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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第五章.屈指の傭兵軍団
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勝利を君に

「申し上げまーーす!」


いきなり会議の席に劉備軍の兵士が駆け込んできた。


「どうしたっ!?」


それに愛紗が対応する。


「え、え、袁術の軍勢が国境を突破し、我が国に侵攻してきました!」


「なっ……!?」


思わぬ事態に北郷が絶句した。


「どういうことだっ!? 宣戦布告も出さず、奇襲を掛けてきたと言うのかっ!?」


「はっ! 国境の警備隊を突破後、猛烈な勢いで侵攻してきております! このままでは、州都に到着するのは時間の問題かと!」


宣戦布告もせずに攻めてくるとは。


「袁紹と変わらんな」


俺は呆れて小さく呟いた。


「くっ……鈴々! 星! すぐに迎撃準備だ!」


「応っ!」


「合点!」


愛紗の言葉に星と鈴々が力強く返事した。


「朱里、雛里は輜重隊の手配と……最悪の事態を考えて籠城戦の準備を。あと、近隣の諸侯に援軍を頼むとかって可能かな?」


「それは賛成できません」


北郷の問いに俺は反射的に答えた。


「下手をしたら袁術に手を貸して領土の分割を、と考えかねない」


「あ、そうか。そういう危険性もあるのか。うーん……」


「なぁに。袁術の軍など、さして強敵では無いでしょう。我らだけで充分事足りる」


俺の言葉に唸る北郷に星が言った。


「ええ。それに白蓮殿が連れてきてくれた兵士たち、さらに雛斗殿の軍も居ます。……簡単に負けることはないでしょう」


愛紗も星の言葉に同意する。


「ただ……前に会議で決めたように、素早くこの戦いを収拾しなければ、餓えた諸侯たちが襲いかかってくるでしょう。今はとにかく時間が大切です」


「素早く勝利して、隙がないって言うのを見せつけないといけないんだね……」


桃香が呟いた。


「はい。諸侯は援軍も出さず、私たちの戦いを傍観しています。それは私たちが負けそうなったら、すぐに自分の取り分を確保するためです」


「……卑怯者共め」


愛紗が苦々しげに言葉を吐いた。


「これが乱世だ、愛紗。この餓えた戦いに躊躇するようだと、本当に餓えた虎に食われるぞ」


「……弱肉強食とは良く言ったものだ」


愛紗に言った俺の言葉に、星も苦虫を噛み潰したような顔をした。


「……そうだな。雛斗も言ったように、そういうのが乱世って奴だ」


「白蓮お姉ちゃんが言うと説得力があるのだ」


「うっ、確かに……」


自分で言って落ち込んでいる。

まあ、実際そうなった良い例だしな……。


「次は大丈夫だよ。私たち、絶対に袁術さんなんかには負けないんだから!」


桃香が堅い表情で言った。


「その意気で行こう。……じゃあみんな」


「待っていただきたい」


ちょっと考えて、北郷の言葉を遮った。


「我らはどうしましょう?」


「……この城の守りを頼もう、て思ってたんだけど」


「客将に帰る場所である城を守らせるなど、言語道断。お引き受けできかねる」


「……体裁のことを言っているのですね、雛斗さん?」


雛里が考えながら言った。

それに俺は頷いた。


「仮にも自分は客将です。いつ離れるかもしれぬ輩。そんな者に城を守らせるのではなく、先鋒にでも使えばよいのです」


「でもでも、雛斗さんのことはすっごい信用してるよ!」


桃香が慌てて言った。


「先程雛里が申した、体裁のことをお考えください。民たちは、劉備殿を見ています。城を守るのが自分たちだとしたら、民たちが不安になります」


「雛斗さんだったらみんなもわかってくれます!」


「民たちだけでなく、諸侯も見ております。劉備軍は客将に城を守らせなければならないほど脆弱なのか、と見られてしまいます。御自身にその気が無くとも」


「黒薙殿の意見には、私も賛成です。いくら黒薙殿が信用できても、周囲の目があります」


しばらく黙っていた星が言った。


「私も賛成です。それに、城の守りなど兵士だけで充分です。雛斗殿の働き所は他にもあります」


「……もう、わかったよ」


愛紗の言葉もあり、桃香が渋々納得した。


「でも、私は本当に雛斗さんのことは信用してますからね」


「──光栄です」


ちょっと恥ずかしくなって頭を下げて顔を隠した。


「雛斗お兄ちゃん、顔が赤くなってるのだ!」


「り、鈴々! 余計なこと言うな!」


「あ、ホントだ!」


「意外に可愛いところもあるではないか、黒薙殿?」


「可愛いって言うな!」


───────────────────────


「ヒナちゃん、かわええなぁ♪」


「うるさい! 可愛いって言うな!」


からかうように見る霞に怒鳴った。

まったく恥ずかしいことこの上ない。


「顔を真っ赤にした黒薙殿は弄りがいがあって」


「星も黙っててくれ!」


「──とても行軍中には見えないな」


北郷が苦笑しながら言った。

そう、今は行軍中だ。

