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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第四章.北の確執と黒の傭兵軍
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黒薙軍、決起

「報告します!」


定例の会議中に白蓮の兵が駆け込んできた。


「何事だ?」


「袁紹軍がいきなり国境の城に攻めかかり、これを落としました! それと同時に宣戦布告の使者が」


「なんだと!?」


白蓮が思わず席を立った。

戦の前には宣戦布告をしてからするものだ。

それを攻めると同時に使者を出すとは。


「卑怯な!」


そんな声が武将から聞こえた。

だが、これが乱世だ。

卑怯なんて言ってられない世界。


「とにかく防衛線を張れ! 国境の城へ救援を」


「客将ながら意見をさせていただきたい」


白蓮の指示を遮って俺は言った。

文官が露骨に眉間にしわを寄せた。


「客将は黙っておれ!」


「しかし、黒薙殿の軍は精強無比で黒薙殿自身、大変な軍略家。意見を無視できん!」


文官の言葉に武将が反発した。

俺は立ち上がり、白蓮の横に片膝をついた。


「客将になった時からこの命、支えている間は公孫瓚殿に捧げたつもり。公孫瓚殿の身に何かあろうものならこの首を切っていただいて構いませぬ。どうか、私の意見を聞いていただけませぬか?」


一座のざわめきが水を打ったように静かになった。

白蓮の顔は見れない。

俺は下を向いている。


「──私には軍師がいない。荀彧や諸葛亮、周瑜みたいな」


白蓮が淡々と言った。


「黒薙は私の軍師になってくれるか?」


「客将の身分を越えております」


「客将だなんて言うな! 雛斗は黄巾の乱の頃、私の副将だった。また、その時みたいに私を支えてくれ」


他がいるにもかかわらず、俺の真名を呼んだ。


「わかりました」


俺は立ち上がり、白蓮を見つめた。

すがるように、こちらを見上げていた。


「この命を賭して、公孫瓚殿の命をお守りいたします」


「──頼む」


白蓮は頭を下げた。


───────────────────────


「せやけど、雛斗ぉ」


霞が緊張感のない声で俺を呼んだ。

とはいえ、客将の軍以外の周りはピリピリしている。

当たり前だ。

圧倒的な兵力が今、正にこちらに向かっているのだ。


(「遼東を捨てていただきたい」


「我らが領土を捨てろと!?」


「既に奇策云々でどうにかできる状況ではなくなっています。今も境の城は次々に落とされ、救援を出すのは間に合わないでしょう。そして次はここ、本城に来る。だったら逃げるしかありません」


「そんな献策。勝つための策はないのか!?」


「私が言ったのは公孫瓚殿の命をお守りする、ということ。もちろん、諸侯の皆も。この本城で袁紹軍を撃退しても、本隊を倒さない限り何度でも攻めてきましょう。袁紹は名門の者。国力はあちらに分があります。撃退しても撃退しても、こちらは衰退する一方。本隊は顔良と文醜、大兵力のために堅いでしょう。本陣に達して撃破するのは至難の業。勝てる要素はないに等しいのです」


「だから、逃げる──」


「そうです、公孫瓚殿。私にはそれしか思い浮かびませぬ。それ以外の策をお選びになるのでしたら、それでも構いませぬ。私は客将なのですから」


「他に案がある者はいるのか?」


「…………」


「なら、黒薙の案を採用する。今から全軍の指揮を黒薙に任せる! 異論は認めない! 全て、黒薙の指示に従え!」)


