五百、騎馬二千五百の汎用な軍をつくりたかった。

騎馬なら霞と恋がお手の物だけど、歩兵だけは俺が大体指揮した。

確かに俺は歩兵は得意だけど、騎馬も得意だ。

分担するより、両方を上手く操れた方がよっぽど安定する。

し、攻め方や防ぎ方、策も幅広くなる。


「……雛斗さん。騎馬は入り用ですか?」


不意に雛里がそう言った。


「何故、そう思ったのかな?」


「騎馬に関する調練が異様に少ないです。確かに雛斗さんは部隊のほぼ全てを歩兵で占めています。雛斗さんなら、歩兵だけじゃも物足りないんじゃないか、と……」


「……今、それを考えていたところ」


苦笑して明細の帳簿を見せた。


「恋さんや霞さんの部隊は騎馬が充実しています。雛斗さんが歩兵を率いるのは必然なのですね」


「だけど、奇襲を主な戦略とする俺には歩兵だけじゃ確かに物足りない。奇襲は速さと威力……つまり、突破力が必要不可欠。騎馬はどうしても欲しい」


「これが黒薙軍全体の軍資金ですか……見てもよろしいんですか?」


「劉備軍の誰でも、俺は信頼してる。気にせず読んでいいよ」


「ありがとうございます。……言っては悪いと思いますが、その」


「ぶっちゃけ、キツいでしょ。わかり切ってることだよ」


「相当上手くやりくりしなければ、馬とその他の物質を買い揃えるのは難しいですね」


「近い内に涼州に行って交渉するつもりだよ。俺と黒永で」


「涼州ですか。確かに、比較的近い北は袁紹さんがいますから」


敵の領土、しかも袁紹は曹操とにらみ合いの最中。

軍の増強は頻繁、騎馬だって揃える。

だったら次に騎馬で有名な西、涼州だ。

馬騰が代表的で、精強な騎馬がいる。

駿馬も多いだろう。


「その間、霞と恋に黒薙軍を任せる。愛紗の仕事はできないから愛紗に任せることになるけど」


「仕方ありません。軍事の仕事の統轄は愛紗さん、そして天性の才のある雛斗さん。軍師の私たち以外で任せられるのは雛斗さんたちだけですから……」


「雛里や朱里は内政で忙しいんだから仕方ないよ。すまないけど、その間の数日だけ……少し、黒薙軍を気にかけてやって。一応俺たちは客将……どうしても兵たちは劉備軍と見比べたりする。劉備軍の兵たちが黒薙軍をどう見ているのか……やっぱり客将としか見えないから」


いくら劉備軍の将士が俺たちを信用しても、兵まではそうはいかない時もある。

客将と聞いたら客将なのだ。

客将は、頼りにはしちゃいけない……本能的にそう構えるものだ。


「……わかりました。朱里ちゃんにも言っておきます」


雛里がしっかりと頷いた。


雛里や朱里になら黒薙軍を上手く動かしてくれるはずだ。

霞と恋、ねねもちゃんと掌握する。


「今度の会議でも言うつもりだけど。頼むよ、雛里」


雛里の頭を撫でながら言った。


「は、はうぅ……」


雛里の頬が真っ赤になり、帽子で顔を隠した。

笑みを浮かべ、水を飲み干した。


雛里と朱里。

この二人が内政のほとんどを担っている。

こんな小さい女の子がな……。

少しでも気が休まることは……それは俺の役目じゃないか。

北郷が拠り所なんだからな、劉備軍は。


そう考えながら雛里の椀にお茶を入れ直した。

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