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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第十七章.従者の策と脱出
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黒龍乱舞

「申し訳ない! どいてくれ!」


建業の城下町、その大通りの民に怒鳴り突っ切る。

兵舎の槍と剣を数本携え通りの住民が開けた道を走る。

右手に縄でまとめた数本の槍を抱え、右腰にも数本の剣を差し込み左手に一本槍を肩に乗せつつ腕を振る。

普通の槍や剣じゃ俺の使い方で折れてしまう。

数本持たなければ建業を出られるかわからない。


少し離れて後ろには兵舎から追ってきた赤を基調とした鎧をつけた兵が槍や剣を手に駆けている。

流石に呉の兵は鍛えられていてあまり離れない。


行く手に兵が数人待ち伏せていた。

まとめた槍を前方上に投げ、左手の槍を構えて斬り込む。

突き出された調練用の刃のない槍を体勢を低くして掻い潜り、兵の足を槍の柄で払った。

数人の兵は突きにより前の片足に体重がかかっている。

兵は前につんのめり、その合間をすり抜け上空から落ちてくる槍の束を脇に挟み込んで受け止めた。

追い付かれる前に走り出す。

まだ俺を登用するつもりなのか。

兵たちは俺を殺すつもりもないようだ。


この大通りを進めば自ずと城門に辿り着くはず。

しかし先に伝令が行って門が閉ざされていればどうしようもない。

それに行商や旅人が来ていない限り、日常そう頻繁に城門が開いていることもない。

なにも計画せずに飛び出した。

冷静に考えれば余程運が良くなければ敵の城など出られやしない。


どこか城壁に上がれる階段か梯子はないか。

こうなったら城壁から何とかして降りるしかない。

星に氣を利用して衝撃をやわらげる方法を学び、星のするように高いところから飛び降りたり、逆に高いところへ跳んでいく技術を得た。

まるで猫のように自在に動く星に憧れがあったのだ。

星みたいにまだ俊敏に動ける訳じゃないけど、運動神経系の氣の使い方では負ける気はしない。


街中だと城壁が見えにくい。

右手の路地から兵が飛び出してくるのを見てしゃがみ、左の飯店の屋根に向かって跳んだ。

氣を足から地面に一気に放出するイメージでふわりと浮かび屋根の高さを軽く越えて屋根に着地。

流石にここまで跳べる兵はいないらしく、民衆だけでなく兵にもどよめきが起こる。

ぐるりと城壁を見回し大通りの先に城門が見えた。

城壁の四隅は城外の監視のための楼閣がある。

そこには梯子か階段くらいはあるだろう。

即決して大通りに沿って城門に向けて走り出した。

城門向かって端の楼閣を目指す。

兵は登ってこれないために下から俺の後を追う。

家々を跳び移りつつ隅の出っ張り、楼閣に向かう。


ようやく楼閣に辿り着く。

追ってくる兵の姿はなかった。

屋根を跳び移り跳び移り移動したため、とても追い付けなかったのだろう。

楼閣の上に兵が俺に気づいて鉦を鳴らす。

あまり鳴らされると兵が集まってきて厄介だ。

梯子を使わず壁に向かって跳び、壁に一瞬張り付いてからまた跳んで楼閣の上に降り立ち、槍で打ち倒す。

楼閣から城壁に跳び移り、城壁から長江を探す。

長江をたどっていけば逆に進まない限り益州に辿り着く。

建業と長江は近い位置にあるはずだ。

城門から見て右手に遠く長江がある。

ということはこのまま真っ直ぐ行けば荊州を抜けて益州に戻れる。


さっき鉦を鳴らされたからすぐにでも兵が集まってくるだろう。

それなりに高い城壁を飛び降りる。

跳び上がるのとは逆に着地時に氣を地面に放出して衝撃を相殺するのだ。

川に向かって駆け、すぐ近くの林に入る。

一先ず水鏡先生の元へ向かおう。

騒ぎに巻き込むようで悪いけど、馬だけでも貸して頂きたい。


そこで長い経験から染み付いた感覚に立ち止まった。


「速いな。もう追い付いてしまうか」


林の中は木々の合間から光が差してまだ明るい。

肩に置いていた槍を穂先を下ろして周囲を睨む。

するとすぐに俺の前に周泰が現れた。


「黒薙様。城にお戻りください」


「戻る理由がない」


「理由ならあります。孫呉にはあなたが必要なのです」


「それはそちら方の理由だろう。私の理由ではない」


「孫策様や周瑜様があなたを想っていてもですか?」


その言葉には黙った。

周瑜はまだわからないが、孫策は本当に俺のことを想っているようなのだ。

それに俺も孫策に惹かれた。


「──やはり、敵。私とお前が敵なように、孫策とも周瑜とも私は敵なのだ。敵同士が馴れ合う。それではいけないのではないか?」


頭が固いのかもしれないけど、やっぱり先に立つのは敵同士。

俺は蜀で、孫策と周瑜は呉。

まだ敵対宣言していないとはいえ、味方かと問われれば味方とは言えないのだ。


「敵同士になる訳にはいかないのです。蜀も呉も今は争う場合ではないです。我々が争うことは魏にしか利がありません。あなたが蜀に戻れば、もしかしたら孫策様が蜀に宣戦布告するかもしれません」