「雛斗とウチと恋がいれば、文醜と顔良を恋が足止めして、雛斗とウチで本隊に突っ込めばイケる思うんやけど」


「確かに、最初にそれは考えたけど。袁紹を倒したところで、その背後には曹操がいる。強敵の袁紹が消え、疲弊した白蓮の軍が北全部を制していたら」


「曹操が見逃すはずない、か。さっすが雛斗や」


「……最近、ねねの存在が薄いです」


「……雛斗、陳宮よりすごい」


「あう~、呂布殿ぉ……」


そのやりとりに苦笑した。

これのお陰で俺たちの兵はそこまで緊張せず、かといって絶望もしていない。

今まさに、大軍が迫っているのだ。


「伝令!」


霞の兵が駆けてきた。


「袁紹軍はゆっくりとこちらに行軍中! 予定通り、山間部に入るものと思われます!」


「ほんまに阿呆やな」


「相手はあの袁紹です。仕方ないのです!」


「陳宮の言う通りだな」


袁紹の人柄を知るため、反董卓連合軍にいた頃のことを白蓮から聞いた。

「とにかく、華麗に進軍なさい、華麗に撃退なさい、て感じだよ」

兵力差はあれど、苦労しないかもしれないと思った。

油断は禁物だけど。


「山間の狭いところでは、大兵力は活かせないです。黒薙殿も考えますなぁ」


陳宮が気を取り直して言った。


「いや。来てくれれば楽だな、とは思ったけど。ちょっとしか期待してなかったぞ」


「せやな。普通だったら通らん道や。公孫瓚殿でも通らんと違うか?」


「たぶんな」


霞の言葉に白蓮も苦笑している。

白馬騎馬隊らしく、白馬を連れている。


「じゃあ、手筈通りに頼む。恋と白蓮が山間の出口にて袁紹軍本隊を足止め。山間部から出さないようにするんだ。陳宮が軍師」


「……(コクッ)」


「わかった」


「ねねの軍師の腕を見せてやるです!」


「霞と俺が山の頂上に隠れ、袁紹本陣が来るのを待つ。来たら奇襲して、恋も攻撃に移り速攻で突き崩す。ただし、撃退するだけだ。深追いするとこちらの損害が大きくなる」


「了解や」


「撃退を確認したら恋と白蓮は馬を潰さないように徐州へ逃げる。恋、陳宮。白蓮を任せた」


「……(コクッ)」


「任せろです! 呂布殿はねねがお守りしますぞぉ!」


「恋より白蓮を頼むよ。黒永は敵に気づかれぬように白蓮の蓄えた物資の輜重隊を率いて既に国境付近の山を通ってる。青州辺りで全員合流できるはずだ」


「え。雛斗、そんなこと聞いてないぞ?」


「うん。言ってないもん」


「雛斗。そんなまでして公孫瓚殿のことを」


「だって、それがなかったら白蓮から報酬貰えないじゃん」


「──黒薙殿、恐ろしい奴です」


陳宮の言葉をみんな否定しなかった。

こうは言ったけど、本当は白蓮の必死に蓄えたものを袁紹にみすみす渡すのは忍びないと思ったからだ。


「まあ、とりあえず。激、やろうか」


「せやな。んじゃ、ウチと雛斗、公孫瓚殿もやるか?」


「なんで雛斗は確定で私は訊くんだよ。やるよ」


ちょっと落ち込んで白蓮は言った。


「黒永、槍を」


苦笑しながら言った。

けどすぐに、黒永がいないということに気づいた。


「……雛斗。黒永、いない」


「──うん。言ってから気づいた」 


恋に言いながら恥ずかしくなって顔を伏せた。


「かわええなぁ、雛斗~」


「うぁ、見るな見るな!」


「激、飛ばさないのか?」


───────────────────────


激を飛ばし、山の頂上に潜んでしばらく。

行軍の足音が聞こえた。

これは斥候の部隊だろう。

霞もそう思ったらしく、反対側の山から出なかった。

山を見上げはしたが、斥候は前方を探っただけで来た道を戻っていった。

そして、少しして大部隊が山間を縫っていった。

おそらく顔良と文醜の部隊だ。

恋たちのいる方から歓声が聞こえた。

一度、激を飛ばしたのだろう。

さらに待って、袁の旗が上がった本隊が現れた。

大軍が悠々と進む姿は圧倒される──けど。


「見ろ、獲物がかかったぞ」


後ろにいる古参の麾下の兵たちから笑い声があがった。

黄巾の乱から何度も俺たちよりも多い大軍を相手してきて、大軍に対する恐怖が消えていた。

そうだ。

俺たちは倍する大軍が来ても、何度も打ち破ってきた。

袁紹軍が真下にやってきた。


「行くぞ! 俺たちに大軍など無意味だということを思い知らせてやれ! 全軍、突撃ぃい!」


「うぉぉぉぉーーーーーっ!」


俺を先頭にして黒薙軍が山を駆け降りる。

向かいの山からも霞が先頭になって突っ込んできている。

いきなり現れた俺たちに敵は動揺している。

その動揺の大きい、できるだけ本隊に近い、厚い層に突っ込んだ。

後ろから黒薙軍がついていき、層を切り広げていく。

さらに、山間の出口を塞いでいた恋が攻撃に移った。

黒槍で敵兵を突き上げ、弾き飛ばす。

霞と恋からも敵兵が飛んでいる。

すぐに霞と恋に合流した。

しかし、袁紹は後方に下がったらしい。

そこからそれぞれ反転し、下がった本隊は狙わず周囲の敵を散々に突き崩した。

目的は袁紹を撃退することで、袁紹を討つことではない。

敵兵が薙ぎ倒され、飛ばされ、跳ね上げられた。

袁紹軍は大混乱に陥り、来た山間を縫って退き始めた。

それを見て、再び俺は霞と合流した。

恋は既に白蓮と陳宮に合流して、青州へ向かっている。


「すぐにここを去るぞ。袁紹が体制を整える前に」


「了解や!」


兵をまとめて、すぐにそこを去った。

袁紹軍の追撃を危惧したが、領土さえ併呑できればいいと考えたのか、あるいは俺たちが森の深い山を選んで進んだためか現れなかった。

たぶん、前者はない。

だって袁紹だし。

無駄に執念深そうだしな。


とにかく今は青州で待つ白蓮たちと合流しないと。

目指すはその先だ。

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