拠点フェイズ2.星
「騎馬にする兵は決まった?」
黒永の話を聞いてから書簡から目を離さずに聞いた。
ちょうど昼辺りだろう。
俺は自分の部屋でいつも通り仕事をしていた。
そこに黒永が黒薙軍の調練の報告に来た。
それを終えたところだ。
「はい。十頭の馬に代わる代わる乗せて決めました」
「何人?」
「二千五百人です。黒薙様の部隊半分になります」
ちなみに黒薙軍は霞、恋、俺で合わせた兵数で霞と俺が五千、恋が一万を率いている。
「二千五百か。どのくらいの費用がかかるか──」
「武器が高く売れ、軍資金はそこそこあります。上手く交渉するしかありません」
「実際に行って値引きしてもらうか」
ガチャ
「失礼する」
「──星?」
考えようとして星が部屋に入ってきて止めた。
黒永がいるため鍵をそのまま開けっ放しだったのだ。
「愛紗から言伝(ことづ)てを預かってきた。もう仕事はないから休んでくれ、と」
「そっか。じゃあすぐ終わるな」
机に振り返り、重なった書簡をちょっと見る。
「ああ、黒永。愛紗に話したい、て言ってきて。日にちはいつでもいい、てことも」
「承知しました」
黒永が頭を下げて部屋を出た。
「黒薙殿」
「なに? 星。まだ言伝てでもある?」
「いや、よかったら食事にでもどうかと思ってな」
「そっちが本命?」
「いかにも」
ちょうど昼だし、腹も減った。
「まあ、いいか。行こう」
「本当にいいのか?」
「いいもなにも、行かないの?」
「無論、行く」
書簡を少し整理してから星と共に部屋を出た。
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「酒は飲まないと言ったはずでしょ」
ちょっと赤らめた自分の頬を撫でながら口を尖らせた。
「少しくらい良いではないか」
星は盃に酒を注ぎながら笑みを浮かべた。
飯屋に入って拉麺(ラーメン)を食べて、食べ終えて水を頼んだら酒だった。
星が仕組んだらしい。
なんで俺に酒飲ますんだか。
たぶん、相手が欲しかっただけだろうけど。
「一応俺、まだ仕事があるんだからさ」
「なに。黒薙殿なら酔っていてもちゃんとやり抜けるさ」
「何を根拠に」
そんなことを言いつつ、酒を呑んでる俺もきっと星と同じく酒が好きだからだろう。
星もそれを知ってか、また笑みを浮かべて盃を煽った。
「しかし、黒薙殿は真面目だ。酒を呑んでる時も仕事のことを考えるとは」
「国に関わることだからね。客将でもあるわけだし、働かざるもの食うべからず、て言うし」
「……黒薙殿は、いつまで私たちの客将でいるつもりだ?」
星が不意に静かになって訊いてきた。
俺も盃を傾ける手を止め、星を見た。
星は卓に視線を注いでいる。
しばらく俺も黙って星と同じところを見つめた。
いつまでとは、劉備軍の客将の期間か、あるいは客将の身分をいつまで続けるのか──たぶん、後者だろう。
客将は臣下ではない。
客将は客将。
言うなれば中立から少し勢力に加担する程度の中途半端な身分だ。
そしてそれは、いつまでも続くものではない。
「──志が決まるまで」
やがて俺は考えかねて言った。
星が顔を上げた。
「主たちの志は?」
北郷やみんなの志──みんなが笑顔で過ごせる世にすることだ。
「野蛮な俺には手が触れられない、と思ってしまうな」
「そんなことはない。黒薙殿は清い心を持っておいでだ」
「なんにせよ、まだ俺たちは客将。それにまだ劉備殿たちの心根を見た訳じゃない」
立ち上がって椅子にかけていた上着を無造作に握る。
「不味い酒を飲ませたね。仕事もある故、これで失礼するよ」
「黒薙殿」
星が俺を呼ぶが無視して店を出た。
もう少し答えは待って欲しい。
志を決めるその時まで。