劉備軍に白蓮の兵士が加わった本隊と、黒薙軍の部隊とわかれて行軍している。

黒薙軍の部隊は黒永とねねに任せて、俺と霞と恋は本隊と共に進んでいた。


「黒薙殿は冷静沈着だが勇猛果敢な名将。その黒薙殿がいやはや、どうしてこのような可愛いところが」


「なあなあ。これからヒナちゃんって呼んでええか?」


「いいわけないでしょ!」


「それは呼びやすくて良いではないか。なあ、ヒナちゃん?」


「──もう言い返すのもめんどくさい」


「……ヒナちゃん、元気出す」


「ぐはっ!? 恋に言われると精神的に来る。──とりあえず、ヒナちゃんって言わないで」


「そろそろ漫才やめたら?」


「北郷殿よ。これは漫才ではない。苛められているのです」


「とにかく、袁術をいかにして倒すか。それを考えよう」


「黒薙様!」


北郷の言葉を遮るように黒永が駆けてきた。


「──どうした?」


下を向いていた顔を上げた。

うん、もう赤くないはず。


「間者から報告が」


黒永が耳元に寄って小声で呟いた。


「──間者から報告があった」


劉備軍や黒薙軍の面々に言った。


「間者?」


「間者というのは敵の情報を調べる諜報員のことです。俺が何人か雇っております。徐州周辺の諸侯の動きを探らせたのですが」


「どっか動きがあったんやな」


霞の言葉に俺は頷いた。


「孔伷の軍に動きがある。袁術に呼応したとしか思えない」


「だとすると側面から攻撃を受けることになります」


朱里が考えながら言った。


「とはいえ袁術さんの軍も大軍。今兵を多く割くことは、得策ではありません」


「なら、俺たちが行こう」


雛里の言葉に俺が進言した。


「配置が決まってしまった軍を変えるわけにもいかないだろう。だったら二つに分かれて進軍している、劉備軍より数の少ない俺たちの軍が出向いた方が良い」


「しかし、孔伷は一応一郡の太守。兵も少なくないはず」


「星。俺たちを甘く見るなよ」


「──そうだな」


俺が頬を上げるのに星もニヤリと笑って返した。


「じゃあ孔伷軍は頼むよ。雛斗」


「吉報をお待ちくだされ。霞! 恋! 黒永! 行くぞ」


「応っ!」


「……(コクッ)」


「御意」


黒薙軍の将士と共に黒薙軍に戻り、劉備軍から離れた。


「…………」


「星ちゃん、心配?」


「はっ!? 別にし、心配というわけでは」


「うっそだぁ~。雛斗さんの方、ずっと見てたじゃない」


───────────────────────


「敵は三万ってところか。ウチらはウチと雛斗と恋、合わせて二万。どないするんや、雛斗?」


四方八方に放った斥候が戻ってきた。

ちょうど前方十里(約四キロ)くらい先に孔伷の軍、三万が行軍中。

敵はどうやら斥候をおざなりにしか放っていないらしい。

つまり、相手はこちらの接近に気づいていない。


「策なしでも勝てそうだけどね。──ねねはどう見る?」


「雛斗殿の言う通り! 恋殿のいる我ら、策がなくとも勝利は確実です!」


「もうちっと軍師らしい発想はできんのかい」


霞が呆れて呟いた。


「黒永は?」


「──損害少なくして勝ちたいのでありますね? 黒薙様」


「そうだね。客将を続けていくからには兵は減らしたくはない。いちいち徴兵してお金使いたくいし、まだ名も上がっていないから多くは集められないだろうし」


それに劉備軍も徴兵をするのだから少しでも邪魔をしたくない。


「敵は我々に気づいておりません。やはり奇襲をかけるのが得策かと思われます」


「せやな。奇襲はしたいなぁ。せっかく敵は気づかないでくれてんのや。これを使わない手はない」


「まずは一つ。でも一撃で崩すには至らないと思う。仮にも正規兵なんだし、訓練くらいはしてるだろう。──恋。なんかない?」


黙って俺たちの話を聞いていた恋に訊いた。


「……奇襲は雛斗。霞と恋で突撃」


「それだけ?」


「……??」


首を傾げるところを見ると、どうやらそれだけらしい。


「せやけどウチはええと思う。敵は斥候すらまともに出せん奴らや。単純な戦で十分やと思うで」


「ねねも恋殿に賛成です! このような敵に細かい策など不要です!」


「──確かに、単純な策の方がよろしいかもしれません」


全員が恋の考えに賛成した。


「よし。恋の作戦で行こうか。霞と恋は敵の目の前にいきなり現れて敵を脅かせる。そこに俺が側面から奇襲をかける。それで混乱した敵を恋たちが総攻撃。どうかな?」


「充分やと思うで」


「……良い作戦」


「完璧だと思うです!」


「まず、勝てるかと」


「よし、すぐに配置につく。先に俺が丘の陰に隠れる。黒永も共についてこい。恋、霞、ねね。総攻撃は頼むよ」


「……(コクッ)」


「応っ!」


「任されてやるです!」


これをすぐに崩して劉備軍に合流する。

それで隙のなさはよく見えるはずだ。

思えば劉備軍の客将としては初めての戦だ。


「──ちゃんと勝たないとね」


黒永にも聞こえない声で呟いたつもりだったけど、黒永は頷いた。

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