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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第二章.黄天と本当の御遣い
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一期一会

公孫瓚(こうそんさん)か」


 揺られながら小さく呟いた。

 馬でゆっくり駆けていた。周りには歩兵が整然と行軍している。

 冀州を中心に、反乱が起こった。それも大規模なものだ。

 太平道という宗教が起こしたもので、みんな一様に頭に黄色い頭巾を付けているので黄巾党と呼ばれている。

 頭目は張角、張宝、張梁の三兄弟というが、詳しい情報は入ってきていない。

 宗教というからには兵は信徒。つまり、大部分は民だ。民が民を襲うなど皮肉な話だ。

 国は民だ。それを討伐するのは多少気が引けるが、その身を賊に投じたのなら仕方ない。

 斬るしかない。


「白馬将軍と呼ばれ、勇猛な将軍と言われております」


 並走する黒永に聞こえたらしく、返事した。

 黒永は学だけでなく、俺に剣の教えも乞うてきた。並みの兵士以上には鍛えたが、武に才能があるようではない。文官に向く人間なのだろう。

 もちろん、その過程で馬も教えた。こちらは不思議に難なくこなした。


「幽州付近の賊徒を、白馬で揃えた騎馬隊で討伐したんだったね」


「朝廷もいい人物に目をつけたものですね」


「賊徒だけか。せめて国境向こうの軍を打ち払った、くらいの戦績があればより心強いんだけどね」


「黒薙様、それは国家の一大事ですよ」


「例えの話だよ」


 苦笑しながら言った。

 黒薙(くろなぎ)、字は明蓮(めいれん)、真名は雛斗(ひなと)。それが自分の名だ。

 分かりにくいかもしれないが、日本人だ。黒薙が苗字で名前が雛斗だ。

 明蓮という字は廬植にもらった。

 少し前に山中に倒れているところを猟師に助けられ、それからは言った通り。

 廬植先生の教えを受け、洛陽に仕官した。

 三国志はあまり知らない。諸葛亮とか有名な人を知ってるくらい。

 だから、ここに来てからこの世界を知るのに相当苦労した。インターネットとかないから、検索するわけにもいかない。

 書物もあんまり頼りにならない。過去のことは書かれていても、この時代のことが書かれている書物はまだあまりないのだ。今の時代の史書は編纂途中だろう。し、高官しか読むことができないものだろう。

 だから、多くは廬植先生に教えてもらった。俺の身の上を真剣に話したら字をくれ、この三国志の世界を教えてもらえた。


「賊徒なんてただのならず者の集まりだから、まとまって集団戦っていう考えはあまりないし」


「確かにそうですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。この大乱は機会とも言えますが、朝廷の危機でもあるのですから」


 それに俺は頷いた。

 こういう非常事態に朝廷は慌てふためき、大将軍・何進を立てて大事を任せた。それで皇甫嵩(こうほすう)朱儁(しゅしゅん)をはじめとする将軍を各地方に向かわせた。

 俺は公孫瓚の副将ということだった。

 たかが一警備部隊長を軍に派遣しなければならないとは、朝廷もやはり落ちたものだ。ちなみに、俺は警備隊を指揮する執金吾の中でもかなり下の方の配下だ。

 執金吾という位は高い方で、その配下なのだから副将という待遇だけど、本当なら外に出さずに洛陽に留めておくものだと思う。なんといっても、洛陽は帝のおわす都である。


「わかってるよ。朝廷は腐ってはいるけど、黄天よりはましだから。倒れてもらっては困る」


「とにかく今は公孫瓚殿のところへ急がねば」


 黒永の言葉に俺は頷きつつ、手綱を握り直した。


 * * * * *


「黒薙、只今到着したとお伝えしてほしい」


 兵が復唱して駆け去っていく。

 昼過ぎ頃だろう。公孫瓚のいる城にようやくたどり着いたところだった。洛陽から北平まで、長い道のりだった。途中途中、官吏の泊まることのできる宿を辿りながらの行程だ。郵便の制度も同じくあり、この時代からかなりしっかりした交通ができている。

