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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第二十章.赤壁の戦い
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最悪の予感

「仲達は内通で定軍山の城門を開けるよう、指示してあると言っていたが」


「どう見ても、開門されているようには見えません……」


曇天に届かんとするような、山の上にある城には『孟』の旗印はなく、曹操の南下が始まった頃から指揮を任されている黒永の『黒』の旗印が弱い風にはためいていた。

張郃は郭淮と共に漢中に侵攻していた。

仲達──司馬懿の字だが、あの娘が上庸の孟達を使って定軍山を開けさせると言った。

内部で混乱するところを攻め奪れる、と献策したからこうして来たというのに──失敗したのか?


「まあ、少し様子を見よう。敵方はこちらが見えているだろう」


正直に言うと、仲達のことを心から信用している訳ではなかった。

短髪の黒髪をがしがしと荒っぽく掻く。

袁紹を裏切った自分が何をと言うかもしれないが、そういう経緯があるからこそ、ああいう底で何を考えているかわからないのを信じ切ってはいけないと思っていた。

そういう警鐘が自分の中にはある。


「しかし、あんな若いというのにこういう手回しができるのは、なかなか将来が楽しみですよ」


「そうだろう! あの無垢な幼さがたまらない! もう目に入れても痛くないくらい」


「それは痛いと思うのですが……」


あの軟そうな白い肌、柔らかそうな薄い水色の髪、保護欲を掻き立てられるくりっとした目の上目遣い。

私は自他共に認める小さい娘が大好きな変態である。

短髪でさばさばしているために、男らしく見られるがなよなよした人の方が可愛らしいと思っているほど歪んだ好みを持っていると自分でも思う。

現に郭淮が困ったような、呆れたような表情をして笑っている。


「帰って戦果を持っていって、なでなでさせてくれないか……」


「戦果の褒賞がそのような物でいいのですか?」


なおも、緑色の前髪で目が隠れている顔で苦笑する。

郭淮は私が長安に配属されてからの仲だ。

部下であるが、なかなか見所のある少女だと思う。

戦況分析が的確で生真面目。

実戦経験は足りないが、積めば優秀な将になるはずだ。

この前髪のせいで根暗に見えるが、今も笑っている口元を見れば表情豊かなのだとわかる。


「将軍! 城門の旗が!」


傍の兵が定軍山を指差す。


「黒の旗が、孟の旗に!」


この前髪で見えるのか、郭淮が声を上げる。


「上手く言ったようだな。さすが仲達か」


警戒しているとはいえ、こうして字を呼べるくらいには仲を深めている。

警鐘が鳴っている以外は、張郃は司馬懿のことが嫌いではないのだ。


「両砦から一千騎ほどの兵が定軍山に向けて駆けています!」


定軍山の様子を見るための兵か。

旗印がないところを見ると、将が率いているわけではないようだ。


「騎馬を無視して、このまま定軍山に前進! 砦からの坂落としに注意しろ。どちらも六千あまりの兵がまだいる」


郭淮が部隊に命じている。

これならすぐに漢中を奪れそうだ。

今は揚州の方にいる蜀軍本隊も、南下中の曹操に構っていられないはずだ。

漢中が奪られれば、自分の本拠が狙われる。

城門が開くと、左右からの黒馬の二千騎がそのまま雪崩込む。

中からは混乱しているのか、兵のざわめきが聴こえる。

混乱を沈静されるのも困る。

兵に駆け足を命じて岩肌の目立つ山を駆け上る。

中腹まで登りかけた時、不意にあの警鐘が鳴った気がした。

動悸が激しくなってくる。

こんな時に、なんの予感があってこんなに動揺しているのか。

眉を潜めて周りの兵を見回し、何もないのを確認してからまた城門の方を見上げると、地響きが聴こえ、次には城門から黒馬の二千騎ほどが飛び出し、驚きの声を上げようとした時には一丸となった二千騎に先頭の兵が蹴散らされ、こちらの本陣に迫っていた。


