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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第四章.北の確執と黒の傭兵軍
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目指す先

「桃香に伝えてくれ。公孫瓚が来た、と」


劉備軍の兵が驚き、慌てふためきながら城へ駆けていった。

数日して、俺と霞は青州で白蓮、恋、陳宮、黒永と合流した。

輜重を連れていたから徐州までの糧食はなんとかもった。

それから徐州までひた駆けた。

そして、ようやく徐州に到着したのだ。


すぐに城門を通され、宮城近くに駐屯を許された。

白蓮を先に劉備のもとへ行かせ、俺たちは兵を、特に恋と白蓮の兵を休ませてから黒永に兵の指揮を任せて宮城に入った。

袁紹軍の先鋒と顔良と文醜の部隊の強力な部隊とぶつかっていて激戦だったのだ。

白蓮自身も剣を振るったらしく、白い鎧に返り血がついていた。


霞と恋、陳宮を連れて劉備たちがいる部屋へ通された。


「宣戦布告の使者が来ると同時に、国境の城が次々と落とされてしまって……」


白蓮の悲痛な声が聞こえた。

自分の領土を失って悲しまない奴はいない。


「反撃はしたのかー?」


「反撃ぐらいしてやったよ。派手に一発な」


白蓮の代わりに俺が答えて白蓮の隣に立った。


「明蓮さん!?」


「黒薙殿!? なぜ伯珪殿と」


劉備や趙雲だけでなく、劉備軍のみんなが驚いてこちらを見た。


「恋や霞──呂布と張遼だが、皆とお前たち反董卓連合軍から逃げ、北へ向かったんだ。そして、白蓮の客将となって擁護を受けていたのだが」


「なに!? 呂布に張遼まで連れているのか!?」


「俺の後ろにいる」


「ご機嫌麗(うるわ)しゅう。張文遠や」


「……また会った」


「ここで会ったが百年目です!」


「まだ一ヶ月くらいしか経ってないのだ」


陳宮の言葉に張飛が真顔で言い返した。


「そんなこと、わかってるです!」


「──まあ、とにかく。俺たちと白蓮で袁紹軍に一撃お見舞いしてから、なんとか白蓮以下全員をここまで連れて」


「落ち延びてきたという訳ですな」


趙雲が淡々と言った。


「雛斗がいてくれなかったら、ここまで来れなかったはずだ。全部雛斗のおかげだ」


「申し訳ないと思うけど、報酬はもらうからね」


「もちろんだ」


「報酬云々は置いといて。状況は理解出来た。何にせよ、白蓮が無事で本当に良かった……」


北郷がホッとしながら言った。


「北郷……」


「俺たちは白蓮たちのこと、歓迎するからさ。気が済むまでこの国に居てくれて良いよ」


「そうそう。私たちに今があるのも、白蓮ちゃんと明蓮さんが私たちのことを応援してくれたからなんだし。今度は私たちが恩を返す番だよ♪」


劉備がにこりと笑いかけて言った。


「……すまん」


「気にしない気にしない。困ったときはお互い様なんだから♪」


「しかし……北方の袁紹さんの国が出来た以上、これからは諸侯同士の争いが激化するでしょうね」


「どういうこと?」


髪の色が薄い少女が深刻そうに言った。

かなり周囲の状況が見えているようだ。


「これは白蓮にも話したことだが。北方を抑えていた白蓮の領土を袁紹が奪った。そしたら袁紹は北の驚異が消え、南下、西進が可能になる──ということだよ、北郷。ところで、そちらのお嬢さん方は? 黄巾の乱の頃には会わなかったな」


「ああ。こっちが諸葛亮、こっちが鳳統だ」


北郷が二人を紹介した。


「あなたが水鏡先生の言ってた、明蓮さんですか?」


「軍事に関しては非凡な才を持っている、と聞きました」


「廬植先生だけじゃなく、水鏡先生までそんなこと言ってたのか」


苦笑して言った。

皆、俺のことを過大評価している気がする。


「自己紹介しておこう。黒薙、字は明蓮。会えて光栄だよ。諸葛亮殿、鳳統殿」


「はわわ! 諸葛亮、字は孔明です! こちらこそっ、会えて光栄です!」


「あわわ! 龐統、字は士元です! よ、よろしくお願いします」


あたふたしながら二人は挨拶した。

見てて飽きないな、この二人。


「よろしく頼む。まあ、話を戻すと、袁紹は南、もしくは西に動くために後顧の憂いを絶ったということだ。南に曹操、西には精強な騎馬が有名な馬騰がいる。だから先に奪るなら北の白蓮のところだろう、て国境の城を固めたのだが──元から兵力が上の袁紹は難なく城を攻め落としていき、て訳さ」


「黒薙殿なら袁紹くらい破れた、と思うのだが?」


趙雲が疑うような目で言った。


「袁紹を破っても曹操がいる。兵力が下の俺たちが苦労して袁紹を倒しても、疲弊した俺たちを曹操が見逃すはずがない。曹操は袁紹みたいに甘くない。今回みたいに逃がしちゃくれないだろうし。だから、領土は諦めて白蓮の命を最優先にした」


「確かに、明蓮さんの言う通りです。奇策を使って袁紹さんを倒したとしても、兵の疲弊は否めなかったと思います」


「元々数で負けているのを奇策で無理矢理勝利する……兵は相手の兵より多く働かなければいけません。当然、犠牲も多いはずです。そんな状態で無理矢理勝って袁紹さんの領土を奪っても、内政の暇も与えずに曹操さんなら攻めてくるでしょう。明蓮さんの判断は、正しいと思います」


