拠点フェイズ1.白蓮
「これで、今回の会議は終了する。解散」
白蓮の宣言で、一座は頭を下げた。
もちろん、俺もだ。
客将の代表として会議に出席している。
まあ、客将だから意見なんて言わない。
言ったとしても客将のくせに何を言うか、と白蓮部下に言われておしまいだろう。
白蓮もそれを察してか、俺たちの軍の状況しか訊かない。
だから実質俺は会議には、ただ特に異常はありませんと報告しに来るだけである。
時折白蓮の配下の武官や将から調練の内容を訊かれたりするが、文官は頷きもせず鼻を鳴らすだけである。
「いつもすまないな。味方だとことあるごとに言っているのだが」
いつも通り、白蓮が申し訳なさそうに俺の幕舎に来た。
武官や将などの戦に携わる部下には、それなりの好印象は受けている。
袁紹との今の状況が嫌でも頭に入っているからだろう。
力を貸してくれと、頭を下げる者までいたくらいだ。
一方、文官は一応は味方だが客将である俺たちを冷ややかな目で見ている。
それもしょうがない。
俺たちは元は董卓軍だったわけだし、なにより俺たちは白蓮より兵が小数だった。
立場上もあちらが上で、数でもあちらが上なわけだからあちらが威張って当然だ。
「仕方ないさ。董卓軍だった客将を信じろ、て方が無理な話だ」
苦笑してお茶の入った椀を卓に置く。
茶葉は高価だから、あまりない。
客人のために用意してあるだけで、水で我慢している。
「あ、すまない。武将たちはわかってくれるんだが」
「文官と武官はわかり合えないよ。ほとんど、正反対な仕事をしてるんだから。曹操の軍師の荀彧は戦も知ってるからあれだけど、戦と政の両方を把握する完璧な能吏はほとんどいない」
「雛斗は?」
「俺は軍事だけだよ」
「だけど洛陽の警備部隊の隊長だった頃の評判は洛陽に出張に行った時に聞いたぞ。黒薙様のおかげで悪さをする者がいなくなりましたってさ」
「黒永がいたからだよ。部隊関係は俺、事務関係は黒永って分担してたから。まあ、全部の最終的な判断は俺がしたけど」
「そっか。片方でも信用できる部下がいるから、そうやって上手くみんなをまとめられてるんだな」
「白蓮は軍事と内政、両方できるでしょ。そこそこに」
「そこそこに、な」
「落ち込まないでよ。両方できるっていうのは、万能ってことだよ?」
「でも、そこそこなんだろう?」
「──まあ、取り柄があるだけましというものだよ」
「ううっ。素直に肯定してくれ」
「素直に言ったらたぶん、白蓮は今よりもっと落ち込むよ」
「そこまで読めてるんなら、もっと優しく答えられるだろう?」
「遠回しに言うのと、優しく慰められるのと、どっちがいい?」
「──遠回しに言ってくれた方がましか」
「慰められたら惨めに思うよ」
「それもそうだな。はあ……」
白蓮がため息をついてお茶を一気に飲み干す。
「まあ、とにかく。俺は何を言われようとなんにも気にしない。だから、君主様自ら客将のあばら屋に来ることはやめようね。客将を受け入れた君主の示しがつかないよ」
「だが、雛斗はあの呂布と張遼を従えてるし、雛斗自身相当な戦上手だ。客将にしておくにはもったいないくらいだ」
「頭の中に留めておくくらいにしてね。今の俺は副将じゃなくて客将なんだ。立場がまったく違う」
「──雛斗はホントにすごいな。呂布たちを従えてるのも、わかる気がする」
「部下じゃない。恋や霞は仲間だよ」
「そうだった。ゴメン」
「気にしないよ。端から見れば、そう見えるのも仕方ない。それより、早く内政に取りかかった方がいいんじゃないの? そこまで俺は面倒見切れないよ」
「あ、ああそうだな。なんか、愚痴ってばかりだったな。ゴメン」
「牧にもなると、問題が色々肩にのしかかるでしょ。愚痴だって言いたくなるのも仕方ないよ。今度は幕舎じゃなく、外で愚痴を聞こう」
「助かるよ。じゃあ、またな」
「もうここには来ないようにね」
ああ、と短い返事を返してから白蓮は幕舎を出た。
今思い返すと、白蓮の愚痴を聞いてるのも悪くないような気がした。
なんか終始、苦笑しっぱなしだった気がする。
まあ、これで白蓮の気持ちが晴れるなら安いもんか、と考えてから椀の洗いを頼むために黒永を呼んだ。