確かに蜀と呉で争うべきではない。

魏は蜀と呉で争うのを傍観して、傷付きながらも倒した片方と戦えばいいのだ。


「それを回避するには、一時期でも孫策様と居てください。蜀に戻るのはそれからでも遅くないではありませんか」


「そういう早い遅い損得云々ではないのだ」


林を歩き出す。

周泰も背中の太刀の柄に手をかけつつそれを追ってくる。


「お前が私と同じ立場に立った。お前は敵の手を取るのか?」


「それとこれとは話が違います」


「違うか? 違う違わないの問題ではなかろう」


周泰の気配を背中に捉えつつ林の外を目指す。

林の中では忍びのような格好の周泰の方に分があるだろう。

こちらの土台に引き込まなくては。


「止まってください!」


当然、周泰はそれを阻止しようとする。

だけど止めることはできない。


「止めたければ斬ればよかろう」


周泰は斬りつけてこない。

歩き続け る俺にただついてくるだけだ。

孫策と周瑜が俺にホントに好意があるのなら太刀を抜くことはない。


「臣下として忠誠を誓う。私は当然のことだと思う。それは何故だと問われても答えられない、私の中では信念とも取れることだ。たとえ蜀呉で争うことになろうとも、孫策や周瑜が私に好意を抱いていようとも、忠誠を誓った主を私は裏切ることは絶対にしない」


周泰の言葉はなかった。

林を抜け、まだ歩く。

少し林から離れなければ引き込まれるかもしれない。


「周泰はどうなのだ?」


「私?」


「私がお前を迎え入れたい、と考えていたら」


周泰が目を見開く。


「本気でございますか?!」


「さて、どうかな。それはともかくとして、周泰。どうなのだ?」


周泰がまた黙った。

楽進と同じような真っ直ぐさが周泰から感じられた。

それは俺にはとても魅力で側にいてもらいたい、と思わせるものだった。


「──折角のお誘いですがお断り致します」


やっぱり断った。

味方につければとても頼もしいが、敵に回すと簡単には引き抜けないし手強い。


「なら、お前にも私の胸の内が分かるはずだ」


「黒薙様はお一人で国を変えられるお方です。私と比べられる器量ではございません」


一人で国を変えられる、そんな人はいない。

どんなに有能で器量人だとしてもだ。

臣下があって君主は立てるのだ。

それは曹操も孫策も同じだ。

だけど、それは今はどうでもいいことだ。


「器量の大きさなど関係ない。一人の臣が、一人の主にどれだけ忠節に仕えるか。それだけだ。器量ではなく忠義の堅さ。今の私にはそれだけが問題だ」


周泰が固まった。

たぶん考えているのだろう。

これからどうするべきか、俺が正しいのか間違っているのか。

間違っていると言われようと俺は気にしない。

俺は俺の道を進むだけだ。

それは曹操にも宣言したことだ。


「──なら、無理にでも建業に連れ戻します」


周泰が体勢を低くして構えた。

少なくとも俺の考えに共感した。

でなければ説得を諦めたりしない。

止められないとわかったから俺に太刀を向ける。


「そうか」


短く言って左手の槍を無造作に投げた。

槍は俺と周泰との間合いの地面に刺さる。

不意の行動に周泰は戸惑っているが、構えは解かない。


「やはりお前のような律儀者は私の前に立ちはだかるのだな。魏にも似たような者がいる」


右脇に抱えている束から何本か槍を抜いて右に投げる。


「そういう者を迎えたい、と私は思っているというのに断られる」


今度は上に数本放り投げ、周泰の背後に突き立つ。

最後の一本は側に刺す。


「黒薙様も私たちの誘いを断っております」


「──それもそうか」


思わず苦笑いした。

俺が断っておいて楽進や周泰が欲しいというのは我が儘か。


腰に差した剣を方々に放る。

それらは槍と同じく俺と周泰の回りに乱雑に刺さる。


「なら致し方ない。お前たちを打ち倒して蜀に帰るとしよう」


側に刺した槍を抜く。


「流石ですね。私以外にも気づいていましたか」


周泰の言葉と共に林から続々と音もなく間者らしき者たちが現れた。


「私を呼んでいるのだ。帰してもらう」


かの剣豪将軍・足利義輝は三好家の松永久秀に殺害された。

その時義輝は名刀の数々を方々に突き立てて迫り来る敵を名刀を換えつつ斬り倒していった。

しかし多勢に無勢、足利幕府復興の志半ばに倒れた。


俺は倒れる訳にはいかない。

呼んでいるから。

まだ不如帰(ほととぎす)に誘われる訳にはいかない。


「黒き龍 四方八方 不如帰 鳴く止め参る 比翼の鳥へ」

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