拠点フェイズ7.白蓮
「白蓮って一刀や桃香と似てるよね」
「え……雛斗?」
麗羽が猪々子や斗詩と庭を街に向けて突き進むのを、後ろからついていく白蓮がこちらを見上げる。
城壁から見下ろす俺は手に徳利を持っている。
昼を過ぎ、小腹が空いてもよい時間帯だ。
陽射しはそよ風も相俟って肌にちょうどよい強さだ。
木陰に寝転がれば気持ちがいいかもしれない。
「まだ夜になってないぞ。星や霞みたいなことするなぁ」
「平時くらいは好きなことさせてもらわないとね。お酒は俺も好きだよ」
徳利からそのまま喉に酒を通す。
今日は非番の日だ。
愛紗は仕事があるが、今のところそれほどの量の書簡はないはずだ。
一人で裁ききれる。
「それよりついてかなくていいの? 麗羽たち、行っちゃうよ」
「私は別に麗羽たちのお目付け役じゃないんだけどなぁ。面倒事を私に押し付けないで欲しいよ」
「頼りにしてるってことでしょ。白蓮だって引き受けてるし」
「雛斗がやればいいだろ」
「無理。変に疲れちゃうよ」
「伯珪さん、何をしてらっしゃいますの?」
ついてこないのが不満だったのか、白蓮の元に麗羽たちが戻ってきた。
「おっ、雛斗じゃん」
「昼間からお酒ですか?」
猪々子と斗詩もこちらを見上げてくる。
「たまには俺も酒はいただくよ」
猪々子に手を振り返しながら言う。
「今日はお休みですか?」
「うん。たまには白蓮をちゃんと休ませてあげなよ。いっつも白蓮、ついてってくれてるんだから」
「あはは……伯珪さんには悪いとは思っているんですが」
斗詩は苦笑いして白蓮の方を見る。
白蓮は疲れた表情をしている。
「ま、そこのがじっとしてるのが嫌いなようだからね。仕方ないといえば仕方ないのかな」
「さっきから黙って聞いていれば、雛斗さんはこの方の肩を持つのがお好きなようね」
皮肉たっぷりに麗羽は言うけど、俺は徳利を口につけて聞き流す。
皮肉なんて洛陽で仕事してた時に聞き飽きてる。
賄賂を取らない、いけ好かない男で通ってたからね。
やんわり受け流してたつもりだったけど、まああちらからすればお堅い奴としか思われてなかっただろうなぁ。
「白蓮は大事な人だし。疲れてる時にはちゃんと休んでもらいたい、と思うのは当たり前でしょ」
「……雛斗さん、さらっとすごいこと言いますね」
「気障な奴だなぁ」
「うるさい」
斗詩と猪々子の言い様に、ちょっと恥ずかしくなってまた徳利を傾ける。
でも本心だ。
「まあ、いいですわ。野蛮な傭兵さんと品のないお馬さんはお似合いですわ。行きますわよ、顔良さん。文醜さん」
「あっ、ちょ。麗羽様!」
「ちょっと言い過ぎじゃ!」
捨て台詞を吐いてさっさと歩いていってしまう麗羽を、斗詩と猪々子はこちらを気にしながら追いかけていった。
「気にしないで良いよ~」
白蓮が何か言う前に手を振って先を促した。
斗詩が頭を下げて、猪々子は手を合わせて悪い、と言い麗羽の後を追った。
「……麗羽の奴。雛斗を野蛮なんて」
案の定、白蓮が憤慨して吐き捨てる。
「まあまあ。傭兵だったんだし、しょうがないよ」
「私はともかく、雛斗は悪く言われる謂(いわ)れはない」
「またそうやって自分を卑下する」
徳利に蓋をしてから城壁を飛び降りる。
「お、おい!」
白蓮は驚いてるけど、少し膝を折ってやわらげつつ、氣を地面に放出して衝撃を相殺して着地する。
「びっくりしたじゃないか。星みたいなことするなぁ」
白蓮は目を見開いて、すぐにホッと息を吐いた。
立ち上がりつつ、徳利の蓋を開ける。
「ゴメンゴメン、その星から教わったからね。話を戻すけど、そうやって自分を卑下しない。徐州の頃に言ったでしょ」
「まだ覚えてたのか」
「当たり前でしょ。あの後も、今だって白蓮のことを気にかけてるんだから。大事な人なんだから」
「……やっぱり気障な奴だな」
「うるさい」
さっきと同じように徳利を傾けて顔をそらす。
それを見て白蓮はくすくす笑っている。
そうやって笑ってた方が全然良い。
ため息ばかりしてると幸せが逃げるし。