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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第二十章.赤壁の戦い
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三国が生きるため

 襄陽の城から緊張が漏れ出ていた。それは敵である自分にもよくわかった。まだ、曹操軍は戦意を失っていない。流石だ。

 現在の戦況に反して、空清々しいほどの晴れである。まだ冬だというのに陽射しが温かく、厚着にしているので汗をかくほどだ。


「会談の使者を出してください。呉からもお願いします」


「劉備殿、それでよろしいのですね?」


「会議で決めたことでしょ、冥琳。諸葛亮も龐統も、穏だって賛成してたじゃない」


 孫策になだめられるが、周瑜はまだ腑に落ちないようだ。しかし、それしか生き残る方法はないのだ。

 先の会議で、曹操軍とは一時休戦してそれぞれ三国の謀叛を鎮圧することに手を貸す。劉備がひとりで考え、意見したのだ。

 周瑜は難色を示したが、孫策は賛成派で諸葛亮も龐統も呉の軍師たちと吟味した結果賛成した。


「孫呉からは私が行きましょう。供に周泰を連れていきます」


「そうね。こちらの本気加減を示すには要人を使者にした方がいいわね。冥琳、頼むわ。蜀はどうするのかしら?」


「私が行きます」


 劉備が言うのに、一刀は思わずその肩を掴んだ。


「桃香、それは」


「曹操さんに本気を伝えなきゃいけないんだから、私が行かないと」


「……もう聞かないだろ。せめて星を連れて行ってくれ。あと、朱里もお願い」


 一刀に力強く頷いて見せた。ここ最近の劉備は、なにか決めるとそれを曲げない頑固さが備わってきた気がする。


「なら、私も行った方がいいわね。冥琳、いいかしら?」 


「お前も言って聞くようなお利口さんじゃないだろう」


 周瑜が苦笑いすると、孫策は屈託のない笑みを見せた。二人の信頼関係がわかる。


「星。桃香様に怪我でも負わせたら、ただじゃおかないからな」


「わかっている、愛紗。我が槍に誓う」


 趙雲も不敵な笑みを関羽に見せていた。


 * * * * *


「劉備、孫策。今さらなんの用かしら」


 曹操は城から出て、折りたたみの椅子のみの、互いの軍がよく見える会談の席に応じた。

 供に夏侯惇と荀彧を連れている。


「曹操さん。長安と北平で謀叛が起きたと聞きました」


「そうね。司馬懿という娘が中心ね」


 既に知れているとわかっているらしく、隠すこともなく言った。


「そっちも成都と呉、会稽で謀叛があったらしいわね」


「変な因果よね? 曹操」


 孫策がにやりと笑って見せると、曹操も笑った。


「司馬懿の策略じゃないかと、こちらでも話し合っていたところよ。三国同時に謀叛なんて、あまりにも不自然過ぎる。そして、それに付けて司馬懿の漢中攻撃──鮮やか過ぎるわ。まるで、自分が首謀者だと見せつけているようね」


