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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第十八章.終息と帰還
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借りを返すために

雛斗さんは無事なのか。

そればかり気になっていた。

私が軽い気持ちで孫策さんとの対談を許可しちゃったからこうなったんだ。


夕陽も沈みかけたところで曹操さんの兵隊さんたちは退いていった。

戦況はこっちに有利になってきている。

魏の兵糧を貯蔵していた天蕩山を攻略したから。

長安からの輸送隊を攪乱していた氷さんの提案だった。

作戦は大成功、見事に天蕩山を攻略した。

しかし氷さんが夏候淵さんとの戦闘で大怪我をしていた。

今は成都に下がって養生してもらっている。

命にかかわる怪我ではないそうだからホッとした。

今はそれから数日経った頃。


「こちらの損害は少ないです。魏はそろそろ撤退しても良いところまできていると思います」


損害の報告をまとめた朱里ちゃんが軍議の場で言った。


「兵糧を貯蔵していた天蕩山が落とされたんや。兵の多い魏は下がらない訳にはいかん、と思う」


霞さんも賛成する。


「しかし攪乱を受けていた輸送隊は復帰して、再び兵糧を送り続けています。すぐに引き下がるでしょうか」


亞莎ちゃんは疑問が残るみたいだ。


「天蕩山を落とされたことで兵の士気はさらに低くなっていますから。曹操さんは退き時を見誤らないはずです」


雛里ちゃんも朱里ちゃんに賛成みたい。

私の隣にいるご主人様は俯き気味に話を聞いている。

天蕩山攻めの時、もっと早く城門を開けていたら氷さんは怪我をしないで済んだかもしれない。

そう思って止まないみたいなの。

氷さんは自分の鍛練が足りなかったのです、とご主人様を励ましたけどやっぱりそれじゃ済まないって思ってる。

それは私にもよくわかった。

まったく同じじゃないけど、雛斗さんを送り出した私も氷さんに少なからず罪悪感がある。


「なんにせよ、曹操さんがどう攻めて来てもこっちは山を活かして戦えばどうってことないよね?」


「考え得ることは考え尽くしています。今の戦い方が一番こちらに有利な戦い方です」


朱里ちゃんが力強い目をする。

自信を持った瞳だ。


「も、申し上げます!」


軍議の場も朱里ちゃんに頷いたところで兵の一人が飛び込んできた。


「何事だ!? 軍議の最中だぞ!」


「し、しかし──」


叱責する愛紗ちゃんに兵隊さんはたじろぐ。

その後ろの入口から駆け込んできた。

特徴的な黒い服を見て思わず息を呑んだ。


「はぁ、はぁ……!」


「ひ、雛斗!?」


隣のご主人様も驚いて立ち上がる。

肩で息をして駆け込んできたのは、なんと雛斗さんだった。

ご主人様が意匠に加わったゆったりした服は原野を駆けてきたのか土埃にまみれていた。


「氷は。氷はどこに?」


場が揺れるのも構わず、雛斗さんはずっと一緒でいた従者の姿を探した。


「氷は、今は成都だ」


思いもよらない事態にご主人様は咳き込みながら言った。


「成都?」


「天蕩山を攻めた時、夏候淵と対峙して大怪我したのです」


「それで、怪我の状態は?」


まるでそのことは分かっていたかのように雛斗さんは亞莎ちゃんに矢継ぎ早に問う。


「命にかかわるような怪我やない、安心せえ」


「そ、そうか──」


霞さんの落ち着いた声もあってか、雛斗さんはようやく息を吐いた。


「雛斗、建業にいたはずでは?」


「悪いけど愛紗。訊きたいことは後にして欲しい」


皆が気になっていることを愛紗ちゃんが訊いたけど、雛斗さんはそう返した。

有無を言わせない、鋭い目をしていた。

愛紗ちゃんも思わず息を呑む。


「桃香様。申し訳ござらぬが、出撃の許可をいただきたい」


雛斗さんの言葉に一座はまたどよめいた。


「何言うとる! 雛斗なら分かるやろ、魏は大兵で攻めてきとる。せやけど守ってれば勝てる段階まできとるんや」


流石に霞さんは反対して立ち上がった。


「私にはやらなければならないことがある。今一度、曹操と話をしたい」


驚きの連発だ。


「曹操と話だと。何故だ?」


「やらなければならないことがある。それだけだ」


愛紗ちゃんが息を呑んだ。

一座も固唾を飲んで雛斗さんを見つめている。

あの威圧感のある毅然とした雰囲気だ。


「──ダメだと言うても聞かんのはわかったけどなぁ」


しばらくじっと見つめていた霞さんがため息をついた。

不意に恋ちゃんが立ち上がって雛斗さんに近寄る。

雛斗さんの手を無造作に掴む。


「……今は、お国の一大事」


驚いたけどすぐにじっと恋ちゃんを見つめて、雛斗さんが肩を下ろした。


「──熱くなりすぎた。ゴメン、恋」


恋ちゃんが頷く。

その場の皆も一気に緊張を緩めた。


「一方的に申し訳ありません」


「ううん。気にしないで、雛斗さん。でもどうしてそんなに急いでるの?」


「実は建業を脱出した時に情報を掴んだ楽進たちに脱出を援護していただいたのです」


そこで楽進たちに魏領を通す代わりに一時期の仕官を求められた。

しかし私は断りました。

それでも楽進たちは断念してここまでくる援助をしてくれました。

それは曹操の意図ではなく楽進たちの独断。

私を逃がした挙げ句、魏と呉との関係悪化を招いてしまいます。

楽進たちは罰を受けるでしょうが、私は助けられた恩をお返ししたい。


「──それで曹操さんと話を」


長い話を聞き終えて雛里ちゃんが呟く。

義と情に厚い雛斗さんらしかった。

敵だっていうのに恩義は必ず返したいと考えている。


「話し合いを要求しても無駄だと思い、ならば突撃して曹操の旗まで貫き話を着けようと」


「直情的な攻めやなぁ。ウチは雛斗のそういうところ、好きやけど」


「何を馬鹿なことを言っている、霞。雛斗を死にに出すようなものだぞ」


霞さんの言葉に愛紗ちゃんが声を荒げる。

雛斗さんや霞さんを悪く言ってる訳じゃない。

雛斗さんが心配だからそう言っている。


「──どうしても話をしたいのか? 雛斗」


ご主人様が口を開いた。


「自分勝手なのは百も承知です。ですがこのご恩を返さねば、私の気が済みません」


「なら、ちょっと考えてみよう」

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