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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ7.益州にて其の五
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拠点フェイズ7.翠、蒲公英

「雛斗さんっ!」


扉が勢いよく開く──ことはなくきっちり鍵を閉められたは、ばんっと張りのある音を出すにとどまる。


「むぅ。鍵閉めてる~」


「今仕事中なんだけど、蒲公英」


ため息をつくけど、書簡に書き留める筆は止めない。

まだ陽が上がりきっていない午前だ。

定期的に開かれる朝の会議は終えたが、まだ昼も遠いくらいの時間帯だ。

例のごとく、俺は事務仕事に追われている。

しばらくは書簡を流すこともできないだろうから、侍女も部屋に帰らせた。


「いいから、開けてよっ」


「用件は?」


遊ぶ、とかだったら却下するつもりでいた。

最近は騎馬の武具の確認や駿馬の調達、調練など外で活動することが多かった。

それで後回しにしていた事務仕事が溜まってきた。

今日のうちに全部片付けてしまいたい。


「用なんて、雛斗さんと一緒にいたいだけだよ」


なんでそんな恥ずかしいことを平気で言えるんだろう。


「仕事で忙しいから。また今度ね」


「え~。今度って、いつ~?」


「えっと──」


明日は特殊な調練を一日中して、明後日は午前の調練だけだけど一日放っておく事務仕事に追われるだろうし、明明後日(しあさって)は休みだけど亞莎と約束しちゃったし、四日後は──。


「十日後かな」


結局、一週間ほとんどに用事が詰まっていた。

亞莎の約束なんて、前の休みに帰ってきたところをようやく捕まえられたと言っていた。

それまで、他人に長く構っていられる暇なんて、それほど多くはなかったということか。

普段がこんななため、疲れてるとは思っていたけど別段大したことではない、と決めてかかっていた。

振り返ってみると、一週間に一度程度しか好きな娘と触れあえていない。

元の世界の大人もこれくらい、もしかするとこれ以上に苦しいことになってるかもしれないからあまり言えない。

けど、急に寂しい気持ちが強く湧いてきた。

それを感じると、蒲公英と触れたい、と思ってしまう自分が、同時に浅ましいとも思う。

寂しさで仕事を止めることは許されない。


「そんなに待てないよ!」


「そんなこと言われても」


申し訳ない、と思う。

蒲公英だって仕事の合間を縫って、こうして会いに来てくれているはずなのだ。

だけど、仕事か私事かと訊かれれば、仕事と応えるしかないのだ。

そうしか答えが出ないことにも、自身に惨めな想いが湧く。


「むぅ。じゃあ十日まで我慢するから、ちょっとの間でいいから開けてっ」


我慢するなら、と俺は筆を置いて席を立つ。

蒲公英への罪悪感もあった。

鍵を開けて扉を引く。

蒲公英の姿を確認した瞬間、蒲公英が飛び掛かってきた。


「あっ、んむっ!?」


声を上げかけたけど、柔らかいものが唇を塞いだために止められる。

蒲公英の顔が目の前にある。

口づけをされているのだと、ようやく気付いた。

首に腕を回され、俺は落ちないように蒲公英の身体を抱いた。


「んっ、んん」


求めるように、蒲公英の舌が俺の唇を舐める。

意図に気付いた俺は、仕方なく舌を受け入れた。

蒲公英の俺に比べるとまだ小さい舌が、俺の舌に触れて絡めてくる。


「ん……はぁ」


しばらくそうしていて、蒲公英から顔を離した。

頬が上気して赤い。


「えへへ。雛斗さんはほんとに勘がいいよね。こうやって受け入れてくれたんだから」


嬉しそうにはにかむのに、どきっとしながらも俺も頬を上げる。


「ゴメンね。これでも上に立つ人間だから」


「たんぽぽもね、わかってるよ。だけど、雛斗さんと会えない時間が長くなると、やっぱり苦しいの」


抱き上げるまま、蒲公英の頭を撫でる。


「ちょっとだけならいいけどね。仕事の時間を取られない程度ならね。でも」


「だから、わかってる。ちょっとなら、もう満足したから。十日後、忘れないでね♪」


にっこりと笑う蒲公英に俺も笑う。

十日後か、と記憶に残しながら、長いな、と思った。

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