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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ7.益州にて其の五
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拠点フェイズ7.霞

やはり外は寒い。

それはそうだ、月の見える夜に全裸なのだから。

しかし周囲は白い湯気で覆われて少し温かい。

水の音が静かに聴こえるだけで、他に音は耳にほとんど入らない。

躊躇なく奥に進み、まずは湯を掬って身体にかけ、それを終えてから足を差し入れてゆっくりと身体を湯に落ち着ける。


「はあ~」


肺から息が一気に吐き出され、心地よい余韻に浸る。

ここは成都の城の中にある温泉だ。

なかなか立派な温泉で露天風呂となっている。

しかし温泉は貴重なもので、男女二つに分けることができなかった。

それで日に日に交代で入っている。

元の世界みたいに簡単に沸かせるものじゃないからね。


「あったかいなぁ。この瞬間は戦も仕事も忘れさせてくれるよ」


首の捻って骨を鳴らして、また息を吐く。

今日は俺と氷と霞と恋とねねと亞莎と──元黒薙軍の面子が入ることになっている。

一日にこんな多く、それも時間も決めて入る。

そうじゃないとでみんなの入る周期が長くなってしまう。

女の子ばかりだし、もちろん俺もだけど、できれば短い周期で風呂に入りたい。


「こんな広い風呂だとありがたいね。足伸ばせるし」


とはいえ、次に霞が最後に待ってるからあまりのんびり入っていられないけど。

そういえば次の風呂の順番待ちを教えに来たのが霞だったな。

確か前は亞莎だったはず。

教えに来るとしたら亞莎のはずなんだけど、亞莎とすぐにその後会ったのはなんでだろう。

俺の部屋までに霞や恋たちの部屋があるし、そのどこかで亞莎と霞が会っていてもおかしくないけど。

ちなみに俺の部屋は一番奥にあり、元黒薙軍の面子の部屋が俺と同じ階にあったりする。

霞の部屋は俺の部屋に近いし、亞莎から言伝てを引き受けたりしたのかな。


そんなに時間もない。

頭を洗い、身体も洗い流してゆっくり湯に浸かる。

少しでもお湯にとっぷり浸かって身体を休ませたい。

濡れた頭が冷えぬよう、持ってきた手拭いでがしがしと無造作に拭く。

さすがに風呂にまで髪飾りはつけないで長い髪をそのままおろしている。

長い髪って洗うの面倒なんだけど……氷はそのままの方が格好いいって言ってくれるからなぁ。


不意にひたひたと微かな音が聴こえた。


「誰だ!」


入口から聴こえた音に、湯を波立てながら振り向く。


「へへ~。流石雛斗や。気配殺して来たっちゅうのに」


え、この声って……。

その声がわかった瞬間、身体中が熱くなってきた。


「し、霞!? まだ時間があるよ!」


足音の正体は大きな手拭い──バスタオルだけど──を身体に巻いた霞だった。

いつもと違い、まとめた髪が下ろされて違った雰囲気を感じるっていやその前にだ!

健全な男子の俺には全裸にバスタオル一枚の女子というのは、色々目に毒な訳で!


「雛斗と一緒にお風呂入りたいな~、て思ってな」


霞は然程気にした様子もなく、温泉に入ってくる。


「嫌?」


「い、嫌な訳じゃないけど」


「ならよかった。あーちゃんが風呂上がって、すぐ雛斗に伝えた甲斐があったわ~。少しでも長く雛斗と一緒にいたいからな~」


それで亞莎は俺と会った時、ちょっと驚いてたのか。


「それより~……雛斗、ええもの持っとるよなぁ」


言われた瞬間、恥ずかしくなってお湯に荒々しく座り込む。


「あはは! ヒナちゃんはかわええなぁ」


霞は多少頬を赤らめるけど、それほど恥ずかしがってはいないようだ。


「お、女の子がそんなところをジロジロ見るものじゃない! それに俺だって男なんだから、その……って、ヒナちゃんって言うな!」


「別にええやん。ウチとヒナちゃんは身体を見せ合った仲なんやから。あと、ヒナちゃんくらいええやろ~。可愛いんやから」


湯に入っても霞の綺麗な身体は見えて、それで目を向けてられなくて背を向けた。


「そ、そんなことも言わない! 可愛いって男が言われもあんまり嬉しくないよ!」


「ヒナちゃん、お堅いなぁ」


背中に柔らかい感触。

それと共に脇の下から腕が俺の身体に絡み付いてくる。

頭が沸騰してるみたいに何も考えられなくなる。


「だ、だからっ」


「……嫌?」


「い、いやじゃなくて……あぅ」


言葉が続かなくて変な声が出た。


「ああん、もうかわええなぁヒナちゃん!」


後ろから頬擦りしてくる。

うぅ、前もこんなことあった気がする。


「またそんな風に誘って」


「誘ってるに決まっとるやん。ウチは雛斗とイチャイチャしたい。こうしてくっついてると、なんだか胸が満たされる」


「……そんなこと言われたら、俺断れないじゃん」


なんでそんな嬉しくて恥ずかしいこと言えるのかな。


「うん、わかってる。ヒナちゃんは優しいもんなぁ」


霞が俺の肩に顎をのっける。

くすぐったくて、肩を強張らせてしまった。


「今、震えた」


「なんかむずむずするの」


「じゃ、これならええ?」


と、霞が横にきて腕に抱きついてくる。

タオルこそ巻いているものの、やはり柔らかい感触と人肌の熱さが腕を包む。


「いつもそうしてるじゃん」


「ええの。ウチはヒナちゃんとくっついていられればええ」


「言ったでしょ。断れないって」


「うん、わかってる」


くすくすと笑いながら俺の腕に頬を重ねる。

ようやくゆったりと風呂の縁に背中を預ける。


「ヒナちゃんとウチのお風呂の時間合わせれば、長く一緒にいられるやろ」


「のぼせるよ」


「そしたら出て、ヒナちゃんの部屋に行けばええ」


「明日も仕事だよ」


「ウチといるの嫌?」


「断れないよ」


「わかってる」


また小さく笑うのに俺も頬を緩めた。

たまにはこうして風呂で肌を合わせるのもいいかもしれない。

恥ずかしいけど。

いつまでこうしていられるか、誰だってわからないんだから。

触れられる時に、できるだけ触れあっていたい。

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