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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ7.益州にて其の五
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拠点フェイズ7.亞莎

「はあ。わかりました、参考にさせていただきます」


持ってきた書簡に律儀に書き留めていく亞莎に微笑む。

教え子を見守る家庭教師はこんな感じなのだろうか。

黒い鎧に身をつつんだ騎兵が目の前を駆け抜けていく。


荒野を昼前の熱い陽射しが照りつけている。

陽射しを直に受ける肌から汗が滲み出る。

その暑い中、百騎の黒い騎馬隊が固まって駆けていた。

成都城外での調練だ。

騎馬の他に同じく百ほどの歩兵が調練用の槍を構えて衝突に備えているけど、その直前で騎馬隊は横にそれた。

駆けた後は渇いた土埃が舞い、視界を奪う。

これを利用した奇襲だ。

土埃は乱戦の中でこそ舞い上がり、そこに騎馬隊が突っ込んでくると乱戦の騒ぎもあって馬蹄の響きが聴こえないことも珍しくなく、何が起きたかわからない。

混乱させるに容易い奇襲の方法だ。

それを亞莎に、形だけ見せてやっているところだ。

歩兵の方は騎馬隊の位置がわからなくなって困惑している。

しかし、それでも歩兵は小さく固まって騎馬に備えている。

敵の位置が把握できない時は、これが正しい対処法だ。

固まって迎撃できる態勢であれば損害は少なくて済むし、混乱も防げる。

やらなければならないことは何か、兵たちがそれをわかっていれば混乱することは少ない。

ちなみにこの歩兵は桃香と一刀の本隊の兵だ。

その一部を借りて調練に打ち込んでいる。

普段は桃香と一刀が交替で調練を見ているけど、仕事が忙しく、毎日見ている訳ではない。

だから時々、こうして他の将軍の調練に連れていっている。


「荒野の中でしたら、この奇襲は強いですね。ただ、土埃の舞う、土が乾燥した場合に限りますね」


「まあね。その時の状況に合わせるしかないね。奇襲は敵の思いがけないことをして、それが成らないと成功しないから」


言いつつ片手を上げる。

黒尽くめの騎馬隊がすぐに反応して、こちらに駆けてくる。

駆けながら五列に整列する。

減速しながら俺たちの前で止まる。

歩兵もこちらに駆けてきている。


「ご苦労。城に戻って半刻休め。その後は歩兵と共に武器の調練に入れ」


『応っ』


「解散」


返事を聞いて頷くと、騎馬隊は歩兵へ反転していく。


「流石、雛斗さま麾下の騎馬隊です。翠さまや霞さまの騎馬隊にも劣らないです」


「そんなことないよ。騎馬に関しては翠たちの方が技術が上だよ」


騎馬隊たちに背を向けて後ろに控えていた黒鉄に歩く。

黒い騎馬隊は俺の直轄する騎馬隊、その中でも選りすぐりの精鋭──俺の麾下の兵だ。

洛陽で警備隊を生業としていた頃から従ってきた古参の兵士だ。

元は五百の兵がいたが、魏から翠たちを逃がした後の曹操の追っ手と激戦を繰り広げて、今の百騎だけが生き残った。

涼州で馬と共に過ごした翠や蒲公英、騎馬に関しては非凡な才を持つ霞や星。

その他、蜀にいる騎馬を得意とする将軍たちに勝てるとは思っていない。

とはいえ、麾下を操って断ち割れない陣はないとも思っている。

この百騎なら、敵が十倍の千人いようと勝てる自信がある。


「城に戻ろうか。この後も調練を見るし」


「お仕事はそれだけですか?」


「いや、普通に事務仕事もあるけど」


「そうですか……」


鋭い目をちょっと伏せる。

それを無視して黒鉄に跳び乗る。

何か言ったところで、お小言を食らうのは目に見えてる。


「亞莎、後ろに乗って」


「あっ、はい」


それでも慌てて返事をして亞莎が駆け寄ってくる。

手を差し出すと遠慮がちにとって、引き上げるのに合わせて跳んで、綺麗に後ろに乗った。

元は武官を目指していただけあって、運動神経はいい。


「しっかり捕まってて」


「そ、それでは、失礼します」


戸惑った声で俺の腰に腕を回す。

背中に控えめな柔らかいものがあたる。

気になって仕方ないけど、黒鉄の腹を蹴った。

急ぐ必要はないけど、感触を忘れたいために走りたい。


門をくぐり、街になると流石に歩かせた。

背中の感触にようやく慣れてきた。


「あの、雛斗さま。恥ずかしいのですが」


後ろからもごもごと聞こえてくる。

城門で降ろせばよかったかな。


「まあ、気にしない。前に雛里を乗せたこともあるし」


「ですが」


なおも何か言おうとするけど、ちょっと足で締めて黒鉄の歩調を速めた。


「このくらいの速さなら宮城なんてすぐだよ。嫌?」


「嫌だ、などと。私は、その、雛斗さまと密着できて、嬉しいです……」


「……なら、このままね」


意地悪を言ってみたけど、流石にそこまで言われると俺も恥ずかしい。

耳が赤くなってるんだろうな、と思いつつ手綱を握り締めた。

背中の感触がまた気になり出した。

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