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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第十七章.従者の策と脱出
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定軍山の戦い3

「華琳様。長安から運搬された兵糧を天蕩山へ運び込みました」


「そう。ご苦労様」


考えていた私一人の幕舎に報告にやってきた秋蘭が頭を下げた。

その表情に疲れは見えないが、兵はそうもいかない。

特に輜重隊の士気の低さはひどいものだ。


漢中侵攻も既に三十日を裕に超えた。

こうも時が経てば兵も疲弊する。

それはどんなに練度の高い兵でもどうしようもないことだ。

しかも続け様に攻撃し、それを造作もなく跳ね返されることを繰り返されれば尚更だ。

現状、未だに山の頂上の城攻めをまともにできずにいる。


「潜伏している敵を探索中ですが尻尾すら掴めません」


長安からの補給線が乱されている。

突発的に現れては様々な方法で輜重の進行を遅らせていた。

落石もあったし、不定期に矢が射込まれたりもした。

士気が下がりもする。

輜重隊は神出鬼没な敵に怯えるばかりだ。


漢中攻撃がそもそも間違っていたのか、と思う時があった。

いくら用兵技術において並ぶものがいない黒薙がいないからといって、蜀には関羽も諸葛亮も元黒薙配下の呂布も張遼の姿もある。

優秀な将や軍師には事欠いていない。

こちらもそれは負けていない。

桂花や凛、凪たちもいるし最近頭角を現してきた司馬懿などはなかなか見所がある。

が、今は地形に恵まれていなかった。

地の利はあちらにある。


私は軽く頭を横に振った。


幸いなことに兵糧を貯蔵していた天蕩山の砦が健在だ。

黒薙と漢中でぶつかった後の去り際に兵を送っておいたのだ。

補給路が乱されたといえども北方で屯田した兵糧は遅れながらも送られてくる。

まだ漢中にいられる。

地の利があちらにあることくらい漢中に侵攻する前からわかっていたことだ。

一月でも二月でもここで粘れば隙は見えるはずだ。

国力ではこちらが圧倒しているのだ。

総力戦ではどう考えてもこちらが上だ。

本当に疲弊するのは蜀のはずなのだ。


「桟道の補修を急がせなさい。桟道を切られればしばらく補給が止まって天蕩山頼りになってしまうわ」


「存じております。於(おい)ては誰かに天蕩山の防御を任せた方が良いと思うのですが」


確かに今天蕩山の守将をしている韓浩だけでは心許ない。

誰か割いて守将をさせるべきか。


「──秋蘭。あなたが行きなさい」


「私が、ですか? しかし姉者は」


間を置いた私の言葉に秋蘭は少し目を見開いた。

姉の猪突を抑えられる秋蘭は必然的に春蘭と組むことが多かった。

連携も凪や真桜たち三人娘が対峙しても敵わないほどだ。


「わかってはいるのだけれど、桂花に任せられるとは思えないわ。他に割けるような娘はいない。春蘭の抑えは仕方ないわ、好きなようにやらせなさい。兵力だけは有り余っているのだから」


「承知しました。では次の兵糧搬入と共に天蕩山の守備に就きましょう」


「兵は三万もいれば問題ないでしょう。韓浩は副将としなさい」


───────────────────────


雛斗様はご無事なのか──それが気が気でなりません。

しかし今それを考えてはならない。

私の指示が少しでも遅れたり、間違えたりしようものなら後ろにいる兵や北郷殿にまで害を与えてしまう。


山の中腹の林に潜伏しています。

今は昼前で昼食も兼ねて休息をとろうと考えていました。

魏も昼食をとるはずで、その時間帯なら探索部隊も放たれている可能性は低いのです。


「いつになったら撤退するんだろうな」


林の合間に見える空を見上げながら北郷殿は言った。

意外に胆は太いのかもしれません。

今はまだ戦の最中でいつ探索部隊が来るとも限らないのだ。


「さて。曹操が本格的に兵糧に不安を抱いた時ですかね」


雛斗様ならどう考えるか思い浮かべながら言いました。


「本格的に?」


「軍議で朱里たちが仰っていた通り、魏には天蕩山があります。あそこに兵糧が運び込まれ、貯蔵されています。そこをなんとかしない限りは難しいのではないかと」


「天蕩山か。──俺たちで攻め奪ることはできないか?」


「厳しいですね。城攻めには城方よりも多くの兵が必要なので、私たちだけではどう考えても足りません。それに仮に攻めたとしても、攻めあぐねている間に本隊に感付かれてしまった時にはもう遅いです」


「やっぱり厳しいか──」


と言いつつも北郷殿はまだ考え続けています。

確かに天蕩山を奪ってしまえば、曹操軍は完全に袋の鼠です。

大きな鼠ですが、餌が足りなくなってじり貧になることは明確。

撤退せざるを得ないはずです。


「──しかし、考えてみても良いかもしれませんね」


雛斗様ならもしかしたら、とまた思い浮かべつつ口を漏らしていました。

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