 曹操が自嘲気味に笑った。


「それで、三国で停戦協定でも結びたいってところかしら?」


「違います。曹操さん。停戦はもちろんですけど、それだけじゃダメだと思うんです」


「劉備。手を組みたいというのは無理な話よ。あなたたちに、我ら魏が、どれほどの被害を受けたと思うの? 私も納得できないし、臣下はもっと納得しないでしょう」


「でも、曹操。あなたの軍は疲弊してるでしょ。その状態で、しかも謀叛が起きてるし士気の低下は免れないでしょ」


「口は達者なようね、孫策。本拠の許都は健在よ。そこでいくらでも立て直しは利くわ」


「長安と北平の挟み撃ちにされるっていうのに、ほんとに平気なのかしら」


 流石に曹操は黙った。荀彧も何か思案しているが、言い出す言葉が思い付かない。夏侯惇は、ただ片目を閉じてじっとしている。


「曹操さん」


「──停戦協定は結びたいと思うわ。けど、同盟には条件があるわ」


「なにかしら?」


「黒薙を頂戴」


 これには孫策も劉備も驚いた。諸葛亮も周瑜でさえもだ。荀彧も聞いていなかったらしく、曹操を凝視している。


「人質、というところですか?」


「周瑜ね。違うわ。私個人が黒薙を欲しいと思っているだけよ。あの子は、優秀過ぎる。我が魏でこそ輝ける人材よ」


 それだけではない、と劉備も孫策も感じていた。孫策と周瑜と同じく、黒薙に執着している。


「どうなの? 劉備。黒薙を、魏にくれるかしら」


 劉備は黙り込んだ。諸葛亮は決められないようで、劉備の背中を見ている。趙雲も静かだが、怒気を発している。


「桃香様!」


 不意に声と共に誰かが駆けてきた。関羽だ。


「愛紗、どうした。まだ会談の最中だぞ」


「それが」


「桃香」


 関羽が返そうとしたが、聞き覚えのある声がそれを遮った。

 その声に劉備は口をぽかんと開けた。孫策も周瑜も、振り返って唖然としている。


「雛斗さん」


「今まで留守にしていて、申し訳ありません。黒薙、ただいま帰還しました」


 膝を付いて頭を下げる。出立前と変わらない姿だった。黒馬の黒鉄を連れた黒薙だった。


「ちょうど良かったわ。黒薙。今、貴方の話をしていたのよ」


「曹操殿、なんの話ですか」


 特に驚いた風もなく、黒薙は訊いた。


「貴方のことだから、私のところの謀叛の噂くらい聞いてるでしょ」


「長安と北平ですね。長安から二度、攻撃を仕掛けられて苦労しました」


「漢中を守り切ったのは、貴方がいたからなのね」


「司馬懿の謀叛直前に漢中に帰参しました。孟達の裏切りを掴んで、それが司馬懿による策略だと分かったからです。孟達寝返りと共に攻撃したのを追い返したのですが、その直後に司馬懿や成都の謀叛が起こったのです」


「流石というところね。漢中にあまり兵はいなかったでしょうに」


「私の元部下たちがいましたから。苦労はしましたが」


「それはいいとして。謀叛が起きた時、私の軍は劉備たちにこっ酷くやられてね。呉でも謀叛が起きて、三国の謀叛でしょ。停戦協定は結ぼうと思うのだけど、同盟までは私たちの被害からして簡単に結べるものじゃないわ」


「それと私になんの関係が?」


「同盟を結ぶ代わりに、黒薙を我が配下にと」


「……その同盟は、いつまででしょうか」


「そうね。黒薙が私の元にいる間は続くでしょうね」


「桃香様。曹操殿が永遠の同盟を約束していただけたら、私を手放してください」


「雛斗さん!」


 思わず黒薙の袖を掴んだ。


「私の予想だと、魏単体では司馬懿に勝てません。魏は先の大戦で疲弊し、挟み撃ちであり、さらに相手は司馬懿。まだなにか策があるやもしれません。蜀呉は同盟を結んでいるため、我らはなんとかなりましょうが、魏を破った司馬懿は魏の領土すべてを手に入れます。それまでに疲弊した我らに、また魏を倒す手段は、そうそう考え付くものではないと思います。魏、呉、蜀。三国同盟は必要不可欠です」


 黒薙がここまで考えて、自分を魏にくれろと言っている。

 あの忠義の黒薙が、だ。それほど司馬懿を脅威と考えている。そして、三国すべての危機と感じている。


「雛斗」


「星。ひとりの兵が魏に移ることで平和が手に入るなら、安いものだろ」


 趙雲に振り向かずに、黒薙は言った。黒薙は、ただの兵ではない。国の民は宝だというのに、黒薙がそうでないわけがない。


「雛斗さん。やっぱりそれはダメだよ」


「意見をはっきり言うようになりましたね。桃香様。あの時の言葉を、まだ守ってくださるのですか」


「そうじゃないよ。私は、今までもこれからも、雛斗さんが蜀に必要だと思うから。私には必要だから……蜀にいるみんな、私にとって宝物以上のものだから」


 黒薙が黙り込んで、劉備に振り向いた。変わらない、綺麗な黒い瞳が射抜いてくる。

 それをぐっと受け止める。


「……はぁ。相変わらずね、劉備。もういいわ」


 最後まで受け止める間もなく、曹操が肩を竦めた。


「同盟ね。いいでしょう。とにかく、三国がそれぞれの謀叛を鎮圧するまでは、魏はあなたたち蜀呉に力を貸すことを約束しましょう」


「曹操さん」


「桂花、許都の凛に伝令を。我ら魏は、蜀呉と同盟を結び、協力してそれぞれの謀叛を鎮圧すると」


「御意!」


「……曹操殿。今は遊んでいる暇ではないでしょうに」


「ふふっ。貴方に会うとつい、ね」


 黒薙が苦笑いした。


「どうやら、曹操に遊ばれていたようね」


「私は、黒薙に勝って黒薙を得たいのよ。それだけよ」


 どうやら、曹操は端から同盟を結ぶつもりでいたらしい。しかし、すぐに結んでやるのも面白くないし、蜀呉にやられたのに癪である。だから、黒薙を手放すか見たのか。


「孫策殿、周瑜殿。蜀と同盟を結んでくださり」


「いいのよ。そのつもりだったんだし。でも、あなたが呉に来てくれて、私も冥琳も嬉しかったわ」


「私はどうにもお堅い性格のようですから。遅くなってしまったと、今にしても思いますよ」


 黒薙が出奔した時、呉に赴いて同盟を勧めたという。その時、なにかしら交流があったのだろう。


「雛斗さん。ひとこと、いい?」


「うん?」


 また、黒薙に勝手に話を進められた感じがしていた。いつもそうだ。彼に追い付けない。だけど、黒薙は蜀や大切な人のために動いている。今回も、魏呉蜀のみんなのため。出奔しても、帰ってきても。

 黒薙が帰ってきたら、言うつもりだったのに、遅れてしまったけど。


「改めて、おかえりなさい!」


 黒薙はきょとんとして、しかし、すぐにふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

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