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祖父母、親戚、母に妹。みんな泣いている。
私は、まるで傍観者だった。
医師に呼ばれ、面談室に入る。二枚のMR写真を見せられた。
素人目でもわかる程に、そのMR写真は別人の物じゃないかと疑う程だった。
父の病名は
「解離性クモ膜下出血」
ごく稀なケースらしい。普通、クモ膜下と言うと脳内の血管にコブのような腫れができ、MRにそのコブがはっきり写る。
だが父は違った。3層になっている脳下の1番太い血管が内側から順番に裂け、最終的に破裂した。
母と妹が荷物を持って病院に戻った直後、父の脳血管は破裂し、心臓、呼吸が止まった。
破裂前のMR写真にはしっかりと脳の皴まで綺麗に写っていた。
しかし二枚目、破裂後のMR写真は、血びたしで脳の皴など見えなかった。ただ白く丸い塊が写っていただけだった。医師に
「脳死の場合の臓器提供意志表示カードはお持ちですか?」
と聞かれた。
答えはノーだった。
だがその時点で、私は父はもう死ぬのだと、覚悟した。
医師は
「非常に厳しい状態ですが、出来る限りの努力をさせて頂きます。」
と言っていた。
私は誰にも見つからない場所で、一人で泣いた。悲しいとか、そんなんじゃない。
不安でどうしようもなくなり、声を殺して泣いた。
後にも先にも、私が泣いたのはこれが最初で最後だった。
死神は何故、父を選んだのか。普段から死にたがり、何度も自殺に失敗している私を差し置いて。
少し煙草を吸って、気を落ち着かせ、何事もなかったかのように、病室に戻った。
鼻をすすっていたら、母に
「あら、風邪でもひいた?」
と言われた。
さすがだなと、思った。私は滅多に人前で泣かない。私は強いから。
クリスマスイブだった。親友からパーティーのお誘い電話が鳴る。
私はすごく普通の事の様に、状況を話した。親友は泣いてしまった。私の性格をよく知っているからだろう、
「大丈夫?無理しちゃだめだからね、気ぃ張り過ぎちゃだめだからね!」
親友の方が必死だった。