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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
第十六章.定軍山の戦いと真の忠臣
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裏切らないために

蜀と魏が漢中で戦闘中。

その戦況を知りたくて、飛び出したくてたまらなかった。

しかし、飛び出したところで連れ戻されるのは目に見えている。

部屋に備えられた椅子に座り、腕組みをしてじっと考えていた。

外はまだ明るく、昼にもなっていない朝方だ。

こんな時でも天気もよく、窓から遠く建業の城壁が見えるほどだ。


俺が蜀から出国して十日を裕に過ぎた。

約束の日を過ぎて桃香がみんなに知らせているはず。

俺がいなくとも蜀の天然の要害をもってすれば、魏を打ち払うことはできるはずだ。

俺が懸念しているのはその次だ。


蜀の呉攻撃。

前にある丸卓をどこを見るともなく見つめる。

愛紗や星が感情に任せて攻撃してくるんじゃないのか。

俺が最も心配している予想だ。


だから俺は魏と蜀の戦が終わるまでになんとしてでも蜀に帰らなければならない。

もしくは蜀と連絡をとって呉と争うことを止めなければならない。

呉も今蜀と戦に持ち込まれるのは不本意なはずだ。


しかし監視は思った以上に厳しい。

扉の外の警備兵は二人必ず置いているし、二階であるこの部屋の窓から降りようにも兵が常時待機している。

建業の城内ということもあり、警備兵も選りすぐりの者を選んでいるだろう。

武器のない状態……一応格闘戦もできるけど……では借りに部屋を出たとしても、多人数戦だとやはり厳しい。


蜀と関係悪化になるにも関わらず、こうも監視を厳しくするか。

そこまでして俺を登用したいのか。


「どうしたものか……」


呟きながら目を閉じて膝に肘をついて眉間に組んだ両手を当てた。

口に出さずにはいられなかった。

すぐにでも漢中に駆けつけたかった。

曹操と対峙したいというのもあるけど、その前にみんなに顔を見せて安心させてやりたかった。

そのためだったら愛紗や霞に殴られても構わなかった。


───────────────────────


「真っ直ぐな目をしている。この時代では驚くほどに澄んだ目だ」


冥琳が思わずといった様子で肩を竦めた。

廊下の窓からはまだ高い位置にある陽の光が床を照らしている。


「引き込まれそうでしょ? あの黒い瞳に」


「というより、羨ましくなるな。ああいう目になれることが」


「あなただって私に一筋なくせに」


「今は黒薙に一筋だがな」


「そう言うと思ったわよ」


冥琳は私が笑うのにつられて苦笑した。

黒薙の登用をしてきたところだった。

もちろん失敗している。

手応えは微塵もない。


「私についてはまだ正体がわからぬようだが、それもいつ割れるか知れたものではない」


「あら、ばれそうなの?」


「あの目が私を探っているように思えて仕方ない。それに、形勢はこちらが有利だというのに、頭ではわかっているのに黒薙に圧倒されている」


それは私もわかる。

黒薙の目は人を惹き付けつつも、逆に明確な敵に対しては普通の人では息を飲んでしまうほど凛とした威圧をする。

以前、汝南や夷陵で会った時とは全く違う。


「彼、変わったわね。今は道を真っ直ぐ見てるもの」


「黒塗りの槍は義理を貫く忠義の神髄、か。謳い文句もあながち間違いではないか」


名将黒龍黒薙の誉め言葉だ。

あれが流れ始めたのは反董卓連合軍が解散してから少し経った頃か。

黒薙が徐州にいた劉備に客将としてついて、数が上の太守の軍をいとも容易く打ち払った。

あれで一躍有名になった。

そうでなくとも公孫瓚についていた頃に袁紹の軍を追い払ったのだ。


「で、その忠義の向く劉備軍は今はどうしてるの?」


「漢中の天険を上手く利用して魏軍を防いでいる。黒薙がいなくとも蜀には諸葛亮や龐統がいるだけあって、流石に苦戦はない」


黒薙がここにいると知ってか知らずか、曹操は蜀を攻撃した。

黒薙を捕縛してそう時が経っていない。

たぶん、黒薙が私の手元にいるのを知って攻略に踏み切った。

呉は今、占領したばかりの交州の発展に余念がないのだ。

つまり、蜀攻略の間に呉から邪魔を受けることがないのだ。

絶好の時を狙った攻撃だ。

しかし、蜀はあらかじめそれを予測していたようだが。


「でも、魏は大軍よ。防いでるだけじゃ勝てないでしょ?」


「魏は大軍故に兵糧の消費が著しい。防戦一方の蜀より、追い詰められているのは攻撃している魏だな」


「山じゃ大軍は活かせない。地形には勝てない、か。じゃあ次は?」


今の戦況では蜀に軍配が上がりそうだ。

と、したら蜀は次にどうするのか。


「できるだけ黒薙の登用を急がせたいが」


「なかなか難しいでしょうね。黒薙自身、私たちに捕まっててどうなるかわかってるはずだけど」


私の言葉を聞いて冥琳もため息をついた。

恐らく黒薙が今こちらにいることは蜀は既に知っているはずだ。

なら、魏を追い払った後は呉に攻めてくる可能性が出てくる。

間者の報告を聞く限り、黒薙を慕う者は数多くいるようだし。

そして私たちは、今は蜀と事を構えたくはない。

今はまだ大軍の魏がいつ牙を剥くとも限らないのだ。

いくら蜀が魏を追い払ったといえども、国力の高い魏はすぐに戦の傷を回復して出陣可能になるだろう。

蜀と呉で戦をして、どちらかが勝った方を魏は攻めれば良いのだ。

南で共倒れになる訳にはいかない。

だからといって折角手元にいる黒龍を手放したくない。


「わかってても黒薙の信条が許さない、か」


冥琳がまた息を吐いた。

蜀呉で戦をする訳にはいかないことは、黒薙もわかってるはず。

だったら呉に登用されてしまえば良い。

黒薙が呉につけば、蜀も手を出しにくいはずだ。

黒薙にも考えがある、と少し様子見に移るかもしれない。

最悪な事態はとりあえずは回避される。


しかし、黒薙は首を縦に振らない。

それも子供が駄々をこねるようなものでもない。

黒薙は人として道を違(たが)えない、と自身の信条を貫いているのだ。

まるで一本の心根の槍を真っ直ぐ突き立てたまま傾けないように。


「蜀が攻撃じゃなく、交渉で黒薙の返還を求めるならまだ余地はあるのだけれど」


「ともかくまだ魏と蜀が戦っているうちは先が読めない。蜀が魏を対処した後の行動でこちらの対処法を考えるしかない」


冥琳が会議の部屋の扉を開いた。

既に蓮華や穏は席についている。

まず話し合われるのは内政関連、次に軍事関連、そしてやっぱり黒薙だろう。

蓮華にまた黒薙について愚痴を言われるのか、と少しうんざりしながら奥の席に向かった。

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