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13 こんばんはさようなら


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 須桜に投げつけられたという紙を開く。吉江のものであろう字の他に、丸みの強い須桜の字があった。

 それに目を通し、紫呉は息を吐く。胸糞の悪い話だ。

「……なるほどね。事情は掴めました」

「やっぱこいつらが星だったか。すげえな俺の勘」

 笑いながら、影虎は見取り図を広げる。

「で、どうするよ?」

「……屋内をお願いします。影虎の方が詳しいでしょう。僕は外を狙う」

「了解」

「黒器は不使用で。強盗の体を装いましょう」

 今回は破天がらみの事件ではない。

 なのに黒器を使用すれば、鳥獣隊の事が明るみに出てしまう。

「分かった。んじゃ、須桜には女の子達逃がしてもらうとするか」

「ええ、そうですね」

 薄く笑う影虎の目には、戦闘に対する押さえきれない高揚が浮かんでいた。

 おそらくは、己も同じ目をしているのだろう。

 身の内を這うこの情動は、吉江たちに対する憤りだけではない。

 懐には小刀がある。予備もだ。

「では、行くとしましょうか」

 その固い感触を確認し、紫呉は立ち上がった。








 屋敷の西側、先日影虎が撤去したという有刺鉄線を見上げる。

「門は俺が開けとく。帰りは普通に門から出られるぜ」

「頼みましたよ」

「ああ。んじゃまた後でな」

 影虎と軽く拳を合わせ、紫呉は地面を蹴った。

 庭に降り立ち、木立の中に身を潜める。

 懐の小刀に手を伸ばすと、左手首の黒器がぱちりと爆ぜた。

「……黙れ牙月」

 水晶の数珠は淡い光を発しながら、ばちばちと音を立てる。紫呉は右の手で黒器ごと手首を握りこんだ。

「黙れ。お前の出る幕じゃない」

 ばち、と一際大きく爆ぜて、牙月は鎮まった。皮が裂け、手首から血が滴る。

 紫呉は舌を打って、流れる血を舐め取った。

「……なあ、今何か音がしなかったか」

「そうか?」

 ちょうど前を通った警備員が提灯で辺りを照らす。

(……この駄犬が)

 心中毒づきつつ、紫呉は小刀の鞘を払った。

 木立から躍り出て、男の胸元に小刀を刺した。

 提灯が落ちる。灯が消えた。

 もう一人の男が声をあげる前に腹を蹴りつける。

 倒れた男の胸元から小刀を抜き、腹を抱える男の背後に回る。口を押さえ、首を裂いた。

 腕の中の男の身体が重みを増す。男はずるりと地面に沈み込んだ。

 二人の男の懐から財布を抜き出す。

 落ちた提灯を踏んで灯を消す。小刀の血を袖で拭い、玄関口へ向かった。

 玄関前で男は眠たげに欠伸をしている。素早く側へ接近した。

 口を塞ぐ。男の目が見開かれる。胸を刺した。男の緑の虹彩に、紫呉の姿が映っていた。

 ふ、と男の目が輝きを失う。

 小刀を払うと、男はどさりと音を立てて倒れた。

(あと三……いや、四人か)

 男の懐から財布を抜き出した。

 手と刃に付着した血を男の着物で拭い、紫呉は詰め所を目指した。



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