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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第二十章.赤壁の戦い
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許都の腹心

まさか置いていかれるとは、思いもよらなかった。

今までの重要な戦には、ほぼ従軍してきた。

華琳様のお側には自分が、という自負はあった。

郭嘉は許都の自室で療養していた。

漢中戦の後からどうにも風邪で体調が優れなかった。

それでも、この程度の体調不良なら時代を決める大南下には参加できると思っていた。


「これでは華琳様に申し訳が立たない。この恩を返すためにも、早く完治しなければ」


許都の守りは、最近頭角を現した鄧艾という将校に委ねられている。

病が完治次第私もその守りに加わり、南下中の軍の後方支援に徹する。

備え付けの水瓶の水をゆっくり体に染み渡らせる。

鄧艾はかなりの儲けものだと思う。

部屋で休んでいるところを鄧艾が挨拶に来たが、精悍な顔に白髪が目立ったがそれ以上に眼に揺るぎがなかった。

華琳様の好む眼だ。きっとそれも見て、今回の許都の守りを命じたのだろう。


今朝は体の調子がよいので庭に繰り出し、眩しいほどの陽を浴びていた。

部屋に篭りがちも良くない。

たまには外の空気を吸わなければ。


「郭嘉様、お加減はよろしいのですか?」


兵の巡回に同行していたらしい、鄧艾が驚いた様子で尋ねた。

許都の守備に任じられるに当たって、鄧艾はつい最近に昇進した。

それまでは巡回や地図作成の指揮などが主な任務だった。

それが抜けていないのだろう。

しかし、気の緩みはこういうところから出るので必要なことだ。

軍の主力や将軍のほとんどが南下に参加していて、がら空きとは言わないが主力がいない分、ここはもぬけの殻なのだ。

上司が出払っていることもある。

警邏の兵がだらけているところを見つけては、華琳様は即座に首を刎ねるだろう。

どんな時でも弛緩は許されないのだ。


「なんとか、ですが。陽の下に出ることは悪くはないでしょう」


「大事の身なのですから、ご無理はなされぬよう。文官たちは皆優秀で、殿が居られなくとも仕事は順調に片付いております」


「それでも決めにくいこともありましょう。やはり、私が早くその任につかなくては」


「あまりお気に病まぬよう。軍の方はお任せください。私は武骨な輩ですので」


地図作成の指揮のできる者が武骨だとは思わなかったが、鄧艾は農民の出であるから気が引けているのだろう。


「では、私は練兵に付き合うので」


「陳泰がいるのでしたね。頼みましたよ」


鄧艾と陳泰は仲が良いらしい。

そこも含めて、華琳様は陳泰も残されたのだろう。

頭を下げ、鄧艾は編んだ長い白髪を揺らしながら練兵場に向かった。

皆は異形のものを見る目をしたりするが、私もそうだが華琳様も気になさることはない。

むしろ、日に反射してきらきらしている様は綺麗だと思う。


その背中を見送り、どうしようかと散歩の足を街に向けた。

侍女を一人連れていて、心配そうに傍らで付いてくる。

それにしても今日は本当に天気がいい。

そういえば、許都に新しく建て直した官吏宿泊所を華琳様は気にしていた。

その施設は単に宿泊できるだけでなく、民間の書簡や竹簡などのやり取りにも通される。

城ごとだけではなく、主たる村や行軍にも使われる整備された道沿いにも一定の距離間隔で建てられている。

馬舎も併設されているため、官吏が異動になったりする時は馬を潰さずに迅速な移動が可能になっている。

それは蜀も呉も同じなはずだ。

その書簡を管理する施設を一新したのだった。

歩くにもちょうどよい距離だし、寄って見てみるか。


許都は魏の本拠地だけあって、各地からの役人の往来が激しい。

宿泊施設自体大きいし人口も多い分、書簡も多く出入りしている。

三国に分かれて音信が不通になる者が出ないよう、名目上は朝廷管理の施設になっている。

蜀も呉も朝廷管理としているし、これで民間や敵将、文人などの友人同士のやり取りができる。

敵将に書簡を送るのは内通を疑われるのもいいところなので、私たちがそれを利用することはほぼないのだが。

見たところ滞りなく、書簡は流通しているようだ。

役人、民、職業などに分けているようだが、地域ごとに分けた方が良いのではないか。

地域の、例えば許都でも洛陽よりの地域、小沛よりの地域と様々に区域されている。

その中心となる村や街に役所を設置して──。


「あの、申し訳ない。よろしいでしょうか?」


ふと、凛とした声が耳に聴こえた。


「ああ、すみません。考え事をしていましたので」


慌てて返して横を見ると、はっとするほど端整な顔立ちをした美少女がいた。

黒い瞳がとても澄んでいるのが印象的だ。

今朝のような天気でなければ、室内では顔が見えなかっただろう。

頭に黒い布を被っている。

私よりも背が高く、美人具合がさらに際立っている。

体も細めだ。

魏にはこういうおしとやかな女性が少ないので、なおさら私の興味を惹いた。


「お気になさらず。漢中に住む友人に便りを出したいのですが、ここを利用するのは初めてなもので勝手がわかりません」


「それなら案内しましょう」


「礼を申します。助かります」


布の影でも微笑むのが見え、動揺してしまった。

華琳様以外で胸が高鳴ることがあるとは。

愛想笑みを返して侍女も連れて、担当の役人に案内する。

やり取りを見ていたが、とても丁寧な印象を受けた。

旅の者と案内中に聞いたが。


「しかし漢中ですか。その友人は五斗米道の信者ですか?」


「いえ、兵になっています。腕っ節というより、頭のよい人でして。魏の内情を知らせるわけではありませんよ」


ちらと考えていたのを見透かされたように、その少女は苦笑いした。


「お役人様に相談することではなかったかもしれませんね。心配でしたら竹簡の内容をお見せしても良いのですが」


「いえ、もし内情を調べていたのなら、あなたのような美少女を見つけられないわけがないでしょうし」


不意に少女の顔が険しくなった。

なにか気に障ることを言っただろうか、しかし少女はすぐに笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。お役人様のお手を患わせてしまい」


「この程度のこと、お気になさらず。もっとわかりやすく、役人に指示した方が良いのでしょうか」


「やることを増やしても、お役人様が混乱しましょう。あなた様のように、皆が有能なわけではないのですから」


それはわかっているが、この程度やれぬようではと思ってしまう。

華琳様も同じのようで、配下に求めるものはやはり大きい。


「では、少し急ぎなので失礼します」


「あっ。あなたの名前は?」


「張範と申します。できれば、あなたのお名前もお聞かせ願えますか?」


「郭嘉です」


「……見たところ、高位な方とお見受けしました。お見知りでき光栄です。失礼します、郭嘉様」


また笑みを浮かべ、張範は人混みに紛れて消えた。

不思議に、真っ黒で目立つ服装だと言うのにすぅといなくなっていた。

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