「…………」


諸葛亮と龐統の言葉に趙雲は押し黙った。


「──俺だって、領土を失うことになった白蓮には悪いと思うし、力足りない俺自身、悔しい。だが白蓮を死なせることになったら、俺だけでなく趙雲たちも悲しむことになると思った」


「明蓮さんの言う通りだよ。白蓮ちゃんが生きててくれて、本当に良かった」


「……雛斗、桃香」


白蓮のかすれた声が聞こえた。


「……わかった。すまない、黒薙殿。あなたを非難するようなことを言って」


「気にするな。今はとにかく、白蓮の今後のことを考えよう」


「うむ……伯珪殿。今後、どうする? 袁紹に奪われた領土を取り戻すために行動するのか?」


「……いや。麗羽の軍勢はすでに私の手に負えるものじゃ無くなってる。もう私では太刀打ち出来ないんだ……」


「なら、どうされるのです?」


関羽が訊いた。


「……北郷たちが良ければ、私をお前達の下に置いて欲しい」


「それって、つまり鈴々たちの仲間になるってことかー?」


張飛が両手を後頭部に合わせながら訊いた。


「仲間? いや、私は北郷たちに臣下の礼を……」


「そんなの要らないよ! 私たちは白蓮ちゃんを仲間として迎えたいの♪ ダメかな?」


「……それで良いのか?」


桃香の言葉に白蓮が訊いた。


「良いも何も……。便宜上、主従って関係にはなっているけどら俺はみんなを仲間と思ってるし、皆もそう思ってる。……だから白蓮も俺や桃香の家臣って訳じゃなくて、仲間として迎え入れたいんだ」


「……なんや、雛斗と似とるな~」


北郷の言葉に霞がちらりとこちらを見てきた。


「ん? なんのこと?」


「気にするな、北郷。霞の独り言だ」


「……変かな?」


「まあ、確かに北郷たちは他に比べたら変だな」


「お前が言うなや!」


霞が突っ込んだ。


「……ふ、ふふふふっ、はははははっ!」


いきなり白蓮が笑い出した。


「なんか……良いな、こういうの。久しぶりに笑えた気がするよ」


「遼東では、俺に愚痴ばっかり言ってたしな」


「ああ……って、うるさい! そんなこと、ここで言うな!」


「ふふっ」


小さく笑ってやった。

白蓮は一人、遼東の内政に打ち込んでいたんだ。

愚痴を言いたくなるのは当たり前だった。


「まあ……とにかく、私も……その仲間に入れてもらっても良いか?」


「当然だよ♪ 白蓮ちゃんは私にとって、とっても大切なお友達だもん♪」


「ん。……歓迎するよ、白蓮」


やっぱり劉備と北郷は快諾した。


「ありがとう……これから、よろし……く……」


「っ!?」


トサッ


「白蓮ちゃんっ!?」


言葉を言いかけて、白蓮がいきなり崩れた。

俺はそれに気づいて、何とか受け止めた。


「……大丈夫だ。脈はある。見たところ大きな怪我も見られないし、気が抜けたのだろう」


「そうですか? びっくりしたなぁ、もう」


上着を床に敷いて、ゆっくりとおろした。


「北方からここまで耐えていただいた。疲れて当然だ。悪いが白蓮のために寝かせてあげられる部屋を拝借したい」


「もちろんだ。雛里。白蓮をすぐに別室に連れて行ってあげて」


「はい♪」


「頼んだよ。──さて、黒薙はどうする?」


北郷は一息ついてから俺に目を向けた。

劉備たち全員が俺たちに注がれている。


「──俺たちは今、傭兵として動いている。白蓮との客将としての契約は報酬をもらった時点で切れる」


「傭兵? 黒薙殿なら、どこの軍に居ても十二分に働けるはずだが」


趙雲が首をひねった。


「未だ、目指すところがどこか。それが決まらなくてな。虎牢関から逃げ出したときには、恋や霞が隣にいた。そして、なにより俺たちを拠り所にする兵たち。俺は兵や恋たちと生きていくことに必死になった。考えようにも、考えらんなくってな」


苦笑しながら白蓮が連れていかれた後の床に敷いた黒い上着を払ってから羽織った。


「だから仕官もせずに軍を率いている、という訳ですな」


「恥ずかしながら、な。そこで一つ、提案がある。俺たちをしばらく客将に置いてくれないか?」


「客将──」


北郷が呟いた。


「言った通り、目指すところがまだ定まらない。劉備軍の進む先を見てみたい。傭兵、客将として俺たちを劉備軍の末席に加えてくれないか?」


「なに言ってるんですか!? 明蓮さんが私たちの仲間になってくれるのは大歓迎ですよ!」


「勘違いしないで欲しい。劉備軍が目指すところが、俺たちの心に響かなかったら問答無用で去らせていただく」


劉備が嬉しそうにするのに釘を刺すよう言った。


「黒薙殿!」


「いいの、星ちゃん。明蓮さんだって目指すものがあって、それは私たちとは違うときだってある。仕方ないことだよ」


「おわかりいただき、感謝する」


「でも──私は、明蓮さんなら絶対わかってくれるって信じてますから♪」


劉備がニコリと笑いかけてきた。

穢れの見えない、曇りもない、綺麗な笑顔だった。


「──俺も、お前たちとは敵対したくないよ」


その笑顔から目をそらしながら、小さく呟いた。


とにかく、白蓮が無事劉備軍に加わって、俺たちも糧食を確保できた。

しばらくは劉備軍にお邪魔して、劉備軍の目指すところを見極めよう。

きっと、俺たちを魅了するところであって欲しい──そう願った。

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