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父が意識を失くして、六日経っていた。
自宅での段取りも片付き、交代で帰宅する妹の為に風呂を沸かし、一人で一息ついている時だった。
携帯が鳴る。
その音が何を伝えるものか、予想は当たりだった。
「お姉ちゃん!」
妹の泣き声だった。
急いで支度をし、車を飛ばした。
私が病院に着いた頃には、父は既に息を引き取り死体となっていた。
周囲の泣き声など、雑音にしか聞こえなかった。
伯母が急ぎ、私を病室に入れてくれた。
浮腫も引き、綺麗に真白く、眠りについた父を眺めた。
ベッドにしがみつき、延々と泣く祖母が、哀れだった。
一言、
「お父さん、おつかれさま。」
と言って、私は少し離れた所で立ち尽くすだけだった。
もう、父に話す事はなかったから。
実は、父が亡くなる数日前の深夜、病室に私と父が二人きりになった。
私はそっと父の手を握り、こっそり約束をした。
「大丈夫、心配しないでね。これから私、ちゃんとお母さんを支えて、しっかり妹引っ張ってくからね!だから安心して眠ってね。私、家を継いでずっとお父さんの側にいるからね。」
さようなら、とは言わなかった。
父の魂と別れるつもりなどなかった。
死んだのは、父の肉体なんだから。
祖父の段取り通り仮通夜が行われ、明日の朝、私は火葬場に居た。
火葬のスイッチを押す役目は祖父が引き受けた。私は、棺にしがみつき泣き叫ぶ母と妹を棺から引き離すのに必死だった。