 城門から出てきた兵に所属を聞かれ、応えたところだ。証明の書簡も渡した。

 城門が開き、五百人の兵が迎え入れられた。この五百は、執金吾、つまり、上司の丁原から借り受けた。

 丁原の兵は俺がほとんど鍛えていたため、勝手がいい。

 丁原は俺の実力を認めてくれていて、今は老齢で臥せっているので警備は他が指揮していることが多かった。それでも練兵は俺にと指示していたらしい。

 兵を待機させ、俺と黒永は公孫瓚の元へ案内された。

 謁見の間だろう、立派な一室に通された。

 赤い髪のポニーテールの少女がいた。


「おっ。来たか」


 誰かと話していたが、こちらに気づいた。

 ぽわぽわした雰囲気の赤に近い桃色の髪の少女、こちらを圧倒する黒髪の少女 、背の低い少女、水色の髪の少女、それと白い服装の少年がいた。


「遅れて申し訳ありません。黒薙です」


 右拳を左の掌に合わせて、頭を下げた。

 一歩後ろに控える黒永も同じように頭を下げる。


「何を言っている。私が思っていたよりずっと早いぞ。私が公孫瓚だ。よろしく頼む」


 それにまた頭を下げた。


白蓮(ぱいれん)ちゃん。この人は?」


 ぽわぽわした少女がキョトンとした顔で訊いた。


「私の副将として洛陽から派遣されてきた者だ」


 公孫瓚がこちらを見て自己紹介を促した。


「私の名は黒薙、字は明蓮。洛陽の警備部隊を任されていた。今回は公孫瓚殿の副将を務めることになる」


『えええ~~~っ!?』


 いきなり二つの叫び声が飛んできた。

 公孫瓚とぽわぽわ少女だった。


「何か?」


「え、あなたが明蓮さん?」


「字は明蓮だが」


 ぽわぽわ少女に答える。


「廬植先生の最高の門下生って言われてる?」


「なんと言われているか存じませんが、確かに自分は廬植門下です」


 公孫瓚の問いにも答える。


桃香(とうか)様。その、この方を知っていらっしゃるので?」


 黒髪の少女がぽわぽわ少女に訊いた。


「知ってるもなにも、廬植門下生でその名前を知らない人はいないよ!」


「廬植先生を駒勝負で負かしたこと数知れず、水鏡先生に軍事に天性の才ありと言われた──て、廬植先生が言ってたぞ」


「過大評価な気がしますが」


 なんだよ、生徒を勧誘する謳い文句みたいなの。聞いてないよそんなこと。

 先生、生徒の武勇伝出すなら許可とってよ。別にいいんだけど。


「私は劉備(りゅうび)、字は玄徳(げんとく)、真名は桃香です。桃香って呼んでください」


「いや、待て。いきなりそんな、はいどうぞと、俺に真名を言わせていいのか?」


 廬植から真名は本人が心を許した人にしか呼ぶことを許されない、と聞かされた。

 だから俺は真名──下の名前は廬植先生と黒永にしか教えてない。


「廬植先生が認める人に悪い人はいないですよ」


「いや、とはいえ。せめてもう少しお互いのことを知ってからの方が」


「むう、明蓮さんがそういうなら」


「ふむ。後ろの四人は?」


 話題をそらして劉備の後ろを見る。


「我が名は関羽(かんう)、字は雲長(うんちょう)。桃香様の義兄弟です」


鈴々(りんりん)張飛(ちょうひ)、字は翼徳(よくとく)なのだ。愛紗(あいしゃ)と同じくなのだ」


「愛紗というのは私の真名で、鈴々というのが張飛の真名です」


 関羽が補足説明のように言った。


「ふむ、ならば私も自己紹介しなければなるまい」


 と、もう一人の空色の髪の少女が言った。


趙雲(ちょううん)、字は子竜(しりゅう)。真名は(せい)。公孫瓚殿──伯珪(はくけい)殿の客将をしております」


 優雅に礼をした。

 美徳、というものを自分で何か持っているかのような頭の下げ方だ。


「俺は北郷一刀(ほんごうかずと)、桃香たちと一緒に行動しています」


「北郷──天の御遣い、と言われてる?」


「本当かわからないけど、そうです」


「ふぅん」


 上から下まで北郷を見る。茶髪の短い髪、自分より少し背が高い、二十歳前かというくらいの優男だ。──日本人だな。


「なんですか?」


「──いや」


 ちょっと笑って言った。

 俺と同じような境遇──未来から来たってところだろうか。

 北郷一刀と、おそらく日本名を名乗っている。

 この白い服装も学生服のようだ。

 話を聞きたいとも思ったが、見たところ帰る方法を知っているとも思えない。

 天の御遣いだったか。こうまで噂になっているくらいだから何かしら妖術なり使えるものかと思っていたけど、そうでもないらしい。

 武術に秀でているわけでもなさそうだ。


「まあ、自己紹介はこれくらいでいいか。公孫瓚殿、これからどうされる?」


 劉備たちから目をそらし、公孫瓚を見た。


「まずは、義勇兵を募りたい。兵隊は多く揃えるのが基本だ」


「自分の兵、五百人を連れてきました。警備で使っている者たちですが練度は自負しています。しかし、義勇兵と一緒に編成しないでいただきたい。動きの悪い兵と混ざると、動きのいい兵を殺すことになります」


