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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第二十章.赤壁の戦い
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明かずの策

蜀呉連合は軽く分断された状態となった。

荊州中部の江陵・襄陽を魏に占拠され、両国の交通経路は武陵・長沙、交州といった荊州南部より以南である。

長くかかるが、まだ蜀呉は互いに交通可能だ。

連合軍は水軍の調練を始めたのを確認し、魏が先に呉を狙うと判断。柴桑に蜀の本隊一万を招き入れた。

蜀は西に五胡の族を抱えているため五万、さらに本国が魏に対するために兵力をあまり割けないのだ。

それでも魏に対する前線である漢中の五万から二万を江陵戦に投入し、益州全体に駐屯していた兵をかき集めて、なんとか成都から精鋭一万を連れてこれたのだ。


「魏は水軍に慣れていない。が、既にその戦力を手に入れています。それが今回造反した蔡瑁です」


周瑜が俯く。

蜀呉の首脳陣、君主が城で会議していた。

蜀兵総勢六万、呉兵総勢八万が江陵の魏に当たる総兵力だ。

呉も江陵戦に際して建業から三万を送っていた。

江陵戦は負けたとはいえ、十二万はかなり被害が少ない。


「蔡瑁の件については、こちらの不手際です。申し訳ありません」


周瑜が深々と頭を下げる。

孫策もそれに習う。

蔡瑁は元劉表配下で呉の臣になっていたという。

襄陽にいたが今回の江陵戦で前線に駆り出され、江陵に退くまでは何もなかった。

前線の呉兵を指揮していたが以前から不満は燻ぶっていた。

劉表時代からの麾下を使って江陵城の門を開いたのだ。


「寝返りまで想定していたら、戦はできないと思います。蜀呉連合を組んでからごちゃごちゃしてましたし、仕方がありません」


朱里が慌てて宥める。

桃香も俺も咎めるつもりはなかった。


「そう言ってくれるとありがたいですが、落ち度は落ち度です」


「だからといって、罰することはできない。戦力や士気をいたずらに落とすだけだ。とにかく、これから魏にどう対抗する?」


俺こと一刀が話を変える。

この幕舎には両国の軍師陣、君主、軍の指揮者がいる。

愛紗はいない。ここにいたら、今回の呉の失敗をとやかく言うに決まっている。

雛斗の件については既に話は着いているのだが、国と個人ではまた別だった。

代わりに星を連れていた。

愛紗と雛斗がいない時は星だ、と雛斗とは意見が合致していた。

星なら私情を──怒ってはいるのだろうが──挟まず、連合軍に不利なことは言わない。

星は今、何を思っているのか目をつむって会議を聞いている。


「感謝します──言った通り、魏は水軍に慣れていません。そこに付け込む隙はあります。荊州水軍も私たち呉からすれば弱小です。が、大軍で押しこまれるとどうしようもありません」


「硬直状態にする必要がある、ということですね」


周瑜と朱里が話し始めたとこで、俺たちは黙りだした。

まあ、諸葛亮とか周瑜といった有名な軍師たちと話し合えるわけないし。

孫策はじっと地図を眺めている。

心なしか陸口のあたり──赤壁となるあたりを見ている気がする。


「それも長くなりそうな対峙がいいです。できれば魏軍を北に、そして船で対峙したいです」


「北、ですか」


朱里と雛里が地図の一点を凝視した。

孫策の見ていた場所だ。

けど、すぐにその近くの湖に目を移した。


「まずは洞庭湖で魏軍と一戦交えるのがよいと思います」


「うむ、江陵から長江を下るならそこを狙うのが良かろう、諸葛亮殿。洞庭湖は湖で、風と櫓を使わなければ進めません。流れがありませんから。だから、一日はそこに休止をいれる可能性が高い」


「帆をたためば動かないということですからね。兵を眠らせるにはもってこいの場所です」


「そういうことです、龐統殿。その夜を狙います。それで呉の水軍は一筋縄ではいかないと思わせます。しかし、曹操なら風を利用するくらいはできるでしょう」


「今の季節は北風──つまり、北を陣取るくらいのことはするでしょうね」


孫策が口を開いた。

水上でなくとも陸上でも、火計に気をつけるのに風向きを気にするのは当然のことだ。


「風上にいれば帆を利用しての突撃が強力になるし、他方角からの攻撃が弱くなるってことか?」


「そういうことです。曹操ほどの戦上手なら、帯陣にはそれくらいは念頭に置くはずです。既に優位だからこそ、圧倒的な戦力差だからこそ、曹操は待つと私は考えています」


俺の問いに周瑜が答えつつ言った。

眼鏡の奥の目は、鋭いと感じる。

まだ他に理由が、あるような気がした。


「我々、呉の文官たちの多くは降伏することを未だに声高に主張しております」


「内通ですか。今は文官だけとはいえ、武官にまで及んだら戦況に関わりますね」


「私としてはそれを利用したいと思っているのです、諸葛亮殿」


戦線硬直するため、か。

しかし、なぜだ。

戦線硬直したら、その降伏派の影響が戦に出るかもしれないし、江陵の備蓄を手に入れた魏を兵糧攻めするのも上手くいかないはずなのだ。


「朱里」


「ひとまずは曹操が洞庭湖に入るのを待ちましょう。攻撃はそれからで、そこから先のことはまだ読めません」


星が呼んだのとほぼ同時に朱里が言った。

周瑜も孫策も、雛里さえも頷いている。

軍師の三人、君主である孫策も終わりと言っていては、この軍議は終わりである。

星は眉を潜めたけど、口をつぐんで顎を引いた。

城の外に出ると、夜の北風の鋭さに身震いした。

城は中で明かりも兼ねて火を炊いているので、中と外では大違いだった。

隣の桃香も自分の体を抱いている。

桃香も星もいつもは寒そうな格好だけど、今は冬用であろう装備に変えている。

桃香は長いスカートだし、星は雛斗の着ているような白い小袖だ。

俺も白い制服に合わせた白いマントを羽織っている。


「幕舎までお供します。お前たちも来い」


俺たちにそう言ってから星は、外で控えていた兵たちを指揮する。

すぐに隊列を組んで移動を始めた。

軍議をしたのは孫策支配下の城で、孫策と周瑜はまだ中にいるようだ。


「朱里。話はしてもらえるのだろうな?」


「まだ何も言えません。周瑜さんとまともに話したのは、さっきが初めてです」


さっきの軍議のことだろう、前を警護する星がじろりと朱里を見たけどそう返答された。


「周瑜さんが何を考えているのか、私たちはまだ読めません。ですが、何か勝算があるのだと思います。それが確たる勝算なのかはわかりません。だからこそ、周瑜さんも明かさないんだと思います」


「周瑜さんの言う、戦線硬直になったら明らかになると思います。それまで、私たちもいろいろ調べますから待っていてもらえませんか?」


雛里と朱里が言うのに、星はふんと鼻を鳴らした。

雛斗の癖を真似したのか、と済んだ空気によく見える星を見上げながらふと思った。

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