───────────────────────


黒永と新兵一万五千を城に残し、敵部隊を突き破り、頭上に黒槍を差し上げて反転し、横からまた突撃をかける。

いつも思うけど、黒永はどこに槍を隠し持っているのだろう。

縦横と四つに突き崩したが、『張』の旗印のある部隊は一つに固まってまとまろうとしている。流石の対応だ。

旗に向かって反転しようと差し上げたところで、歓声が聴こえた。

定軍山の城と左右の砦から兵と騎馬が飛び出してくる。

まずは定軍山の兵が坂落としを仕掛け、続いて俺の二千騎と共に五千ずつ砦の騎馬が左右から八万の軍を揉み潰す。

敵わず、敵軍は崩れて潰走を始めた。

槍を差し上げ、兵を集めた。

『張』の旗も、八万もいたというのにまとまって元来た方へ下がっていく。


「雛斗! あんたって奴は……!」


張遼が馬から降りて走り寄ってくるなり、抱きついてきた。


「……ごめん。霞。殴られると思った」


「孟達の話は伝令から聞いた。雛斗はそれを勘付いてたっちゅうわけや。そんなん、殴れるかっ」


「でも、曹操の南下は止められてない」


「……まだ、負けてない」


呂布も普段通りの、優しい笑みを浮かべている。


「せや。呉の水軍に曹操も手を焼いて、今は硬直状態や。こっから巻き返すこともできるやろ」


「雛斗さまも、今すぐ蜀本隊へ向かうべきだと思います。その……お疲れでなければですが」


「亞莎の言うことはもっともなのです! 率いる将は多くいた方が良いです」


「亞莎とねねが言うのはもっともだけど」


みんな、戦勝気分もあるのだろうが、俺はそうではなかった。

胸騒ぎが強くなってきている。

何故だ? 張郃は追い返した。孟達も斬った。

他に悪い予感が、何かあるのか。


「黒薙様! 永安から火急の使者が」


黒兵が駆け付け、膝を付いて述べる。


「永安──俺が離れた時は、王平がいたはずだったね? 氷」


「はい。今も一万の兵で備えています。なにかあったのでしょうか」


すぐに、疲れ果てて兵に肩を貸してもらいながら蜀兵が雪崩込む。


「く、黒薙将軍っ! お帰りになられて」


「そんなことはいい。なにかあったのだな?」


嫌な予感しかしない。

これほどの胸騒ぎ、黒永が負傷して建業を脱出しようと決めた時以来だろうか。


「む、謀叛です! 黄皓以下、数人の文官と袁紹がご謀叛! 成都周辺を占拠されました!」


「……司馬懿、仲達。あの子娘は、とんでもないことをやらかそうとしているのか?」


その場が凍りつき、俺はその時考え付いたことに体が震える。

あの小さい娘が、まさか、でも。


「雛斗様……?」


「──王平なら、劉備様に伝令を出しているはず。このことは黒兵だけにとどめておけ。本拠を失ったなどと新兵に聞かせたら、混乱じゃ済まない。長安と成都に間者を送れ! 梓潼の太守は?」


「こ、ここ最近に頭角を表した姜維です」


「裏切るか?」


「漢中戦で捕らえ、投降した時に一刀様が会われたようですが。信用できると」


「なら、いるかもしれない成都からの脱走兵や臣下を収容したい。馬忠と張嶷に新兵一万を率いさせて梓潼へ。兵糧を持ってそれらを迎え入れさせろ。呂蒙、共に行って姜維の人柄を見定めてこい。信用できるようなら、二人を姜維の下に付ける。防備を固めるように言いつけも頼む」


「は、はい!」


「両砦に新兵一千を残して定軍山に戻る! また、司馬懿が攻めてくるかもしれない」


張郃ではなく、司馬懿と言った。

気付いていたが、みんなは気付かずに強く頷いた。

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