「ああ、それはわかっている。黒薙には、遊軍という立場で動いてもらうつもりだ」


「ありがたい」


 頭を下げた。

 義勇兵は多くが民の集まりで訓練のされていない兵だ。

 これと訓練した兵を混ぜてしまうと、義勇兵の練度に合わせなければならないため、せっかくの動きを悪くしてしまう。


「ねえねえ、白蓮ちゃん。私も義勇兵を集めたいんけど」


 劉備が遠慮がちに言った。


「劉備たちは義勇軍という立場かな?」


「はい」


 義勇軍なら兵数を増やしたいのは当たり前だろう。


「なるほど。しかし、よく兵を率いない者を城に入れたものですね、公孫瓚殿。それほど彼女たちは優秀ということですか」


 城外や城内を見る限り、義勇兵らしき姿はなかった。

 同じ廬植門下というし、公孫瓚が起用したのだろうか。


「あー……」


 すると北郷が言葉を濁した。


「何かあったのか?」


「実は……兵隊さんたちは帰しちゃって」


「なに!?」


 それは公孫瓚も聞いてなかったようで、劉備の言葉に声を上げた。

 帰しちゃった、ということは連れてきてはいたということか。


「騙したのか?」


「うっ。悪く言えばそうなります」


 俺の言葉に劉備が肩を落として言った。

 兵を率いていた、ということは公孫瓚が起用した訳ではないのか。

 しかし、何故このようなことを──劉備がもし、勢力を立ち上げようとしているなら。

 劉備は、蜀の主になる人物だ。


「──なるほど。なんとしてでも、この城に入れてもらいたいが為に、兵を率いているように見せかけてきたわけか。確かに、直前まで来るだけだったら金もかからないし、後で兵を集めればいい」


「──そういうことか」


 公孫瓚も納得したようで、溜め息をついて肩を落とした 。


「私はそういうのは別に良いと思うが」


「軽蔑しない、というのですか?」


 関羽がいぶかしげに訊いた。

 どこか堅い芯の通った、そういうことを悪く思う性格のようだ。


「軍と軍が戦う時にも、騙し合いというものはある。騙すという行為は、生きていくのにどうしても必要になってくる。特に今の御時世ではな」


「確かに、黒薙殿の言う通りだ」


 趙雲が同意する。

 こちらは、達観したような感じを受ける。

 俺としてはどちらも嫌いではない。


「ということで、公孫瓚殿もご容赦いただきたい」


「……まあ、桃香だから許そうと思ってるけど」


 俺の提案がなくとも大丈夫だったようだ。


「そして、義勇兵を集めるのも。今の劉備には兵がいない」


「ま、待て! 私だって一人でも兵隊が欲しい」


 さすがに兵だけは譲りたくないようだ。


「兵隊を募るのは構わない。けど私も集める」


 そんなことをしては、まだ名の売れていない劉備に兵は集まらないだろう。

 とはいえ、公孫瓚が兵を集めたいのもわからないでもない。

 敵より兵を多く集めようというのは、兵法から見ても常識なのだ。


「まあまあ。五百人は、自分で言うのもなんですが、精強であるつもりです。ここは劉備の門出を祝って、兵の募集は譲られてはいかがですか?」


「黒薙殿の言う通り。伯珪(はくけい)殿の兵だって精強。これに黒薙殿の兵と黒薙殿自身が加わるのですから、これ以上望めるものはありませんぞ」


「黒薙はそんなに強いか? 星」


 公孫瓚が趙雲を見て言う。


「強いですぞ。私と張り合えるくらい」


 趙雲が妖しくこちらに微笑みながら言った。ちょっとドキッてした。

 こんなことで動揺するな俺。


「いや。趙雲には敵わないな」


「何を申されるのです。相当の武をお持ちだ」


 俺の否定に、今度は関羽が観察するように俺を見つめながら言った。


「──それなら、我慢しよう」


 公孫瓚が渋々、といった風に言った。


「公孫瓚殿から許しも出た。お言葉に甘えて兵を募るといい」


「……やっぱり、あなたに真名を授けたいです」


 劉備が微笑みながら言った。それに苦笑いしながら断った。劉備はむくれているが。

 三国志の偉人ってこんな可愛い女の子だったのか。いやいや、たぶん本当はそんなことないんだろうけど。ほんと、変な世界に落ちてきたもんだ。

 心の中で溜め息をつきながら、外を見た。

 その時、趙雲の視線を感じていたが無視した。なんだと訊いても、荒唐無稽なこっちを言って茶化すに決まっている。

 なんとなく、趙雲の人柄が見えてきていた。

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